亜鉛合金(読み)あえんごうきん(英語表記)zinc alloy

改訂新版 世界大百科事典 「亜鉛合金」の意味・わかりやすい解説

亜鉛合金 (あえんごうきん)
zinc alloy

亜鉛を主体金属とする合金の総称。亜鉛合金として最も重要なのは亜鉛-アルミニウム(Zn-Al)系合金で,用途としてはダイカスト用が多い。この合金はザマックZamakとも呼ばれる。亜鉛に約4%のアルミニウムAlと,少量の銅Cu微量マグネシウムMgを添加したもので,JISで規定されているZDC1とZDC2もこの系統の合金である。Alは,合金の強さを増し,湯流れをよくするとともに,ダイスなど鋼でつくられているダイカスト設備が溶湯によって浸食されるのを減らす役割もする。Cuは強さと耐食性を向上させる。亜鉛合金は,鉛Pb,スズSn,カドミウムCdなどの不純物があると粒界腐食(金属材料中に存在する結晶粒の境界に生ずる腐食)を起こし崩壊しやすいので,亜鉛地金は高純度のものを使用する必要がある。微量のMgの添加はこの粒界腐食の防止に役立っている。鋳造温度は約400℃と低く,形状の複雑なものや薄肉のものもつくることができ,各種機器の部品としてきわめて広い用途をもつ。また,プラスチック成形の金型などに使用される型用亜鉛合金があり,ZASと呼ばれるものはAl4%,Cu3%,Mg0.03%のものである。長大つり橋のケーブル端部の固定用のソケット合金としては,Cu1~2%のZn-Cu合金が若戸大橋などに使用されている。また,Al22%を標準とするZn-Al合金は超塑性を示す。

 亜鉛は,自然環境では表面に耐食性のよい塩基性塩皮膜をつくり,腐食を受けにくいので,多く裸のままで使われる。しかしその本性は,電気化学的にイオン化傾向の大きい金属であり,鋼など鉄系の材料と接触していると,亜鉛は大きく腐食されるが,鉄の腐食は防止される。この作用(ガルバニック作用)を利用したものに,鉄鋼構造物の防食を目的として用いられる防食亜鉛犠牲陽極)がある。これは,水溶液中で電気化学的に溶解しやすくした特殊な組成の合金である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「亜鉛合金」の意味・わかりやすい解説

亜鉛合金
あえんごうきん
zinc alloy

亜鉛を主成分とする合金。亜鉛の最大用途はトタン板用 (→溶融メッキ ) であるが,合金としてはダイカスト用ザマクという名前で開発された系統の合金で,標準組成はアルミニウム Al4%,銅 Cu0.8%,残りが亜鉛である。他に Alをふやしたり,あるいは Alを減らしてチタン Tiを添加した ILZO (国際鉛亜鉛研究機構) 合金も使われる。形が複雑であまり強度を要しない鋳物として,自動車部品などに広く使用されている。粒間腐食 (→金属の腐食 ) の弱点があるので原料亜鉛は最高純度のものとし,マグネシウム Mg微量の添加が有効である。 Al4%,Cu3%に Mg,Ti,ニッケル Niなど添加の合金は強いので,プラスチック用金型として種々の名称でつくられている。 Cu0.5%,Ti0.12%,マンガン Mn,クロム Cr少量添加の展伸用合金はアメリカで日用品や建築材に使われている。 Mn25%,Cu15%,Al少量添加の合金は耐摩耗性ダイカスト用。 Alを 22%含む合金は超塑性加工に使われる (→超塑性 ) 。合金ではないが亜鉛華 ZnOは顔料,薬品として広い用途をもつ。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「亜鉛合金」の意味・わかりやすい解説

亜鉛合金
あえんごうきん
zinc alloys

亜鉛を主成分とし、これに少量の他元素を加えて性質を改良した合金。亜鉛は低融点(419.6℃)で鋳造性がよいので、これにアルミニウム、銅を加えた合金はダイカスト用合金として用いられる。この用途では、耐食性を劣化させないために亜鉛地金の純度を高くすることが望まれ、いわゆるフォーナイン(99.99%)以上の地金を使わねばならない。また、亜鉛‐アルミニウム系におこる共析変化を抑えないと枯化現象とよばれる経時割れをおこすので、この阻止のため少量のマグネシウムが加えられている。商品名ザマック、マザック、マックといわれるのはこれである。

 亜鉛が低融点のために室温でもクリープ変形をおこすおそれがあることには注意を要するが、銅合金やアルミ合金の用途の一部を置き換えて自動車部品(ラジエーターグリル、気化器、燃料ポンプなど)のほか電気機械部品、建築金物、事務器具、玩具(がんぐ)などに用いられている。ただし、なお耐食性が不十分なので、めっきや塗装をして使うことが多い。

[及川 洪・三島良續]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android