乳糖不耐症(読み)ニュウトウフタイショウ

デジタル大辞泉 「乳糖不耐症」の意味・読み・例文・類語

にゅうとう‐ふたいしょう〔ニユウタウフタイシヤウ〕【乳糖不耐症】

牛乳に含まれる乳糖を分解できないことによって生じる、下痢や嘔吐おうとなどを伴う消化不良。加齢とともに、乳糖を分解する消化酵素ラクターゼが十分作られなくなることが知られる。

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内科学 第10版 「乳糖不耐症」の解説

乳糖不耐症(腸疾患)

概念
 牛乳の摂取後に腹痛や下痢などの症状を生じる病態を牛乳不耐症(milk intolerance)という.牛乳不耐症の多くは乳糖(ラクトース)不耐症であるが,牛乳アレルギーなども同様の症状をきたす.
 乳糖不耐症は,小腸刷子縁膜酵素の1つであるラクターゼ活性が欠乏することにより発症する.一部にはラクターゼ活性が正常の病態も存在するが,一般的には乳糖不耐症はラクターゼ欠乏症と同義とされている.
分類・原因
 原発性ラクターゼ欠乏症と続発性ラクターゼ欠乏症とに分類される.ラクターゼ遺伝子にも種々の遺伝子多型が存在することが確認されている.
1)原発性ラクターゼ欠乏症:
 a)先天性ラクターゼ欠乏症:生下時より小腸のラクターゼ活性が欠乏する疾患であり,Holzelによりはじめて報告された.常染色体劣性遺伝を示す.牛乳の摂取により下痢,鼓腸,腹部膨満,嘔吐などをきたし,脱水症状から致死的となる場合もある.
 b)原発性成人型ラクターゼ欠乏症:生下時はラクターゼ活性が保たれるが,成長につれてラクターゼ活性が低下する病態である.人種によって頻度は異なり,白人には少ないが,黒人やアジア人には多い.遺伝的な要因によるものと考えられている.
2)続発性ラクターゼ欠乏症:
種々の腸管感染症,炎症性腸疾患,薬剤や放射線障害などによる小腸粘膜障害や粘膜損傷により,続発性にラクターゼ欠乏症をきたす病態である.サルモネラ菌や病原性大腸菌による細菌性腸炎,あるいはランブル鞭毛虫症(ジアルジア)などの原虫感染では続発性の乳糖不耐症を生じる.また,Crohn病潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患,セリアックスプルーでは,ラクターゼ活性の低下により乳糖不耐症となる.さらには,ダンピング症候群や過敏性腸症候群により通過時間が短縮し,小腸粘膜との接触時間が短縮した場合,あるいは短腸症候群で相対的なラクターゼ欠乏の状態を生じた場合には,乳糖不耐症の要因となる.
病態生理・症候
 小腸の刷子縁膜上には膜消化にかかわる分解酵素が存在する.マルターゼやラクターゼなどの二糖類分解酵素は基質特異性が明確であり,乳糖の消化には正常なラクターゼ活性が欠かせない.通常,ラクターゼ活性は出生直前にピークとなり,離乳期以後は活性が低下する.先天性ラクターゼ欠乏症では,離乳期にも活性がみられず,乳糖の摂取により著しい症状が発現する.成人型では,離乳期以後の活性が著明に低下し,乳糖不耐の症状を呈する.
 本症では,未吸収の糖質が腸管内の浸透圧を上昇させ,高浸透圧性の下痢をきたす.また腸内細菌による発酵が生じ,鼓腸や腹部膨満もきたす.
診断
 診断には乳糖負荷試験が有用である.乳糖20 gを水に溶解して経口投与し,投与後の血糖を経時的に120分まで測定する.健常人では,20 mg/dL以上の血糖上昇がみられるが,血糖上昇が10 mg/dL以下の場合は異常と判定する.さらにラクターゼ製剤併用により改善がみられれば,ラクターゼ欠乏症の診断は確定する.グルコースガラクトース吸収不良症でも,乳糖負荷試験で異常値となるが,グルコース・ガラクトース吸収不良症ではグルコース10 gガラクトース10 gの経口負荷でも血糖上昇が認められない.
 一方,小腸粘膜を生検にて採取し,ラクターゼ活性を測定する方法もある.また,小腸粘膜におけるラクターゼの免疫染色も診断に有用である.しかし,ラクターゼ活性やラクターゼ酵素の染色性は採取部位によって大きく異なることに留意する必要がある.
 呼気水素試験(expiratory hydrogen test:EHT)も,本症の検査として有用である.乳糖不耐症では,吸収されない乳糖が下部消化管にて腸内細菌による発酵を受ける.これにより生じた水素は腸で吸収され,呼気に排出される.乳糖を経口投与した後,経時的に呼気を集め,呼気中の水素をガスクロマトグラフィにて測定するものである.乳糖不耐症では,呼気中水素濃度が高値となる.しかし,水素ガス産生菌の過増殖がない健常人では本試験は無効である.
 さらに,乳糖負荷呼気試験も診断に用いられる.乳糖負荷呼気試験として13C-乳糖を用いる方法と,未吸収の乳糖が分解されて生じた水素が吸収されて呼気に排泄されるのを測定する方法とがある.健常人では,13C標識CO2は1時間で認められ,3時間程度でピークとなるが,乳糖不耐症では,13C標識CO2の呼気排出が遅れる.
治療
 先天性ラクターゼ欠乏症では,乳糖の経口摂取を禁じ,無乳糖乳や無乳糖食とする.成人型ラクターゼ欠乏症では,ラクターゼ活性の程度により症状はさまざまである.低乳糖食,あるいは無乳糖食とすることで症状は緩和される.またラクターゼ製剤を使用するのも有用である.続発性ラクターゼ欠乏症では原疾患の治療が基本であるが,症状に応じて乳糖摂取を制限する.[藤山佳秀]
■文献
中村孝司:牛乳不耐症.日本内科学会雑誌,85: 61-66, 1996.

