人工細菌(読み)じんこうさいきん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「人工細菌」の意味・わかりやすい解説

人工細菌
じんこうさいきん

人工的につくられた、自己増殖する細菌ヒトの全遺伝情報ゲノム解読に携わったアメリカのクレイグ・ベンターJohn Craig Venter(1946― )の研究チームが2010年に世界で初めてつくりだした。クレイグ・ベンターのチームは、実験的に操作しやすいマイコプラズマという細菌の遺伝情報をまねた人工ゲノムコンピュータで設計。ゲノムを構成するDNA断片化学合成し、これを大腸菌などのなかで1本につなげて人工ゲノムをつくった。これを別の細菌に移植したところ、マイコプラズマと同じタンパク質をつくりだし、細胞分裂して自己増殖を繰り返した。この実験結果はアメリカの科学雑誌『サイエンスScienceに掲載された。

 既存遺伝子を組み換える従来の手法と比較して、遺伝情報の段階から自由に設計して有用な生物をつくりだすことができるという可能性を秘めており、遺伝子工学革新をもたらす技術である。ワクチンバイオ燃料の効率的製造、新たな食品化学物質の開発、二酸化炭素を高効率で吸収する細菌づくりなど、広く産業分野への応用が考えられ、有用な医薬品開発や食糧・エネルギー問題の解決につながるとも期待されている。

 一方、自然界に存在しない人工細菌をいかに隔離された施設内に閉じ込めておくかといった安全対策も求められている。生物兵器への転用や安全性確保などを危惧(きぐ)する意見もあり、地球上に存在しない「人工生命」につながる技術で、人類が未知の生命を生み出してよいのかといった生命倫理の問題を提起した。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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