五教十宗(読み)ゴキョウジッシュウ

デジタル大辞泉 「五教十宗」の意味・読み・例文・類語

ごきょう‐じっしゅう〔ゴケウ‐〕【五教十宗】

華厳宗法蔵が、釈迦しゃか1代の教法年代順教義深浅によって五教説と十宗説に判別した教相判釈きょうそうはんじゃく

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精選版 日本国語大辞典 「五教十宗」の意味・読み・例文・類語

ごきょう‐じっしゅう ゴケウ‥【五教十宗】

〘名〙 仏語。華厳宗の法蔵が、釈迦一代の教説を、深浅や難易の度合によって整理した教判小乗教大乗始教・大乗終教・頓教・円教の五教と、我法倶有宗・法有我無宗・法無去来宗・現通仮実宗・俗妄真実宗・諸法但名宗(以上小乗)、一切皆空宗(大乗始教)・真徳不空宗(大乗終教)・相想倶絶宗(大乗頓教)・円明具徳宗(大乗円教)の十宗とに分けてある。
八宗綱要(1268)「立五教十宗、摂一代法門

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「五教十宗」の意味・わかりやすい解説

五教十宗
ごきょうじっしゅう

華厳(けごん)宗で仏教を五教説と十宗説に分類批判した教相判釈(きょうそうはんじゃく)(諸経典を説法の形式、方法、内容などにより分類、整理して体系づけること)。中国華厳宗第三祖の法蔵(ほうぞう)(643―712)によって大成された。五教は、いっさいの仏教を教説の浅深によって5段階に分けたもの。すなわち、以下の五教説である。

(1)小乗教 いまだ正しい空(くう)の理を悟らない劣った教えで、『阿含経(あごんきょう)』および阿毘達磨(あびだつま)の哲学。

(2)大乗始教 初めて大乗に入った段階で、いまだ真如(しんにょ)と万法が融合するに至らない教え。唯識(ゆいしき)説(相始教)と中観(ちゅうがん)説(空始教)を含む。

(3)大乗終教 大乗の終極たる優れた教えで、真如と万法の融合を説く。『大乗起信論(だいじょうきしんろん)』などの如来蔵(にょらいぞう)説にあたる。

(4)大乗頓教(とんぎょう) 言語差別を超越し、一挙に真理を悟る教え。もと『維摩経(ゆいまぎょう)』などに相当するが、華厳宗第四祖の澄観(ちょうかん)(738―839)に至って、禅宗をあてるようになった。

(5)大乗円教 いっさいの事象が互いに融合して障害となっているものがないという、円融(えんにゅう)自在の事々無礙(じじむげ)の教えで、華厳の教えを表す。

 十宗は、法相(ほっそう)宗の基(窺基(きき)。632―682)の八宗説を発展させたもので、五教をさらにそれぞれの中心となる説によって10に分ける。

(1)我法倶有宗(がほうくうしゅう)(犢子部(とくしぶ)にあたる)
(2)法有我無宗(ほううがむしゅう)(有部(うぶ))
(3)法無去来宗(ほうむこらいしゅう)(大衆部(だいしゅぶ))
(4)理通仮実宗(りつうけじつしゅう)(説仮部(せっけぶ))
(5)俗妄真実宗(ぞくもうしんじつしゅう)(説出世部(せつしゅっせぶ))
(6)諸法但名宗(しょほうたんみょうしゅう)(一説部(いっせつぶ))
(7)一切皆空宗(いっさいかいくうしゅう)
(8)真実不空宗(しんじつふくうしゅう)
(9)相想倶絶宗(そうそうくぜつしゅう)
(10)円明具徳宗(えんみょうぐとくしゅう)
 (1)~(6)は小乗教に、(7)は大乗始教に、(8)は大乗終教に、(9)は大乗頓教に、(10)は大乗円教に相当する。

[末木文美士]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「五教十宗」の意味・わかりやすい解説

五教十宗
ごきょうじっしゅう

華厳宗で,仏教のすべての教説を表わす教え (五教) のうえからと,表わされた理 (十宗) のうえから分類批判した教判。五教とは華厳宗の創始者である杜順が小乗教,大乗始教,大乗終教,頓教,円教を説いたのに対して,法蔵がそれをさらに発展させて体系化したものである。その五教とは小乗教 (『阿含経』など) ,始教 (『解深密経』など) ,終教 (『大乗起信論』など) ,頓教 (『維摩経』など) ,円教 (『華厳経』『法華経』など) 。円教は一乗を説く完全な教えであるが,これに同別二乗があって,『華厳経』を特に別教一乗として最高視する。さらに五教を理論のうえから分類した内容が十宗である。第1は我法倶有宗。我と諸法の実有を説く犢子 (とくし) 部の教え。第2は法有我無宗。法は実有であるが我無を説く有部の教え。第3は法無去来宗,我は実在しないが,法は現在のみ存し過去と未来にはないと説く大衆 (だいしゅ) 部の教え。第4は現通仮実宗。諸法は現在でも,実在のものも仮有のものもあると説く説仮部の教え。第5は俗妄真実宗。世俗の法は虚妄,出世間の仏教の真理のみが真実であると説く出世部の教え。第6は諸法但名宗。世俗も出世間の法も仮有であると説く一説部の教え。第7は一切皆空宗。五教の始教にあたる教え。第8は真徳不空宗。大乗終教にあたるもの。第9は相想倶絶宗。頓教にあたるもの。第 10は円明具徳宗。あらゆる事象は相互に妨げることなく重々無尽であり,あらゆる功徳を具有していることを説く『華厳経』の教えすなわち円教にあたるもの。最後のものが最高の教えであるとする。

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