日本大百科全書(ニッポニカ)「丸木舟」の解説
丸木舟
まるきぶね
1本の木を刳(く)り抜いてつくる舟。独木舟とも記し、刳舟(くりぶね)ともいう。新石器時代、磨製の石斧(せきふ)などによる木工技術の進歩によって発達を遂げるが、のちに火を併用することで刳り抜き作業が容易になった。わが国でも福井県にある鳥浜貝塚の縄文時代前期の層から全長7メートルほどの大型丸木舟が出土しており、早くからの利用が認められる。また櫂(かい)の利用や、丸木舟本体への装飾も知られている。
一般に木材が入手しやすい地域で広く分布しており、構造から3種に分類される。1本の丸太をそのまま刳り抜いたかつお節型、丸太を二つに割って、それぞれを刳り抜いた割り竹形、さらに舟の中央部に刳り残しをつくった箱形がそれらである。単純な構造をもつ反面、安定性、利用空間などに問題があり、世界各地でさまざまなくふうがなされている。2艘(そう)の丸木舟を組み合わせて安定性を高める方法は、ヨーロッパのアルバニア、インドのガンジス川、ユダバリ川、チェンナイ(マドラス)やタンジャブール地方の河川や潟、シベリアのコリヤーク人の間に分布している。同じ効果をねらうものとしては、船側から横木を出して、その先に浮きをつけたアウトリガー・カヌーがある。これには片側のみに浮きを備えたものと両側に備えたものとがあり、前者は、スリランカの漁労民がサバのトロール漁で使っているのをはじめとして、ベンガル湾中のアンダマン諸島・ニコバル諸島、マレー西海岸、スマトラ西方のニアス島、さらにミクロネシア、メラネシア、ポリネシアに広がる。後者もフィリピン、インドネシアのほぼ全域、ニューギニアの一部、オーストラリア北東海岸、ニュージーランド、サモア、マダガスカルというように分布は広い。ミャンマー(ビルマ)南部のメルギー諸島のモーケンの人々は、移動生活を送るため、丸木舟の船幅を広くして居住空間を確保している。内側を水でぬらしながら外側を火で暖め、木を柔らかくして幅を広げるモーケンの方法は、アフリカ、北アメリカ北西海岸に住むネイティブ・アメリカン、シベリアのオスチャークやボグルの人々の間でも確認されている。アフリカのリベリアからシエラレオネの沿岸に住むクル人や北アメリカ北西海岸のネイティブ・アメリカンなどで使われている海洋用の大型丸木舟は、波への対策として、反り上がった舳(へさき)と艫(とも)を備えており、ウガンダでは舷(げん)側に波よけの板を縫い合わせた30人乗りの丸木舟を使っている。アイヌのイタオマチェップも含めて、こうした板材を継ぎ足した丸木舟を「複材刳船」とよぶ。
オセアニアでは、丸木舟は伝統的な技術、知識、儀礼を熟知した職人集団によってつくられ、しばしば首長や共同体の財産として継承される。また、保管する小屋がさまざまな儀礼の場になることもソロモン諸島から報告されている。
[関 雄二]