丸・円(読み)まる

精選版 日本国語大辞典 「丸・円」の意味・読み・例文・類語

まる【丸・円】

(「まろ」の変化した語)
[1] 〘名〙
[一] まるい形。また、まるい形をしたもの。
① 円形、また、円筒形球形
※歌舞伎・好色伝受(1693)上「丸になりとも菱になりとも御望み次第で御座ります」
中世、近世の城郭で、本丸・二丸・三丸など、城を構成する部分。
※応仁略記(1467‐70頃か)下「丸々の手垂共出合散々に防戦ふ事、火花を散す風情也」
③ 金銭、特に貨幣をさしていう。
※歌舞伎・隅田川続俤(法界坊)(1784)口明「イヤモウ〇になることならなんなりと相談に来ることさ」
④ (甲羅が円形であるところから) 近世の関西方言で、鼈(すっぽん)をいう。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「『丸(マル)とは何だヱ』『御当地でいふ鼈(すっぽん)じゃがな』」
⑤ 記号としての◯印。単なる目印や、×(ばつ)に対して良い評価を表わすための印などに用いる。
※百丈清規抄(1462)一「此三字をばかかいで、そこにまるをせられたぞ」
句点。「文の切れめにまるをうつ」
半濁点。「『は』に丸を打てば『ぱ』」
⑧ 紋所の名。円形単独のものの他、薄(すすき)の丸、丸に吾木香(われもこう)など、他の模様と組み合わせたものがある。
説経節あいごの若(山本九兵衛板)(1661)二「丸に二つひきもっかう打たるは、二でうのくらんどきよひらのもん也」
[二] (形動) 欠けないで全部。形を完全に保っていること、完全に相当すること。また、そのさま。まるごと。まれに、「と」を伴って副詞的に用いる。
① 分割した一部ではなく、全部を包含すること。手を加えないでもとの状態のままであること。
※政基公旅引付‐文亀三年(1503)六月八日「名田分事、〈略〉当反銭より、丸と此方へ可納候」
※伝奇作書(1851)後集「丸とは土間桟敷のかりきりを云ふ」
② 月日や時間などが完全に満たされていること。
浄瑠璃傾城無間鐘(1723)四「三世を契る妹と背の、まるに一夜さ添ひ果てす」
③ 文字通りそれだけで、ほかのものが混じっていないこと。完全にその状態であること。まったく。
※玉塵抄(1563)三五「一日もまるに閑なことは難得ぞ」
④ 「まるふだ(丸札)」の略。
※滑稽本・八笑人(1820‐49)四「ナニ三十三がある、それは丸(マル)か半札(はんのり)か」
[三] 一まとまりの量や重さを数える単位。
① 綿を数えるのに用いる。綿の一包みをいうか。一説に、重さの単位で五〇斤(三〇キログラム)という。
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「イト fitomaru(ヒトマル)
② 銅・銀などの重量をいうのに用いる。貫。
捷解新語(1676)一〇「あかかねの内、さんはんきんあまり、〈略〉そののこりころくしうまる、あきうとしゅに、つかわし申やうに」
③ 和紙を数えるのに用いる単位。紙の種類によって異なり、半紙は六締(一万二千枚)、大半紙は四締(二千枚)、塵紙は半紙と同じ(時に大半紙と同じ)、美濃紙は四締(一万枚)、奉書は一束(そく)四八枚で八束を一丸とする。
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「カミ fitomaru(ヒトマル)、または、ジュッソク」
[四] 江戸の吉原遊郭で、遊女の揚銭が倍額となる日。正月や節供の日など。丸の日。
※評判記・吉原すずめ(1667)上「正月は、元日より十六日までまるなり」
[2] 〘接頭〙
① 数詞の上に付いて、その数が満ちる意を表わす。満。「あしかけ」に対する語。
※狂歌・狂歌机の塵(1735)「まる一年たえて便はなけれどもここを去ること遠からぬげな」
② 名詞に付いて、完全にその状態であるさまを表わす。「まる損」「まるもうけ」「まる勝ち」など。
[語誌](1)中世期までは「丸」は一般に「まろ」と読んだが、中世後期以降、「まる」が一般化した。本来は、「球状のさま」という立体としての形状を指すことが多い。
(2)平面としての「円形のさま」は、上代は「まと」、中古以降は加えて「まどか(まとか)」が用いられた。「まと」「まどか」の使用が減る中世には、「まる」が平面の円の意をも表わすことが多くなる。

