日本大百科全書(ニッポニカ) 「中村蘭台」の意味・わかりやすい解説
中村蘭台
なかむららんたい
(1856―1915)
明治・大正の篆刻(てんこく)家。東京の人。名は蘇香(そこう)、通称稲吉または藤吉。蘭台のほかに香艸居(こうそうきょ)の別号がある。高田緑雲に就き、初め中国近世篆刻の祖といわれる文三橋(ぶんさんきょう)、何雪漁(かせつりょう)の法を学んだが、のち徐三庚(じょさんこう)の繊細流麗な作風に傾倒、さらに秦漢(しんかん)の古銅印や浙派(せっぱ)、および鄧完白(とうかんぱく)、趙之謙(ちょうしけん)らの刀法をも取り入れ、独自の刻風を打ち出した。ことに鈕(ちゅう)(印章のつまみ)も自刻した木印に新境地を開き、また木額や盆など工芸的作品も好んで制作した。同志とともに丁未印社(ていびいんしゃ)を創設。印譜に『酔漢堂印存』、『蘭台印集』(正・続・三集)がある。没後、二男の秋作(1892―1969)が2世蘭台を継いだ。
[松原 茂]