二・二六事件/蹶起趣意書(読み)ににろくじけんけっきしゅいしょ

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

二・二六事件/蹶起趣意書
ににろくじけんけっきしゅいしょ

 謹んで惟(おもんみ)るに我が神洲たる所以(ゆえん)は万世一系たる 天皇陛下御統帥(とうすい)の下に挙国一体生成化育を遂げ遂に八紘一宇(はっこういちう)を完(まっと)うするの国体に存す。

 此(こ)の国体の尊厳秀絶は天祖肇国(ちょうこく)神武建国より明治維新を経て益々体制を整へ今や方(まさ)に万邦に向つて開顕進展を遂ぐべきの秋(とき)なり。

 然(しか)るに頃来(けいらい)遂に不逞凶悪の徒簇出(ぞくしゅつ)して私心我慾(がよく)を恣(ほしいまま)にし至尊絶対の尊厳を藐視(びょうし)し僭上(せんじょう)之れ働き万民の生成化育を阻碍(そがい)して塗炭の痛苦を呻吟せしめ随(したが)つて外侮外患日を逐(お)うて激化す、所謂(いわゆる)元老重臣軍閥財閥、官僚、政党等はこの国体破壊の元兇なり。

 倫敦(ロンドン)〔海軍〕軍縮条約、並に教育総監更迭に於ける統帥権干犯至尊兵馬大権の僭窃(せんせつ)を図りたる三月事件或(あるい)は学匪(がくひ)共匪大逆教団等の利害相結んで陰謀至らざるなき等は最も著しき事例にしてその滔天(とうてん)の罪悪は流血憤怒真に譬(たと)へ難き所なり。中岡、佐郷屋(さごや)、血盟団の先駆捨身、五・一五事件の憤騰(ふんとう)、相沢中佐の閃発となる寔(まこと)に故なきに非ず、而(しか)も幾度か頸血(けいけつ)を濺(そそ)ぎ来つて今尚些(いささ)かも懺悔反省なく然も依然として私権自慾に居つて苟且偸安(こうしょとうあん)を事とせり。露、支、英、米との間一触即発して祖宗遺垂の此の神洲を一擲(いってき)破滅に堕せしむは火を賭(み)るより明かなり。内外真に重大危急今にして国体破壊の不義不臣を誅戮(ちゅうりく)し稜威(みいつ)を遮り御維新を阻止し来れる奸賊(かんぞく)を芟除(さんじょ)するに非ずして宏謨(こうぼ)を一空せん。恰(あたか)も第一師団出動の大命渙発せられ年来御維新翼賛を誓ひ殉死捨身の奉公を期し来りし帝都衛戍(えいじゅ)の我等同志は、将(まさ)に万里征途に登らんとして而も省みて内の亡〔世〕状に憂心転々禁ずる能はず。君側の奸臣軍賊を斬除して彼の中枢を粉砕するは我等の任として能くなすべし。

 臣子たり股肱(ここう)たるの絶対道を今にして尽さずんば破滅沈淪(ちんりん)を飜すに由なし、茲(ここ)に同憂同志機を一にして蹶起し奸賊を誅滅(ちゅうめつ)して大義を正し国体の擁護開顕に肝脳を竭(つく)し以つて神洲赤子の微衷を献ぜんとす。

 皇神皇宗の神霊冀(こいねがわ)くば照覧冥助(めいじょ)を垂れ給はんことを!
 昭和拾壱年弐月弐拾六日
  陸軍歩兵大尉 野中四郎
         外同志一同

 (『現代史資料 4 国家主義運動 1』による)

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android