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六訂版 家庭医学大全科 「乳糖不耐症」の解説

乳糖不耐症
にゅうとうふたいしょう
Lactose intolerance
(子どもの病気)

どんな病気か

 乳糖(ラクトース)はガラクトースとブドウ糖(グルコース)が結合した2糖類で、母乳や牛乳などに含まれる栄養素です。口から摂取された乳糖は小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素(ラクターゼ)によって分解されて小腸粘膜より吸収されます。乳糖不耐症では、この乳糖分解酵素が生まれつき欠損したり、少量しか産生されないために、酵素活性が低く、小腸での乳糖の分解がうまくいかずに不消化の状態で腸内に残ります。

 分解されなかった乳糖は大腸のなかで腸内細菌によって発酵し、脂肪酸と炭酸ガスおよび水になります。発生した炭酸ガスや脂肪酸は腸を刺激して自発運動(蠕動(ぜんどう))を亢進させます。また、不消化の食物残渣(ざんさ)により大腸のなかの浸透圧が高くなるので、腸管の粘膜を通して体のなかから水分が腸管のなかに移動し、下痢を引き起こします。

原因は何か

 遺伝的に乳糖分解酵素をもたない場合を先天性乳糖不耐症といいます。乳糖分解酵素は小腸粘膜の先端部位にあるため、小腸粘膜が傷害される多くの病気で二次的に酵素活性が低下します。これを後天性(二次性)乳糖不耐症といいます。乳児ではウイルスや細菌による腸炎のあとで腸粘膜が傷害されて、酵素活性が低下することがよくあります。小腸を休ませて粘膜が回復すれば、また乳糖を分解することができるようになります。

 ミルクが主食の乳児期には乳糖分解酵素は十分に作られますが、成長するにしたがって特別な病気がなくても、次第に乳糖分解酵素活性が低下します。日本人では大人の約40%で乳糖分解酵素活性が低いといわれています。これはミルクを多く摂取する食習慣をもたなかったためと推測されますが、このような状況で大量の乳製品を摂取するとおなかの調子が悪くなります。

症状の現れ方

 乳糖を多く含む乳製品を摂取するとおなかが痛くなり、蠕動が亢進して、酸っぱいにおいのするガス成分に富んだ水様の下痢をします。赤ちゃんでは、ウイルス感染による腸炎に合併して症状が出現することが多いようです。

検査と診断

 乳糖をのませて血糖が上がらず、便中に糖が排泄されることで診断します。腸粘膜を採取して酵素の活性を調べると確実ですが、乳児などで二次性の乳糖不耐症が疑われる場合は経過や病歴、乳糖除去ミルクの使用で症状が改善するかどうかで判断できます。

治療の方法

 乳糖を含む食物を除去・制限します。乳製品でもあらかじめ乳糖を分解してある食品は摂取可能です。乳児に対しては乳糖を含まない特殊なミルクを使用します(ラクトレス、ボンラクトなど)。感染に伴い一過性に生じる二次性乳糖不耐症の場合は、乳糖分解酵素を薬として補充する方法もあります。

