仁王経(読み)にんのうきょう

精選版 日本国語大辞典 「仁王経」の意味・読み・例文・類語

にんのう‐きょう ニンワウキャウ【仁王経】

(「にんのうぎょう」とも) =にんのうはんにゃきょう(仁王般若経)
※枕(10C終)二〇九「経は 法華経さらなり。〈略〉薬師経。仁王経の下巻

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「仁王経」の意味・わかりやすい解説

仁王経
にんのうぎょう

仏教経典。二巻。『仁王護国般若波羅蜜多経(ごこくはんにゃはらみったきょう)』『仁王護国経』『仁王般若経』などともよばれ、鳩摩羅什(くまらじゅう)の漢訳と不空(ふくう)の漢訳との二部が伝えられている。天台宗は前者を用い、真言宗は後者を用いる。この経は八品(ぽん)(章)からなっており、その主旨は、大乗仏教の般若思想を強調するものであるが、それと同時に、なかに「護国品(ごこくほん)」なる一品があり、護国思想および鎮護国家の必要性を強調していることが特色である。このために、平安初期の真言、天台の両宗はこぞってこの経を重視し、この経典をもとにして仁王会(にんのうえ)などの法会(ほうえ)を修し、国家の安泰を祈願し、現在まで続いている。『大正新修大蔵経(たいしょうしんしゅうだいぞうきょう)』第八巻に前記二部の漢訳経典が収められている。

 なお、不空訳の『仁王経』儀軌(ぎき)をもとに描かれた『仁王経曼荼羅(まんだら)』(平安時代作)が醍醐寺(だいごじ)にある。

加藤精一

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改訂新版 世界大百科事典 「仁王経」の意味・わかりやすい解説

仁王経 (にんのうきょう)
Rén wáng jīng

《仁王護国般若波羅密経》の略称クマーラジーバ(鳩摩羅什)訳と唐の不空訳がある。諸種の般若経典終結をなす結経とされる。国土安穏,国家隆昌を仏教の本義から説くもので,《法華経》《金光明経》とともに鎮護国家の代表的経典である。上下2巻,8品よりなる。ただ,本経は古来,中国撰述,つまり偽経の疑いが指摘されている。魏晋南北朝期の仏教と道教,仏教と国家権力との複雑な交渉,さらに空思想が関係して中国で成立した可能性がある。
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百科事典マイペディア 「仁王経」の意味・わかりやすい解説

仁王経【にんのうきょう】

仁王経または仁王般若経と略される経典は二つある。(1)鳩摩羅什(くまらじゅう)(クマーラジーバ)訳,2巻。《仁王般若波羅蜜経》が正称。(2)唐の不空(ふくう)訳,2巻。《仁王護国般若波羅蜜多経》が正称。ともに護国安穏のためにはこの経を受持・読誦(どくじゅ)すべきことを説いたもの。仁王会(にんのうえ)では多く(1)を使用。なお仁王経はサンスクリット原典もチベット語訳も現存しておらず,中国での偽撰とする見解がある。
→関連項目鎮護国家

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「仁王経」の解説

仁王経
にんのうぎょう

「仁王般若波羅蜜経」(姚秦(ようしん)の鳩摩羅什(くまらじゅう)訳)・「仁王護国般若波羅蜜多経」(唐の不空訳)の略。法の滅び尽きるとき水火・賊盗・疾疫・戦争などの災厄がおきるが,これを免れ国家を安穏にするためには般若波羅蜜を受持し講説しなければならないと説く。「法華経」や「金光明最勝王経」とともに護国の三部教の一つとされ,勅会(ちょくえ)である仁王会や仁王経法の典拠となった。

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世界大百科事典(旧版)内の仁王経の言及

【仁王会】より

…仁王般若会,仁王経会ともいう。護国三部経の一つである《仁王経》を所依とし,100の仏菩薩像と100の高座を設け,100人の僧を請じ,鎮護国家・万民快楽などを祈願した勅会。…

※「仁王経」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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