改訂新版 世界大百科事典 「二酸化ケイ(珪)素」の意味・わかりやすい解説
二酸化ケイ(珪)素 (にさんかけいそ)
silicon dioxide
化学式SiO2。シリカ,無水ケイ酸などとも呼ばれる。いろいろな結晶状態として天然に産する。また合成により結晶および無定形,ガラス状などの二酸化ケイ素が得られる。結晶状態には石英,リンケイ石,クリストバライトの三つの変態がある。石英(水晶,メノウ,玉髄,フリントなどを含む)は無色または不純物により紫,褐色その他に着色している。石英には,573℃以下で安定な低温型のα石英と,573℃以上で安定な高温型のβ石英の二つの変態がある。α石英は三方晶系,β石英は六方晶系で,モース硬度は7.0,密度は2.635~2.660g/cm3。結晶は対称軸を欠くため旋光性を示し右旋性(右水晶)と左旋性(左水晶)とがある。融点1550℃,沸点2950℃。水に不溶,フッ素と直接化合する。フッ化水素酸以外の酸に不溶。炭酸ナトリウムなどの融解物と反応してケイ酸となり,水に可溶となる。リンケイ石(トリジマイト)には117℃以下で安定なα型(斜方晶系),117~163℃で安定なβ1型(斜方晶系),163℃以上で安定なβ2型(六方晶系)の3種があり,密度は2.26g/cm3。融点1703℃,沸点は石英および他の結晶と同じく2950℃と測定されている。クリストバライトにもα型(正方晶系)とβ型(立方晶系)がある。融点は1713℃。ほかに高圧下で安定なコーサイト,スティショバイトなどがある。高温・高圧反応で人工的につくられたものであるが,隕石孔の周辺に発見されることがある。いずれも四面体SiO4単位構造が三次元的に配列した構造を有する。これらの結晶は互いに転移し,最も低温ではα石英が安定で,ついでβ石英(転移温度575℃),βリンケイ石(870℃),βクリストバライト(1470℃)となる。また天然にはSiO2・nH2Oの組成をもつ無定形の二酸化ケイ素がある。オパールはその一つで,密度は2.1~2.3g/cm3,融点は1600℃以上である。
実験室で可溶性のケイ酸塩水溶液に適当な酸を加えたコロイド状ケイ酸を蒸発乾固させると,しばしばシリカゲルと呼ばれる多孔質の無定形二酸化ケイ素が得られる。これを融剤とともに適当な温度,圧力で融解し,適当な熱力学的条件に保てば,条件に応じて,石英,リンケイ石,クリストバライトの任意の結晶が得られる。無定形二酸化ケイ素は空気中の水分を吸収する能力があるので,乾燥剤に利用される。結晶を2000℃近くの高温で融解して得られる石英ガラスは紫外線を通しやすく,膨張率が小さい。このため,急激に強熱あるいは冷却しても割れにくく,高温用ガラスとして用いられる。水晶やオパールは装飾用に用いられる。水晶は発振器に広く利用されている。そのほか,単体ケイ素の製造原料,建築材料,切削・研磨材,クロマトグラフ用吸着剤などに用いられる。
執筆者:大瀧 仁志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報