浜﨑 雄平

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「乳糖不耐症」の意味・わかりやすい解説

乳糖不耐症
にゅうとうふたいしょう

糖質の吸収不良症候群の一つで、乳糖(ラクトース)の摂取に伴い、下痢、嘔吐(おうと)、鼓腸、胃腸不快感などの症状がみられる。一般に、腸で糖分が吸収されるときには糖を分解する酵素が働いて二糖類を単糖類に分解するが、乳糖不耐症では、乳糖をブドウ糖(グルコース)とガラクトースの単糖に分解する乳糖分解酵素(ラクターゼ)が先天性に欠損するか、あるいは二次性に活性低下をきたし、乳汁を摂取しても速やかに分解されず、吸収されない乳糖が腸管内にたまり、浸透圧作用によって腸内容を増し、水様性下痢(浸透圧性下痢)をおこす。さらに、腸内細菌によって発酵し、有機酸となって腸管を刺激し、水様便を頻回に排泄(はいせつ)するようになる。続いて嘔吐も出現し、体重の増加が不良となり、慢性栄養障害を引き起こす。

 診断には、これらの症状に加えて、乳糖を経口的に負荷しても血糖値が上昇しないこと、便が酸性で還元糖が存在すること、乳糖を含まない乳汁で症状が改善すること、が参考になる。治療としては、乳糖を含まない治療乳を与え、乳糖分解酵素製剤を投与する。

[山口規容子]

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百科事典マイペディア 「乳糖不耐症」の意味・わかりやすい解説

乳糖不耐症【にゅうとうふたいしょう】

乳糖を摂取した後,腹痛,腹鳴,水様下痢などが起こる消化不良症。乳糖を分解するラクターゼ,ガラクトキナーゼなどの酵素の欠落,あるいは活性の低下によって起こる。先天性の場合は,哺乳の開始直後から発症し,長期にわたると発育障害をきたす。乳幼児期に後天的に起こる場合,多くはウイルス感染や炎症性の腸疾患,抗生物質服用などによる続発的なものである。哺乳動物は,基本的には乳の摂取は乳幼児期のみである。したがって,家畜の乳資源を食糧とする歴史の長いヨーロッパ,北米,オーストラリアなど以外の人びとでは,乳児期には酵素は正常活性を示すが,加齢とともに活性が低下する。そのため成人の多量の摂取による消化不良は,病的なものとはいえず,少量の乳糖摂取時にも消化不良を起こす場合を,病的な酵素活性低下とする。無乳糖乳あるいは乳糖を分解した牛乳によって予防できる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「乳糖不耐症」の意味・わかりやすい解説

乳糖不耐症
にゅうとうふたいしょう
lactose intolerance

牛乳不耐症ともいう。乳糖や牛乳を摂取すると腹痛,鼓腸,下痢などの消化不良症状を起すものをいう。遺伝的または後天的に乳糖分解酵素が欠乏することによる。後天的な原因は,非熱帯および熱帯性スプルー,限局性腸炎,腸の感染症,鞭毛虫症,潰瘍性大腸炎などである。乳糖不耐症の頻度は年齢とともに高くなり,また人種差もある。成人の白人では5%にすぎないが,黒人,黄色人種では 60~90%に及ぶ。

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栄養・生化学辞典 「乳糖不耐症」の解説

乳糖不耐症

 乳糖を加水分解する酵素ラクターゼが少ないか欠損しているため乳糖が消化できずに大腸へ至り,腸内細菌の作用でガスを発生させたり下痢をしたりする症状.

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世界大百科事典(旧版)内の乳糖不耐症の言及

【牛乳】より

…しかし,先天的あるいは後天的にラクターゼが分泌されなかったり,その活性の低い人が牛乳を飲むと,数時間以内に下痢,腹鳴りなどの腹部症状が起きる。これを乳糖不耐症というが,欧米にくらべて日本ではとくに成人に多く見られる。微生物からのラクターゼの工業的生産が可能になり,これを用いて牛乳中の乳糖の3/4ぐらいをあらかじめ分解した製品である。…

【下痢】より

…一方,浸透圧性下痢とは,腸管内の浸透圧を上昇させるような物質が腸管内に存在し,それを希釈するような形で壁から水分が引き出されるもので,塩類下剤などがその代表的なものである。このほか乳糖不耐症(牛乳を飲むと下痢をする例)の下痢もこれに属するものと考えられる。この種の下痢は腸内容が排出されれば下痢は消失する。…

※「乳糖不耐症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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