乾燥地形(読み)カンソウチケイ(英語表記)arid landforms

デジタル大辞泉 「乾燥地形」の意味・読み・例文・類語

かんそう‐ちけい〔カンサウ‐〕【乾燥地形】

乾燥気候の地域に発達する地形。風化作用や一時的な豪雨による流水作用で、砂漠・ワジ・岩石床きのこ岩などの景観が見られる。

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改訂新版 世界大百科事典 「乾燥地形」の意味・わかりやすい解説

乾燥地形 (かんそうちけい)
arid landforms

乾燥地域に形成される地形。乾燥地域では降水量より最大可能蒸発散量の方が大きく,植生が非常に少ない。そのため機械的風化作用が盛んである。また,たまに降る雨はしばしば豪雨となり,植生が少ないことと相まって流水の働きが強い。乾燥地域で風の働きが最大となるのも植生が少ないことが原因である。以上の三つの要因により,湿潤地域とは異なった地形が形成される。土地の隆起とともに地形の発達が始まるのは湿潤地域と同じであるが,河川の発達のよくない乾燥地域では山地の規模が大きく,山地斜面は急勾配となる。造山帯における地形発達の初期には山地斜面での日射風化や塩類風化など機械的風化作用による礫の生産が盛んであり,その前面にバハダbajada/bahadaと呼ばれる連続した扇状地が形成される。山地斜面は風化作用,重力や流水の働きで浸食されて後退し,その前面にペディメントpedimentと呼ばれる浸食緩斜面が形成される。ペディメントの勾配は最大級7度,大部分は3度以下であるのに対し,山地斜面は一般に25~35度と急勾配で,しかも勾配を変えずに浸食されて後退するため,ペディメントと山地のコントラストが強い地形となり,乾燥地形の大きな特色となっている。ペディメントが拡大するとともに山地は縮小してついに海上に浮かぶ島のようになる。これは〈島山〉を意味するインゼルベルクInselbergと呼ばれる。さらに浸食がすすむとインゼルベルクも消滅し平たんで広大な終末地形であるペディプレーンpediplainとなる。乾燥地域で地盤運動や風による浸食によって盆地が形成されると,流水が海まで到達せず内陸流域が形成されることがある。内陸流域の最低所にはプラヤplayaが形成される。プラヤは豪雨後に一時的に水が集まる所である。シルトや粘土などの細粒物からなり,起伏はせいぜい50cm程度の平たんな堆積面である。その表面の性質は地下水位の高さで決まる。地下水位が深い場合地表面は非常に硬く,自動車のスピード・テスト・コースや飛行場として利用されている。地下水位が浅くなるとともに塩類が多くなり,表面も軟らかくなり,塩類が地表に厚さ数mも堆積している場合もある。

 風の働きによる地形にも,流水による地形と同様浸食地形と堆積地形がある。風による浸食作用,すなわち風食作用はウィンド・アブレージョンwind abrasionデフレーションdeflationに分けられる。前者は風で飛ばされた砂が基盤に吹きつけられた時働く削剝作用であり,後者は細粒な未固結物が風に吹き飛ばされることによる剝離作用であるが,いずれも大きな地形は形成しない。ウィンド・アブレージョンにより形成される地形としてはヤルダンyardangsが代表的なものである。ヤルダンは,ほぼ平行する細長い凹地によって隔てられた細長い高まりをいい,S.ヘディンによりトルキスタンで命名された(1903)。風向に平行で風上側に丸く,風下側に細く緩斜してのびる縦断面形をなす。デフレーションにより形成される地形としてはデザート・ペーブメントdesert pavement,ブローアウトblowoutがある。前者は,砂塵が風で飛ばされて大きな礫や岩塊などが残るため生じた,あたかも礫を敷きつめたような地面で,サハラ砂漠ではレグreg,セリールserir,オーストラリアではギバー・プレーンgibber plainと呼ばれる。ブローアウトは径数百m以下,深さは1m程度の円ないし楕円形のデフレーションによる凹地で,風食凹地または風食窪と呼ばれる。風による堆積地形としては砂原,砂丘レスがある。砂原は風紋以外起伏の見られない砂の平原である。砂の厚さがわずかに50cm程度しかなく,水平距離1kmに対し比高50~60cmのものもみられる。面積はさまざまであり,大きなものは15万km2を超えることもある。砂丘はその堆積する基盤の性状,砂の供給量,風力,風向によりさまざまな形態のものが形成され,バルハン,横列砂丘,縦列砂丘,塊状砂丘に分けられる。レスは粒度の小さい物質が長距離運搬されて堆積したものである。氷河堆積起源と砂漠起源があり,後者は砂漠レスと呼ばれている。

