以て(読み)モッテ

デジタル大辞泉 「以て」の意味・読み・例文・類語

もっ‐て【以て】

[連語]《「も(持)ちて」の音変化》
(多く「…をもって」の形で格助詞のように用いて)
㋐手段・方法を示す。「誠意以て交渉に当たる」「書面以て申し入れる」「好意以て迎えられる」
㋑原因・理由を示す。「過失の故を以て責めを負う」
㋒事の行われる時を示す。「九月一日を以て防災の日とする」
㋓くぎり・限界を示す。「これを以て終了させていただきます」
語調を強めるのに用いる。「いよいよ以て承知できない」「まことに以て残念なことだ」
(「でもって」の形で)
並列添加の意の接続助詞のように用いる。…のうえに。…かつ。「安価で以て質の良い品物」
㋑格助詞」を強める意を表す。「人手不足を技術で以て補う」「会議で以て決定された」
[接]漢文における「以」や「式」の訓読から生じた語》そして。それによって。それについて。→も(以)てもち(以)て
「天地の間にあるよろずの物を資り、―衣食住の用を達し」〈福沢学問のすゝめ

も‐て【以て】

[連語]《「も(持)ちて」の音変化》
手段・材料を表す。…によって。…で。
我妹子わぎもこが形見の衣なかりせば何物―か命継がまし」〈・三七三三〉
語調を強めるのに用いる。 →もっ(以)て
「貧しき者はたからを―礼とし」〈徒然・一三一〉
[補説]12とも「をもて」の形でも用いられる。
[接頭]動詞に付いて、その意味を強めたり、語調を整えたりするのに用いる。「以てあつかう」「以てはやす」「以てさわぐ」

もち‐て【以て】

[連語]《動詞「も(持)つ」の連用形+接続助詞「て」。「をもちて」の形でも用いられる》道具・方法・材料などを表す。…でもって。
「人見ずは我が袖―隠さむを焼けつつかあらむ着ずて来にけり」〈・二六九〉

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「以て」の意味・読み・例文・類語

もっ‐て【以て】

(動詞「もつ(持)」の音便形に接続助詞「て」の付いたもの)
[1] 〘連語〙 動詞本来の意味が次第に薄れて、助詞のように用いられる。
[一] 格助詞的用法。「をもって」の形で用いられることが多い。
① 手段・方法・材料などを示す。…で(もって)。…によって。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)八「善を以て衆生を化し、正法をもちて国を治め」
② 原因・理由を示す。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一「時に仏の威力を以て、其の室忽然に広博厳浄になりぬ」
③ 動作の行なわれる時を示す。
今昔(1120頃か)二四「速に返り給て、後に吉日を以て坐(ましま)せ」
④ 単なる強めとして用いる。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一〇「水を以て其の身に灑ぐ」
咄本・鹿の巻筆(1686)二「障子屋が子砂糖売、いかにももって似合わしき」
⑤ 動作・作用の行なわれる際の状態を示す。
※青年(1910‐11)〈森鴎外〉五「優等の成績を以(モッ)て卒業しながら」
[二] 接続助詞的用法。ながら。
※虎明本狂言・川上(室町末‐近世初)「男は、はいもってにげ入、かくのことくもいたし候」
[2] 〘接続〙 漢文において接続詞的に用いられた「式」「以」字を訓読したもの。そして。それによって。もて。
福翁自伝(1899)〈福沢諭吉〉雑記「富国強兵以て世界中に後れを取らぬやうにしたい」
[語誌](1)中古の和文資料では「以て」の用例は乏しく、「心もて」の形をとるものがほとんどであり、他に「言ひもて行く」のような例が見出せる程度である。ただし、格助詞「を」を欠いており、漢文訓読における「以て」とは異なると見られる。
(2)この語は漢文訓読から生じた語法を中心とし、多くが「をもって」の形の助詞的用法であるが、変体漢文の語法に影響したと見られるものもある。例えば、「ヲ以テ…シム(ス・サス)」は「以…令…」と関係し、副詞の下に「以」を置く「甚以神妙」〔御堂関白記‐長保六年(一〇〇四)二月五日裏書〕のような例は、変体漢文において極めて顕著な「以」の用法である。
(3)「以て」と書かれたもののよみは「もちて」「もって」「もて」いずれとも決しがたいので、ここで扱った。

も‐て【以て】

[1] 〘連語〙 (「もちて(以━)」の変化したもの) 動詞「持つ」の本来の意味が薄れて、助詞のように用いられる。
[一] 格助詞的用法。「をもて」の形でも用いられる。
① 手段・方法・材料などを示す。
※万葉(8C後)一五・三七三三「我妹子が形見の衣なかりせば何物母弖(モテ)か命継がまし」
② 単なる強めとして用いる。
※平家(13C前)四「南京・北京ともにもて如来の弟子たり」
[二] 接続助詞的用法。動詞の連用形をうけて、下の動詞に続く。下の動詞は「ゆく」の類に限られる。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「この御子のおよずけもておはする御かたち、心ばへ、ありがたく珍しきまで見え給ふを」
※平家(13C前)三「風は中御門京極よりおこって、〈略〉四五町十町吹きもてゆき」
[2] 〘接続〙 (「もって」の促音の無表記から) =もって(以━)(二)
※大唐西域記長寛元年点(1163)一「遂に伽藍を建て式(モ)て美迹を旌(あら)はし」
[3] 〘接頭〙 動詞の上に付いて微妙なニュアンスを与え、または意味を強める。「もてさわぐ」「もてつどう」「もてはなる」など。
※源氏(1001‐14頃)若紫「なべてならずもてひがみたる事、好み給ふ御心なれば」
[補注]「以て」と表記されたもののよみは「もちて」「もって」「もて」のいずれとも決めがたいので、便宜上「もって(以━)」の項で扱った。

もち‐て【以て】

〘連語〙 (動詞「もつ(持)」の連用形に接続助詞「て」の付いたもの) 動詞本来の意味が次第に薄れて、格助詞的に用いる。「をもちて」の形で用いられることが多い。
① 手段・方法・材料などを表わす。…で(もって)。…によって。→補注(1)。
※続日本紀‐天平元年(729)八月二四日・宣命「浄き明き心を持(もちテ)波波刀比(ははとひ)供へ奉るを」
② 原因・理由を表わす。→補注(2)。
※竹取(9C末‐10C初)「何をもちてとかく申すべき」
③ 単なる強めとして用いられる。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)六「世尊是の経王の威神力を以(モチ)ての故に、是の時に隣の敵に更に異し怨有りて而も来て侵擾せしむ」
[補注](1)①の例は動詞として訳すこともできる点で、未だ完全に助詞化しているとはいいにくいが、格助詞「で」とほとんど等価値である。
(2)②の例は、①の意としても理解できるが、抽象化が一層進んでいると思われる。

もう‐て【以て】

〘連語〙 (「もって」の変化したもの) =もって(以━)(一)(二)
※虎寛本狂言・縄綯(室町末‐近世初)「私は持病の脚気が御ざって、こなたへさへ能々(やうやう)とはいもうて参りまして御ざる」

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