仏紙銃撃テロ事件(読み)ふつしじゅうげきてろじけん

知恵蔵 「仏紙銃撃テロ事件」の解説

仏紙銃撃テロ事件

2015年1月7日昼前(現地時間)に、フランス・パリにある風刺週刊紙「シャルリーエブド」の本社を、銃で武装したイスラム過激派が襲撃した事件。事務所に居合わせた同誌編集長やコラムニスト、マンガ家など警護警官2人を含む12人が殺害された。
同紙の前身は1960年刊行の左派的月刊誌で、幾度かの発禁処分を受けて92年に週刊となった。痛烈な記事と風刺画を売りにし、イスラム教の預言者ムハンマド揶揄(やゆ)する記事を掲載してきている。このことに対する抗議脅迫も度々あり、2011年には火炎瓶が投げ込まれる事件もあった。それでも同紙は「表現の自由に制限はない」として、事件の直前の号でもジハード(聖戦)にくみする者を挑発するかのような風刺画を掲載している。
事件の容疑者は2人とも30代前半のイスラム過激派で、フランスで生まれたアルジェリア系の兄弟。05年にイラクに過激派を送り込んだ事件にも関与していたとされる。事件2日後の9日朝、逃走中の兄弟はパリ北西の町にある印刷工場に人質を取って立てこもり、警察部隊と銃撃戦の末に射殺された。
この襲撃事件で厳戒態勢が敷かれた同月8日朝、パリ南方の郊外で発砲事件が起き、交通トラブルで出動中の女性警官が射殺された。こちらの事件の容疑者もイスラム過激派で仏紙事件と連動したものと見られる。翌9日昼ごろ容疑者はパリにあるユダヤ人商店に押し入り、客や従業員を人質に立てこもった。容疑者が夕刻礼拝でひざまずいた隙を狙って警察部隊が突入、容疑者を射殺した。この事件でも4人の市民が死亡した。
フランス大統領ほか、各国首脳はこれらの連続した事件を憂慮(ゆうりょ)し強く批判している。その一方、イスラム国(ISIS)やアルカイダ系組織は同紙を「ムハンマドを侮辱した」と非難、容疑者らを「英雄」と称揚(しょうよう)している。
フランスには多数のユダヤ人が社会を形成している。これと共に、旧植民地から労働力として多数の移民を受け入れた結果、北アフリカなどから多くのムスリム(イスラム教徒)が移住した。彼らはフランス社会の中で様々な差別や迫害を受けると共に、パレスチナ問題などによって互いに排斥しあっている。こうした中で、近年一部の若いムスリムが先鋭化したり、ユダヤ人を憎悪したりといったことが社会問題化している。12年3月にも、フランス南西部トゥールーズ近辺でアルカイダ系ムジャヒディーンを名乗る青年が、兵士やユダヤ系学校を狙った連続発砲事件を起こしている。
シャルリーエブド紙は排外主義をあおるものだと度重なる物議を醸(かも)してきたが、今回の事件では被害者として一部市民の支持も受けた。同14日には表紙に「全ては許される」と大書し、預言者ムハンマドが「私はシャルリー(Je suis Charlie)」と書いたカードを掲げて涙する構図の「生存者号」を新たに刊行。通常数万部の同紙が、各国語で数百万部を発行した。これについては、テロに反対するジャーナリスト団体やイスラム教指導者、ローマ法王も「他人の信仰について挑発したり、侮辱したり、嘲笑したりすることはできない」と強く批判、アフリカなど各国で抗議のデモが起きた。

(金谷俊秀 ライター/2015年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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