 乾燥地形が現在湿潤気候の所に残されていれば,気候の湿潤化を示す証拠となる。反対に乾燥地域に湿潤地形が残されていれば乾燥化の証拠となる。このような気候変化を示す代表的な乾燥地形は砂丘とプラヤである。砂丘の移動は植生の増大とともに不活発となる。温度との関係で差があるが年降水量150mm程度になると砂丘は植生により固定され,その表面には腐植層が形成されるようになる。このような固定砂丘はサハラ砂漠の南側やオーストラリア砂漠に広く見られ,サハラ砂漠は南に拡大されていたこと,オーストラリア砂漠はより乾燥していたことを示している。プラヤには塩類が堆積しているが,気候が湿潤化して水がたまると粘土などの湖成層が堆積する。そのためプラヤ床の堆積物を調べることによりその地域の乾湿の気候変化の歴史を知ることができる。

 最近過放牧などによる砂漠化が注目を集めているが,乾燥地域へ人間が新しく移動したり,人口が増大して植生が減少すると地形形成営力が影響を受ける。アメリカ合衆国西部では19世紀後半に過放牧が行われたため植生が減少し,降雨時の流失が速くなってガリ浸食が著しく進み,アロヨarroyoと呼ばれるガリが形成された。また家畜道や馬車道がアロヨの形成の引金となった場合もある。顕著な例としては3年間で長さ20km,深さ20mに達したユタ州のアロヨがあげられる。また固定砂丘が牧場や耕地として利用されると植生の減少のため,再移動を始めた例がサハラ南辺やオーストラリアから報告されている。
砂漠
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「乾燥地形」の意味・わかりやすい解説