まる‐・める【丸・円】

〘他マ下一〙 まる・む 〘他マ下二〙
① 丸い形にする。
史記抄(1477)一二「土をだにまるめて食たぞ」
② 頭の髪をそる。剃髪(ていはつ)する。
日葡辞書(1603‐04)「アタマヲ Marumuru(マルムル)
③ 全体をそれで作る。また、ひっくるめて事をする。一括(いっかつ)する。
※中華若木詩抄(1520頃)下「樊噲が、力らでこそ、天下は、まるめてとられたれ」
④ 巧みにいいくるめて、他人を自分の思い通りにする。だまして相手のものを奪う。まるくその場をおさめる。まるめこむ。
浮世草子・新可笑記(1688)五「姉を殺し、絹を丸めんと思ひし」
数学で、切り捨て、切り上げ、四捨五入などによって、ある値の近似値を求める。
[語誌]マロ(丸)からマルへの変化にともなって、このマルムも室町時代にマロムから生じたと見られる。

まる・い【丸・円】

〘形口〙 まる・し 〘形ク〙
① 円形である。球形である。
※杜詩続翠抄(1439頃)二「ふとかるべい処はふとく、まるかるべい処はまるし」
② 円を描くように曲がっている。まっすぐでない。
③ 物事の状態などが穏やかである。事が荒立たないでいる。
※浄瑠璃・夏祭浪花鑑(1745)三「丸う捌いた男作(をとこだて)
④ 物の性質が柔らかい感じである。また、人柄などが円満である。
※俳諧・毛吹草(1638)六「お心もさぞ丸からん月の㒵〈一正〉」
⑤ よく太っている。ふくぶくしい。
まる‐げ
〘形動〙
まる‐さ
〘名〙

まろか・る【丸・円】

[1] 〘自ラ下二〙 (後世は「まろがる」)
① 物が、丸く凝りかたまる。丸いかたまりになる。
※今昔(1120頃か)三〇「大指の大さ許なる物の黄黒ばみたるが、〈略〉打丸かれて入たり」
② 一つにかたまり合う。一つになる。
※源氏(1001‐14頃)朝顔「まろかれたる御ひたひかみ、ひきつくろひ給へど」
[2] 〘自ラ五(四)〙 (一)②に同じ。
※狭衣物語(1069‐77頃か)一「唐衣を引き被きつつ、ひとへにまろかり合ひたる程に」

まろか・す【丸・円】

〘他サ四〙 (後世は「まろがす」)
① 丸いかたまりにする。丸める。ひとまとめにする。〔新訳華厳経音義私記(794)〕
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「つちをまろかしてこれを仏といはば」
② 髪をそって坊主にする。まるめる。
※改正増補和英語林集成(1886)「カシラヲ marokasu(マロカス)

まろ‐・む【丸・円】

[1] 〘自マ四〙 丸くなる。まるまる。
※栄花(1028‐92頃)若ばえ「浅ましうおどろおどろしう、袖口はまろみ出でたる程」
[2] 〘他マ下二〙 ⇒まろめる(丸━)

まろ‐・ぐ【丸・円】

〘他ガ下二〙 丸める。まとめる。ひとまとめにする。
※宇治拾遺(1221頃)二「是を薄に打つに、七八千枚を打ちつ、是をまろげてみな買はむ人もがなと思て」

まる・し【丸・円】

〘形ク〙 ⇒まるい(丸)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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