乾燥食品(読み)かんそうしょくひん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「乾燥食品」の意味・わかりやすい解説

乾燥食品
かんそうしょくひん

生鮮食品を、天日により自然に、または温風、凍結など人工によって水分を減少させ、乾燥状態にした食品類。その歴史は非常に古い。乾燥の目的は、初めは食品の貯蔵だけであったが、今日ではそのほか、乾燥によって、生(なま)では味わえない風味を出したり、水分を除くことで重量を減らして輸送などの経費を下げるためにも行われることも多い。

河野友美

歴史

人類が山野に食糧を求めて生活していた新石器時代には、とってきた食糧を天日乾燥して保存していたと推定される。食品の生産が自然まかせであった時代には、乾燥保存は重要な食糧需給の調節手段であったと考えられる。食品の乾燥は器具なしでできるため、遺跡から容器などが発見されないので、乾燥食品の実証資料がない。しかし紀元前のエジプトインカ帝国に肉類の乾燥品のあったことは知られているし、日本でも、奈良時代にはすでに中国からの影響を受けたと思われる、鳥獣肉を全身まるのまま乾燥した腊(きたい)、魚肉を細かく切って塩漬けにしたのち干した楚割(すわやり)などがあった。このほか、海産物を干した、干し魚、のしあわび、干しあわびなどや、野菜、果実などを干したものもあった。

 また寒中に豆腐を屋外で凍結したのち乾燥した凍り豆腐(高野豆腐)も、優れた乾燥食品の一つである。

[河野友美]

性質

生鮮食品は水分を多く含むため保存性に乏しいが、水分を40%以下にすると、食品中の酵素の働きが緩やかになり、微生物繁殖も抑えて比較的変質しにくくなる。乾燥食品はこの性質を利用したものであるが、一方、空気中の酸素による酸化作用が大きくなり、これを防ぐことがむずかしい。また、タンパク質も徐々に変性をおこして、料理した場合、口あたりの悪くなることが多い。脂肪も酸化による変化が大きく、不快臭の原因となるほか、過酸化脂質の一部はアミノ酸と結合して黄褐色を呈し、いわゆる油焼けの原因となる。油焼けをおこすと、味の低下だけでなく、食用により下痢や不快感を呈することもある。

[河野友美]

種類

食品の乾燥は種々の方法があるが、現在ではのような方法をあげることができる。

 最近は、乾燥による食品の色、味、香りなどの低下を防止する研究が進み、自然乾燥にかわって新しい乾燥法もできてきた。減圧乾燥は、乾燥の際に品質低下の原因になる空気、光、熱などの影響をなるべく受けないようにした方法で、そのなかでも凍結真空乾燥がとくに優れ、各種加工食品の材料として広く利用されている。また、乾燥食品をもどりやすくするためのくふうとして、粉末状のものでは、多孔質の粒状に加工するとか、分散剤のようなものを添加することも行われている。また、乾燥中の変色を防ぐため、亜硫酸などの漂白剤を添加することもある。野菜では、凍結や乾燥による植物繊維の硬化を防ぐため、軽く加圧加熱したあと急激に圧力を抜き、組織を多孔質にしたのち乾燥するプレッシャーパフなどの方法も開発され、ニンジンジャガイモ、タマネギなど主として根菜類や肉厚な野菜類に用いられる。

[河野友美]

保存

乾燥食品は、貯蔵中の吸湿や空気による変質が大きいので、密閉された包装容器や、真空包装などの方法、さらには、容器中の空気を窒素ガスに置き換えたりする方法などもとられている。乾燥食品中とくに変化の激しいのは脂肪分であり、これを防止するため脱酸素剤や酸化防止剤が使用されることもある。

[河野友美]

『亀和田光男・林弘通・土田茂著『乾燥食品の基礎と応用』(1997・幸書房)』


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改訂新版 世界大百科事典 「乾燥食品」の意味・わかりやすい解説

乾燥食品 (かんそうしょくひん)

乾燥して品質変化を防ぎ,長期保存などを目的とした食品。乾燥は食品の保存法のなかでも最も古くから行われている方法で,生鮮食品は放置しておくと腐敗してしまうが,水分を35~40%くらいにまで下げると,かなり長期間保存することができる。腐敗をもたらす微生物は水分の少ない所では活動できないからである。

 乾燥の目的は初めは食物の保存であったが,やがてそれとともに乾燥により食物に特有の風味をつけることに変わってきた。生果を乾燥することにより,よりいっそう甘味を増強した干しブドウ,干しアンズなどは西洋で古くから菓子の材料であり,日本では,魚を乾燥させた干物が特色ある風味で伝統的に賞味されている。しかし1950年代になって新しい乾燥法が種々開発され,乾燥品に水を加えると,再び生鮮品と同じ風味の食品が得られるようになった。新乾燥法により,乾燥の目的が再び食物の長期保存に目が向けられるようになった。

 乾燥の方法は大きく分けて自然乾燥と人工乾燥に分けられる。自然乾燥は食物を広げて天日に干すだけだから経費が著しく安い。その代り天候に左右され,場合によっては乾燥前に腐敗させてしまうことがある。人工乾燥には火力を用いる方法と凍結乾燥法がある。火力を用いる場合は食品に熱風を吹き付け,水分を蒸発させる。液状食品の乾燥にはスプレードライヤーを用いる噴霧乾燥法が開発された。これは液状の食品を熱風の中へ霧状に噴霧して乾燥させるもので,水分が急速に失われるので食品自身の温度がほとんど上がらない。したがって風味の損失が少なく,水を加えるともとの食品に容易に戻る。凍結乾燥法は食品を-30~-40℃で凍らせ,高真空中におき,食品中の氷を昇華させて乾燥する方法である。製品はもとの食品から水だけが抜けた状態で形も変わらず,風味もそのまま残っている。水を加えるともとと全く同じ状態に戻る。凍結乾燥食品を缶に密封包装したものは25年以上も風味を保つ。欠点は乾燥しても大きさが変わらないことだが,これを圧縮して容量を減らしたコンポジットフードというのも考案されている。
乾燥果実 →乾燥野菜
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「乾燥食品」の意味・わかりやすい解説

乾燥食品
かんそうしょくひん

食品を乾燥して低水分に保つことによって品質変化を防ぎ,長く保存することを目的とする食品。乾燥の結果,運搬が便利になり,食品の種類によっては,うまさを増したり,違ったうまさを生じるものもある。乾燥法には天日乾燥と人工乾燥がある。天日乾燥には日干しと陰干しがあり,干すのに場所がいり,気象条件に支配される。空気が乾き,気温が低く,材料の腐敗しにくい冬季に行う場合が多い。人工乾燥には加熱,真空,吸湿,冷風の各乾燥法がある。古くからの乾燥食品として,干し柿,干しぶどう,凍り豆腐,するめ,干瓢,魚介類の生干し類があり,最近のものとしては,マッシュポテトフラワー,インスタントコーヒー,インスタントライス,ドライフルーツや各種野菜の乾燥品などがある。

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栄養・生化学辞典 「乾燥食品」の解説

乾燥食品

 乾燥品,乾製品ともいう.乾燥した食品.非常に多くの食品が乾燥されて用いられる.

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