乾燥地形
かんそうちけい

乾燥地帯に発達する地形。年降水量が年可能蒸発量より少ない乾燥地帯においては植生がまばらであり、たまに降る雨はしばしば豪雨となる。そのため機械的風化作用が卓越し、総降水量が少ないにもかかわらず流水の働きは盛んである。また、風の働きのもっとも盛んな地域でもある。地形は地球内部から働く褶曲(しゅうきょく)運動や断層運動などの内的営力、地形を構成している岩石の特性、風化作用や侵食作用など外的営力により形成される。そのため、造山帯と安定陸塊では気候条件は同じでも地形には違いがみられる。造山帯では河川の急速な下方侵食や断層運動により山地が形成される。ここまでは乾燥地帯の地形形成過程は湿潤地帯のそれと類似しているが、山地斜面の侵食基準面が安定すると相違してくる。湿潤地帯では山地斜面の勾配(こうばい)がしだいに緩やかになるのに対して、乾燥地帯では急勾配の山地斜面は勾配を減少させず後退する。その結果、山地前面にペディメントpedimentとよばれる緩傾斜の侵食面が形成される。ペディメントが拡大すると山地はペディメント上に突出する小山となり、やがて消滅してペディプレーンpediplainとよばれる広大な侵食平坦(へいたん)面が現れる。造山帯では侵食輪廻(りんね)(地形輪廻)の初期においては砂礫(されき)の生産が盛んなため、山地前面に堆積(たいせき)地形の扇状地が形成される。山地の侵食が進むとともに、砂礫の生産量は減少し、侵食地形のペディメントが扇状地にとってかわる。他方、プレート面上に位置する安定陸塊は内的営力をあまり受けないため、侵食作用は早い時期に終わり、オーストラリア砂漠では中生代末期(約7000万年前)から第三紀中期(約3000万年前)にかけて形成された侵食平坦面が各地に広く分布している。日本アルプスが約200万年間に1500メートル程度隆起しているので、安定陸塊の地形の形成時期の古さがこの数値からも推定される。オーストラリア平原にはマクドネル山脈フリンダーズ山脈など、急勾配で細長い山脈がみられるが、これらの山脈は基盤岩が非常に硬いために形成された地形である。北アメリカ砂漠など、造山帯の山地斜面が急勾配のまま後退しているのに対し、オーストラリア砂漠の山地の急斜面は相対的に軟らかい岩石が速く侵食された結果であり、これらの山地斜面の形成には造山帯の山地斜面の形成よりはるかに長い時間がかかっている。風の侵食作用(風食)は、風により吹き付けられた砂が基盤を削剥(さくはく)するウィンド・アブレージョンwind abrasionと、細粒物が運び去られるデフレーションdeflationに分かれる。前者により形成される地形としてはヤルダンyardang、パン・キャンPang Kiang、後者による地形としてはハマダhamadaや風食凹地などがあるが、風による堆積地形と比較すると規模、範囲ともに小さい。風による堆積地形は微地形、砂床、砂丘がある。微地形は風紋などであり、砂床は起伏のない砂原である。砂丘は、供給される砂の量、風力、風向によりさまざまな形態を示すが、主としてバルハン砂丘、横列砂丘、線状砂丘に分類される。砂の供給量が多くなると砂床や砂丘が連続した砂の堆積地形――砂砂漠が形成されるが、砂砂漠は面積によって二つに区分されており、3万平方キロメートル未満のものは砂丘原dune field、3万平方キロメートル以上のものは砂海sand seaとよばれている。

[赤木祥彦]


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百科事典マイペディア 「乾燥地形」の意味・わかりやすい解説

乾燥地形【かんそうちけい】

砂漠などの乾燥地域に発達する地形。河流の発達が悪いので河食はあまり行われず,風食が支配的営力となる。外洋への流出口のない内陸盆地の形成が特色で,その発達過程は乾燥輪廻(りんね)と呼ばれる。初め盆地の内部には求心状の水系がみられる。これらは盆地中央では流水が消滅し降雨時にのみ水流をみる間欠性河流(ワジ)で,盆地周辺ではこれらが山地から運び出す粗大な岩屑(がんせつ)によって乾燥扇状地(バハーダ)が形成され,中央部では細かい物質が堆積して盆地床を形成,その最底部にはよく塩分の濃い塩水湖がみられる(幼年期)。次に盆地を満たした岩屑は隣接した盆地と鞍部(あんぶ)を越えて互いに連結し乾燥盆地群の連合時代になる(壮年期)。さらに風食と流水による浸食は広い岩石床を形成し,所々にインゼルベルク(島山)を残す(老年期)。最後に島山も除去され平たんな風食準平原が形成される。乾燥盆地内ではバルハンヤルダンと呼ばれる内陸砂丘が形成される。→砂丘

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「乾燥地形」の意味・わかりやすい解説

乾燥地形
かんそうちけい
arid topography

乾燥気候のもとで形成された地形の総称。亜熱帯高圧帯下に広く分布する。地形を変化させる主因は布状 (面状) 洪水と風である。植生を維持できるだけの降水量がないので岩石が露出し,昼夜の温度変化による物理的風化が激しく行われ,砂,礫が生産される。それらは風やまれに降る強雨によって発生する布状洪水の働きで移動する。このような働きによって,砂丘,ペディメント,島状丘バハーダプラヤなど乾燥地域特有の地形がつくられる。河川による線的な下刻がほとんど行われないので流域は統合しにくく,独自の浸食基準面をもつ独立した小さな内陸流域が無数に存在する。湿潤気候地域に比べ浸食速度が遅いので,地殻運動の影響を受けた地形が長く保持される。また面的に浸食力が働くため,岩石の浸食に対する抵抗力の差がはっきり現れ,組織地形が明瞭に認められる。

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