五酸化二リン(読み)ごさんかにりん

改訂新版 世界大百科事典 「五酸化二リン」の意味・わかりやすい解説

五酸化二リン(燐) (ごさんかにりん)
diphosphorus pentaoxide

慣用名は五酸化リン,無水リン酸。化学式P2O5またはP4O10。リンを空気または酸素中で燃焼させると得られる。結晶化の方法によって3形態がある。リンの燃焼によって最初に得られるのは六方晶系であって,1気圧,360℃で昇華精製できる。高温では斜方晶系あるいは正方晶系を生ずる。白色粉末。強吸湿性である。水に溶けてメタリン酸HPO3となり,さらに温水ではオルトリン酸H3PO4となる。六方晶系のものおよび気体では,リン原子は一つの正四面体の各頂点にあり六つの酸素が各稜上に位置し,残りの四つの酸素はその正四面体の軸上のリンの上にある。したがってP4O10と書くのが正しい。水との親和力が強いので,乾燥剤として最も有効なものの一つである。脱水剤としても用いられ,硝酸HNO3を五酸化二窒素N2O5に,硫酸H2SO4を三酸化硫黄SO3にする。アミドRCONH2を脱水してニトリルRC≡Nにする反応も知られている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「五酸化二リン」の意味・わかりやすい解説

五酸化二リン
ごさんかにりん
diphosphorus pentoxide

リンと酸素の化合物。俗称五酸化リン、無水リン酸。化学式P2O5。リンを過剰の酸素または空気中で燃やすとき得られる。3変態が知られる。蒸気を凝縮して得られる白色粉末は六方晶系のもので、気相に存在するP4O10分子が含まれている。この形は360℃で昇華し、加圧下で熱すると斜方晶系の2形に変わる。これらは層状構造でP4O10分子は存在しない。冷水に音を発して溶ける。多量の水と反応してオルトリン酸H3PO4となるが、水の割合を変えると、いろいろなポリリン酸を含む水溶液が得られる。直接的水和によるリン酸の製造など、合成試薬、乾燥剤、脱水剤として用いられる。

[守永健一]

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化学辞典 第2版 「五酸化二リン」の解説

五酸化二リン
ゴサンカニリン
diphosphorus pentaoxide

P2O5(141.95).五酸化リン,十酸化四リンともいう.黄リンを十分な空気または酸素中で加熱すると得られる.揮発性の無色の結晶で,昇華するが,気相での分子量はP4O10分子に相当する.H,O,O′形の3変態が知られている.低温で安定なのはP4O10の分子結晶(H形)である.H形を密閉容器中で400 ℃ 以上に加熱すると,O形(三次元連続網目状構造)とO′形(二次元連続網目状構造)になる.いずれの変態もPO4のP=O以外の3個のO原子が隣接するP原子に共有された構造をしている.水には発熱的に溶け,四メタ(環状)リン酸を経てオルトリン酸になる.吸湿脱水性が強い.乾燥剤や有機合成の縮合剤,リン酸化剤,ガラスの製造,農薬,医薬品合成などに用いられる.粘膜を刺激し,眼に入ると危険である.[CAS 1314-56-3]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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