中性子星(読み)チュウセイシセイ(英語表記)neutron star

翻訳|neutron star

デジタル大辞泉 「中性子星」の意味・読み・例文・類語

ちゅうせいし‐せい【中性子星】

ほとんど中性子だけからなる超高密度の星。半径は10キロ程度、質量は太陽の1~2倍で、密度は1立方センチあたり10億トンにもなる。1967年に発見されたパルサーが中性子星で超新星爆発の残骸であることがわかった。

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精選版 日本国語大辞典 「中性子星」の意味・読み・例文・類語

ちゅうせいし‐せい【中性子星】

〘名〙 半径が一〇キロメートル程度で質量は太陽程度の星。平均密度は水の密度の約一億倍の一千万倍。物質は高密度のためほとんど中性子となる。進化した星が重力崩壊して生ずると考えられる。一九三九年にオッペンハイマーボルコフによって予言され、六〇年代にX線星やパルサーが発見されて、これが中性子星と考えられている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「中性子星」の意味・わかりやすい解説

中性子星
ちゅうせいしせい
neutron star

ほとんどが中性子から構成されている天体。中性子星の概念は、1932年にチャドウィックが中性子を発見してのち、ほどなくして誕生した。星全体が一つの巨大な原子核ともみなされる超高密度の中性子星の存在の可能性は、まずランダウによって指摘された。一方、バーデツビッキーは1933年に、超新星爆発により中性子星がつくられるという考えを提唱した。一般相対性理論と中性子フェルミ気体の状態方程式を用いた中性子星の構造の研究は、1939年にオッペンハイマーとウォルコフVolkoffによって発表された。

 このように中性子星の存在は理論的には早くから予言されていたが、観測的に中性子星の存在が確証されたのは、1967年にイギリスのヒューウィッシュらによって発見されたパルサーが中性子星と同定されてからである。中性子星は電波パルサーとして存在するのみならず、近接連星系に存在するときには強いX線星として観測されることが、1970年代からのX線天文学の観測により明らかにされた。

 一般にフェルミ粒子からなる物質は、温度0度においても有限の圧力を示す。このために温度0Kの星が安定に存在することができる。中心密度が1立方センチメートル当り1014~1015.5グラムの星が中性子星である。中性子星の最大質量は太陽質量の1.7倍程度であることがわかる。1立方センチメートル当り109グラム以下の中心密度の星が白色矮星(わいせい)である。安定な白色矮星と中性子星の密度領域以外では一般に星は不安定になっている。

 中性子星とは、中心部がおもに中性子からなる星をいうのであって、星全体がすべて中性子からできているのではない。いちばん外側の領域は外殻とよばれ、裸の原子核からなる結晶格子の間を相対論的に縮退した電子液体が満たしている。その内側には内殻とよばれる領域があり、原子核の結晶格子と電子液体に加えて、中性子液体が存在する。さらに内側には量子液体領域があって、中性子液体、陽子液体、電子液体の3種のフェルミ液体が共存している。

 現在、電波パルサーおよびX線星としての中性子星の観測が飛躍的に進み、中性子星の物理学は定量的な実証科学の段階に入っている。

[伊藤直紀]


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改訂新版 世界大百科事典 「中性子星」の意味・わかりやすい解説

中性子星 (ちゅうせいしせい)
neutron star

恒星がその進化の終末に到達する中性子物質からなる超高密度の星。中性子星の存在は,すでに1930年代にL.D.ランダウ,J.R.オッペンハイマーらにより理論的に予言されていた。また超新星爆発の際に中性子星が残骸としてできるとする考えを,W.バーデとツビッキーF.Zwickyが提案している。しかし,その後30年間中性子星は直接観測されず,幻の星であった。ところが,67年に秒単位の周期的電波のパルスを出すパルサーpulsarが発見され,パルサーのモデルとして自転する磁場をもった中性子星が提案された。その後超新星爆発の残骸であるかに星雲の中心に周期0.033秒のパルサーが発見され,中性子星の存在および超新星爆発の残骸として中性子星ができるとするバーデらの予言が証明された。さらに70年代には,X線星の多くのものが,中性子星とふつうの星からなる近接連星系であることがわかってきた。中性子星は,その質量が太陽質量の1~2倍,半径は10km程度,内部の物質密度は10億t/cm3という超高密度の星である。このような超高密度物質では縮退した電子のフェルミエネルギーが十分高くなり,原子核は電子を捕獲して中性子過剰核に,さらに過剰な中性子は原子核からこぼれ出し,安定な自由中性子になる。このような物質を中性子物質といい,中性子物質からなる星が中性子星である。中性子星ではその極端に強い重力場のため,ニュートン力学では記述できずアインシュタイン一般相対論を必要とする。また中性子星の質量には上限があり,太陽質量の2~3倍であると考えられている。質量の大きい恒星が,中心での核燃料を使い尽くしてしまうと,自己の重力を支えきれなくなり重力崩壊を起こす。その際解放された重力エネルギーの一部が,星の外層に伝えられ,外層は吹き飛ばされる。これが超新星爆発と考えられている。残った中心核は超高密度に圧縮されるが,その質量が太陽質量の約2倍以上の場合はブラックホールに,それ以下の場合は中性子星になると考えられている。
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百科事典マイペディア 「中性子星」の意味・わかりやすい解説

