日本大百科全書(ニッポニカ) 「乾燥地形」の意味・わかりやすい解説
乾燥地形
かんそうちけい
乾燥地帯に発達する地形。年降水量が年可能蒸発量より少ない乾燥地帯においては植生がまばらであり、たまに降る雨はしばしば豪雨となる。そのため機械的風化作用が卓越し、総降水量が少ないにもかかわらず流水の働きは盛んである。また、風の働きのもっとも盛んな地域でもある。地形は地球内部から働く褶曲(しゅうきょく)運動や断層運動などの内的営力、地形を構成している岩石の特性、風化作用や侵食作用など外的営力により形成される。そのため、造山帯と安定陸塊では気候条件は同じでも地形には違いがみられる。造山帯では河川の急速な下方侵食や断層運動により山地が形成される。ここまでは乾燥地帯の地形形成過程は湿潤地帯のそれと類似しているが、山地斜面の侵食基準面が安定すると相違してくる。湿潤地帯では山地斜面の勾配(こうばい)がしだいに緩やかになるのに対して、乾燥地帯では急勾配の山地斜面は勾配を減少させず後退する。その結果、山地前面にペディメントpedimentとよばれる緩傾斜の侵食面が形成される。ペディメントが拡大すると山地はペディメント上に突出する小山となり、やがて消滅してペディプレーンpediplainとよばれる広大な侵食平坦(へいたん)面が現れる。造山帯では侵食輪廻(りんね)(地形輪廻)の初期においては砂礫(されき)の生産が盛んなため、山地前面に堆積(たいせき)地形の扇状地が形成される。山地の侵食が進むとともに、砂礫の生産量は減少し、侵食地形のペディメントが扇状地にとってかわる。他方、プレート面上に位置する安定陸塊は内的営力をあまり受けないため、侵食作用は早い時期に終わり、オーストラリア砂漠では中生代末期(約7000万年前)から第三紀中期(約3000万年前)にかけて形成された侵食平坦面が各地に広く分布している。日本アルプスが約200万年間に1500メートル程度隆起しているので、安定陸塊の地形の形成時期の古さがこの数値からも推定される。オーストラリア平原にはマクドネル山脈やフリンダーズ山脈など、急勾配で細長い山脈がみられるが、これらの山脈は基盤岩が非常に硬いために形成された地形である。北アメリカ砂漠など、造山帯の山地斜面が急勾配のまま後退しているのに対し、オーストラリア砂漠の山地の急斜面は相対的に軟らかい岩石が速く侵食された結果であり、これらの山地斜面の形成には造山帯の山地斜面の形成よりはるかに長い時間がかかっている。風の侵食作用(風食)は、風により吹き付けられた砂が基盤を削剥(さくはく)するウィンド・アブレージョンwind abrasionと、細粒物が運び去られるデフレーションdeflationに分かれる。前者により形成される地形としてはヤルダンyardang、パン・キャンPang Kiang、後者による地形としてはハマダhamadaや風食凹地などがあるが、風による堆積地形と比較すると規模、範囲ともに小さい。風による堆積地形は微地形、砂床、砂丘がある。微地形は風紋などであり、砂床は起伏のない砂原である。砂丘は、供給される砂の量、風力、風向によりさまざまな形態を示すが、主としてバルハン砂丘、横列砂丘、線状砂丘に分類される。砂の供給量が多くなると砂床や砂丘が連続した砂の堆積地形――砂砂漠が形成されるが、砂砂漠は面積によって二つに区分されており、3万平方キロメートル未満のものは砂丘原dune field、3万平方キロメートル以上のものは砂海sand seaとよばれている。
[赤木祥彦]