日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
交易(売買の古代的用語)
こうえき
売買の古代的用語。「きょうやく」とも読む。一般に物品の売買は古代でも行われていたが、律令(りつりょう)時代においてとくに重視されるのは、中央では官司、官人の交易で、地方では国衙(こくが)の交易であろう。律令時代の中央財政は、現物で租税として徴収した物品を中央に集中し、現物で官司、官人に分配するシステムを基本としていた。しかしこのシステムでは、収入と支出の不均衡が生じざるをえず、また組み込みえない物品(たとえば生鮮食料品)も出る。こうした矛盾を解決する手段として、都城の東西市や、その機能を補完する各地の流通経済上の要地(中央交易圏)における交易が行われた。官司や官人は、必要物資を入手するために各地に「庄(しょう)」を置き、必要に応じて「交易使」を派遣した。中央での交易は銭で行われたため、官司や官人は銭財源を用意しておく必要があった。平城宮出土の木簡(もっかん)にみえる「西市司(にしのいちのつかさ)交易銭」はその一例であろう。
一方、国衙では、定められた品目数量の物品を、調(ちょう)、庸(よう)、土毛(どもう)(その土地の産物)、諸国貢献物(しょこくこうけんもつ)その他の税目で中央に進上しなければならなかった。それらの物品は正税(しょうぜい)、郡稲(ぐんとう)や代納物を財源として、国衙近傍の市や中央の市で交易し、品目数量を整えて納入した。これが平城宮出土の木簡や正倉院古裂(こぎれ)銘文にみえる「国(官)交易」である。この国衙の交易はその後拡大し「交易雑物(こうえきぞうもつ)制」として定着した。
[栄原永遠男]