乗り物酔い(動揺病)(読み)のりものよい(どうようびょう)(英語表記)Motion sickness

六訂版 家庭医学大全科 「乗り物酔い(動揺病)」の解説

乗り物酔い(動揺病)
のりものよい(どうようびょう)
Motion sickness
(中毒と環境因子による病気)

どんな病気か

 加速度病(かそくどびょう)とも呼ばれます。乗り物に乗って体が複雑な動揺(加速度)を受けた時に引き起こされる吐き気、嘔吐などの自律神経失調(じりつしんけいしっちょう)状態をいいます。

原因は何か

 頭に急な動きや加速度が加わると、眼から入る情報と内耳(三半規管(さんはんきかん)耳石器(じせきき))の平衡感覚との間にずれが生じ、そのずれが大きくて脳内で混乱すると、吐き気などの症状になって現れると考えられています。乗り物の種類によって、船酔い、車酔い、飛行機酔い、宇宙酔いがありますが、起こる原因はみな同じです。

 発症には内耳への動揺刺激だけではなく、睡眠不足、胃腸障害、心理的要因(不安感)も内的因子として重要です。

 成長途上の10歳前後で現れることが多くなります。睡眠不足、空腹、急ブレーキ・急発進、車中読書の4条件がそろうと、大人の多くが乗り物酔いを起こすといわれています。

症状の現れ方

 主たる症状として、吐き気、嘔吐、冷や汗、顔面蒼白、動悸(どうき)、頭痛などがあります。他覚的には通常、平衡機能の異常がないのが特徴です。

治療の方法

 発症した場合には換気をよくし、衣服を楽にします。可能ならば乗り物から降ります。抗ヒスタミン薬や鎮吐薬を内服します。嘔吐を繰り返して脱水に陥った時には、点滴する必要があります。

予防対策はどうするか

①酔いを起こす乗り物に乗る前は、睡眠不足、空腹、また逆に満腹の状態を避けるようにします(前日は十分に睡眠をとる、適度な食事をとる、脂肪分の多い食事をとらない、排便する)。

服装はゆったりとしたものにします(厚着しない、ネクタイベルト、体を圧迫する下着は避ける)。

③乗っている間は、極力頭を動かさず、背もたれに頭をつけておくようにします(頭をグラグラ揺らさない、早めにシートを倒して横になる、呼吸は深くゆっくりとする)。

④近くのものを長時間注視していると起こりやすいので、眼をつぶっているか、遠くをぼんやりと見るようにします(遠くの景色を眺める、後ろ向きの席は避ける、読書やゲームなど下を向いての細かい作業はしない)。

悪臭高温、高い湿度なども悪影響を与えるので、できるだけ避けるようにします(窓を開けて風にあたる)。

⑥自信をもち(自己暗示)、酔うことに意識を集中しないようにします。

事前に酔い止め薬(抗ヒスタミン薬)を服用します。

 乗り物酔いをしやすい人は、普段から頭や体の運動を心がけるようにします(日ごろから遊園地のブランコ、鉄棒などで複雑な加速度に慣れるよう訓練する。また、酔いを起こす乗り物に乗る時間を少しずつ増やして、耐性をつける)。

松井 寿夫

乗り物酔い
のりものよい
Motion sickness
(耳の病気)

どんな病気か

 乗り物に乗っている過程で、むかつき、冷や汗、顔面蒼白、吐き気が起こり、最終的には嘔吐に至る状態をいいます。

原因は何か

 乗り物酔いに内耳のはたらきが深く関係していることがわかってきたのは、比較的近年になってからです。

 船、自動車、電車、飛行機などに乗っていると、連続的な揺れ(加速度刺激)が内耳に加わり、この刺激と他の刺激、たとえば眼に映るまわりの景色などの視覚刺激、体の筋肉で感じる知覚などとの調和がとれなくなり、感覚に混乱が生じるために、乗り物酔いが起こると考えられています。

症状の現れ方

 気分が悪く顔色が蒼白になり、冷や汗をかき、生唾(なまつば)が多くなり、吐き気がして吐いてしまうなどの自律神経症状が主体で、頭痛やめまいも起こります。高齢者や3歳以下の小さい幼児は酔いにくく、男女を比べると女性のほうが酔いやすい傾向があります。

 小児期は酔うというよりも、頭痛やバランスの障害が強く出ます。思春期を超えるころからバランスの障害が弱くなる代わりに、酔いの程度が強くなります。初めて経験する乗り物で酔いやすい傾向もあります(訓練された宇宙飛行士でも宇宙酔いを起こします)。

治療の方法

 一般的な乗り物酔いの防止には、

①前日には睡眠をしっかりとる。

②早朝の出発の際は2~3時間前から起きて頭をすっきりさせておく。

③出発前に軽く(腹八分目)食事をとる。

④揺れの少ない座席を選び深く座る。

⑤ゲームをしたり、歌ったりして気分をそらす。

⑥酔いやすい人はあらかじめ酔い止めの薬をのむ。

などが効果的です。

 電車やバスの場合、席が空いていれば進行方向に向かうように座ります。座れなければ進行方向に向いて立ち、体を安定させるとよいでしょう。つり革はあまりよくありません。

 飛行機の場合、外界がよく見えないので、酔いやすい人はあらかじめ酔い止めの薬をのんだり、少しアルコールを飲んで寝てしまうのもひとつの方法です。

 船の場合、キャビンのなかにいるのはよくありません。船首に近いデッキに出て、遠方の水平方向を見るとよいでしょう。しけの時は諦めて、酔い止めの薬をのんで眠るようにします。

 自家用車の場合にはシートは固いものにし、後部座席に乗り、シートベルトをしっかり締めます。

 もし酔って具合が悪くなったら、横になって頭を動かさないようにして、冷たい風に当たって、ベルトや衣類をゆるめ安静にします。酔い止めの薬があれば、それをのんで眠るのがよいでしょう。症状が重い時には、乗り物から降りる以外に方法はありません。

 積極的に治すには、普段から運動をよくして、内耳が乗り物の動揺に対して強くなるように鍛えるしかありません。ブランコ、鉄棒、マット上での回転運動、ダンスなどのように、頭や体を激しく動かし、内耳を強く刺激するのが効果的です。

工田 昌矢

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「乗り物酔い(動揺病)」の意味・わかりやすい解説

乗り物酔い
のりものよい

加速度病

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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