中性子星【ちゅうせいしせい】

恒星が進化の終末に到達する中性子物質からなる超高密度の星。存在は1930年代に理論的に予想され,超新星爆発の残骸として中性子星の誕生する考えが提案された。さらに1967年パルサーが発見され,パルサーのモデルとして自転する磁場をもった中性子星が考えられた。その後,超新星爆発の残骸であるかに(蟹)星雲の中心にパルサーが発見されて中性子星の存在が証明された。1970年代にはX線星の多くのものが中性子星とふつうの恒星との近接連星であることがわかった。こうした連星系では恒星の大気は中性子星に吸い取られ,中性子星のまわりを回転しながら土星の輪のような円盤状となり,中性子星に落下する。この大気の円盤を降着円盤といい,1984年日本のX線天文衛星〈てんま〉の観測で実証された。中性子星は,質量が太陽の1〜2倍,半径は10km程度,内部の物質密度は1cm3当り10億tで,太陽の全放射量の1万倍のエネルギーを放射している。星が超新星爆発を起こし,外層が吹き飛ばされて残った中心核は超高密度に圧縮されるが,その質量が太陽物質の約2倍以上の場合はブラックホールに,2倍以下の場合は中性子星になると考えられている。
→関連項目重力崩壊中性子超新星

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「中性子星」の意味・わかりやすい解説

中性子星
ちゅうせいしせい
neutron star

中性子からできている星。その存在可能性について天文学者フリッツ・ツウィッキーおよびウォルター・バーデが 1934年に議論した。ジョン・ロバート・オッペンハイマーやレフ・ランダウらはその構造を理論的に論じたが,中性子星が現実に存在するかどうかは長い間疑問であった。しかし,1967年アントニー・ヒューウィッシュが周期 1.3秒ほどで点滅する電波源パルサーを発見,これが高速で自転する中性子星であることが明らかになり,存在が確認された。かに星雲中の中性子星は周期 0.033秒で,電波のほかに X線や可視光でも点滅が観測される。中性子星の直径は 14kmしかないが太陽ほどの質量をもち,平均密度は 1.4×1015g/cm3もある。太陽の 3.5~10倍までの質量をもった星は進化の最終段階で超新星爆発を起こし,その質量の大部分を吹き飛ばしてしまうが,中心には中性子星が残る。中性子星は高速で自転しており,また強い磁場をもっている。自転軸と磁軸がずれていると(地球の場合と同じ)自転に伴い磁極から電子が放出され,強い X線,可視光,電波を出すと考えられている。エネルギーを放出するために,その自転周期はしだいに遅くなっていくが,中性子星内部で結晶化した中性子の構造に変化が起こり,突然周期がわずかに短くなる星震現象も観測される。超新星爆発後に取り残される星の質量がさらに大きいと重力によってつぶれ,ブラックホールになる。

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化学辞典 第2版 「中性子星」の解説

中性子星
チュウセイシセイ
neutron star

主として中性子からなる星.太陽の3~8倍の質量をもつ恒星の終焉の姿と考えられている.J.R. OppenheimerやW. Baadeが中性子の発見後,理論的に予想した.直径約20 km で質量の上限が太陽の1.4倍もある.中心部の密度は 1014~1015 g cm-3.超新星爆発後にエネルギー源が尽きて重力を支えきれずに収縮し,陽子と電子がβ崩壊の逆の過程で結合して,中性子とニュートリノにかわって生まれる.超新星爆発前の星がもともともっていた磁場が,収縮により 108~109 T(テスラ)の超強力磁場にかわり,その回転(中性子星の速い自転)によって荷電粒子が加速されて発生する電波,X線が電波パルサー,X線パルサーとして観測される.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

知恵蔵 「中性子星」の解説

中性子星

太陽質量の約8〜30倍の質量を持つ星が超新星爆発を起こした後に残る星のコアで、中性子の縮退圧で重力による崩壊を防いでいる星。質量は太陽質量のほぼ1.4倍だが、半径は10km程度しかない。従って、内部は極めて高密度(10億t/立方センチ)。高速で自転しているため、表面磁場は非常に強く、1億T(テスラ)もある。

(谷口義明 愛媛大学宇宙進化研究センターセンター長 / 2007年)

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デジタル大辞泉プラス 「中性子星」の解説

中性子星

米国の作家ラリー・ニーヴンのSF短編集(1968)。原題《Neutron Star》。表題作はヒューゴー賞受賞(1967)。

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世界大百科事典(旧版)内の中性子星の言及

【原子核】より

…質量公式そのものや分裂障壁の評価などはおおまかなものなので,詳しい数値には意味がないが,だいたいAが300をこえる寿命の長い原子核は存在しないことになる。ただし,最近の電波天文学やX線天文学の進歩によって,その存在がほぼ確実になった中性子星の内部はAが極端に大きい原子核とみなすこともでき,その性質は通常の原子核の性質と密接に結びついていると考えられている。核分裂
[殻効果と対相関効果]
 原子核の結合エネルギーをより詳しく調べると,上の質量公式にいくつかの補正が必要であることがわかる。…

【パルサー】より

…秒あるいはミリ秒の単位の短い周期で,パルス状の電波を放射する天体。パルサーは強い磁場をもった自転する中性子星であると現在では考えられている。1967年の秋,ケンブリッジ大学のA.ヒューイッシュのグループの大学院生ベル嬢は,空のある定まった方向からパルス状の電波がやってくることに気がついた。…

※「中性子星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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