亥子(読み)いね

精選版 日本国語大辞典 「亥子」の意味・読み・例文・類語

い‐ね ゐ‥【亥子】

〘名〙
十二支の、最初(子)と最後(亥)に位するもの。
② 昔の時刻の名。奈良・平安時代定時法では、現在のおおよそ午後九時から翌日の午前一時までの間。鎌倉時代以降の不定時法では、現在のおおよそ午後六時すぎから九時半頃まで。
源氏(1001‐14頃)浮舟「ゐねのときにはおはしつきなん」
方向の名。亥(い)と子(ね)の間で、真北から少し西へ寄ったところ。
※俳諧・犬子集(1633)一「歳徳亥子の方なりければ 米俵をえ方はいねの間かな〈一定〉」

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改訂新版 世界大百科事典 「亥子」の意味・わかりやすい解説

亥子 (いのこ)

近畿以西の各地で今なお盛んに行われている旧暦10月亥の日の行事。秋の収穫祭である。関東地方では10月10日の十日夜(とおかんや)がこれにあたる。正月11日の仕事始や旧暦2月亥日などに田へ出た田の神が1年間の仕事を終えて帰るといい,家では新米の餅12個を枡に入れ米蔵の俵へ供えてまつる(但馬佐渡)。このとき子どもたちが各家々をまわり,石やわらづとで地面をたたく亥子突きをしたりして,亥子餅やお金などをもらう。亥子の石突きをしてできた跡はことさら踏まないようにした(広島県,岡山県)。亥子の石突きの跡が田の神の訪れた証拠であるとみなしたのである。そしてこの日は〈亥子の荒れ〉といって風雨があるという。このほか,亥子にはダイコンが大きくなるのでダイコン畑へ入ってはならぬとか,こたつをこの日から出すともいう。なお,愛媛県では亥子に正月の神さんがニワまで帰るといい,また岡山県でも大晦日を総亥子ともいっており,亥子は大正月と深い関連がある。
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百科事典マイペディア 「亥子」の意味・わかりやすい解説

亥子【いのこ】

旧暦10月の亥の日の行事。近畿以西の各地で盛んで,新穀でつくった亥子餅(もち)を祝うほか,亥子突きと称して子どもたちがわら束や石で地面を打ってまわる。本来は秋の収穫祭として行われたもので,中部以東では旧暦10月10日夜の十日夜(とおかんや)がこれに当たり,やはり子どもがわら束で地面をたたいてまわる行事がある。
→関連項目収穫祭節供

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世界大百科事典(旧版)内の亥子の言及

【田の神】より

…祭日も農耕の段階に応じて春秋に分布し,とくに田植時に盛んにまつられ,秋は稲の刈上げにまつられる。〈さなぶり〉〈さのぼり〉〈さおり〉〈さんばい降(おろ)し〉などは前者の例であり,西日本から太平洋沿岸を千葉,茨城,埼玉の一部にわたって分布する亥子(いのこ)や関東北西部から甲信越地方に分布する十日夜(とおかんや)は後者の代表的なものである。田の神の石像が南九州に限って分布するのが注目される。…

【モグラ(土竜)】より

…このため収穫の終りに土を打ってモグラをおどし,遠く去らせる呪法が広く行われてきた。西日本で亥子(いのこ)といって十月亥の日に餅をついて農神に供え,子どもたちが円形の石に縄をかけて多くの枝縄をつけ,歌をうたいながらこの縄を同時に引いて石をもち上げては落とし,これで地を打ってモグラをおどすのはモグラの跳梁(ちようりよう)を防ぐ呪法の儀礼化である。東日本では10月10日を十日夜(とおかんや)と呼んでわら束を固く巻いて子どもたちがその一端をもって地面をたたいてまわり,あるいはモグラ打ち,わら鉄砲などといって土を打つ音を高く響かせるのも同様の意味をもっている。…

※「亥子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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