世界人権宣言(読み)せかいじんけんせんげん(英語表記)Universal Declaration of Human Rights

精選版 日本国語大辞典 「世界人権宣言」の意味・読み・例文・類語

せかい‐じんけんせんげん【世界人権宣言】

(Universal Declaration of Human Rights の訳語) 一九四八年一二月、パリ国際連合第三回総会で採択された人権に関する世界宣言。法的な拘束力はなく、一つの理想を示したもので、前文と本文三〇条から成る。市民的・政治的基本権のほか、社会保障を受ける権利、労働権、教育を受ける権利などの経済的・社会的な権利も規定している。

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デジタル大辞泉 「世界人権宣言」の意味・読み・例文・類語

せかい‐じんけんせんげん【世界人権宣言】

1948年、第3回国連総会で採択された人権に関する世界宣言。法的拘束力はないが、すべての人民・国家が達成すべき基準を示す。これに基づき「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」「市民的および政治的権利に関する国際規約」がつくられた。

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改訂新版 世界大百科事典 「世界人権宣言」の意味・わかりやすい解説

世界人権宣言 (せかいじんけんせんげん)
Universal Declaration of Human Rights

1948年12月10日,国際連合第3回総会で採択され,すべての人民とすべての国とが達成すべき基準として布告された宣言。

第2次世界大戦中,連合国は,戦争目的の一つに人権の擁護を掲げ,これはアメリカ大統領ローズベルトの四つの自由,大西洋憲章,連合国共同宣言などを経て,国際連合憲章の人権規定となった。しかし,憲章の人権規定は一般的なものにとどまっていたため,経済社会理事会の下部機関として憲章中に予定されていた人権委員会Commission on Human Rights(国際人権規約によって新設された人権委員会Human Rights Committeeと混同してはならない)が設置され,宣言案を準備した。とくに,社会主義諸国は社会権を,資本主義諸国は自由権をそれぞれ強調し,両陣営の間に,人権の考え方をめぐって大きな対立があった。またサウジアラビア南アフリカ共和国はきわめて保守的な態度をとった。この2国と社会主義諸国は結局棄権し,世界人権宣言は賛成48,反対0,棄権8で採択された。

世界人権宣言は国連総会の決議であり,条約と同じ意味の法的拘束力をもたないが,国連総会決議の中で〈宣言〉の名称をもつものは,単なる勧告以上の意味をもっている。とくに世界人権宣言は,各国の国内判決,憲法のほか,多くの条約で言及されており,大きな影響力をもっている。(1)国内判決で言及された例としては,アメリカのカリフォルニア地区裁判所の藤井対カリフォルニア判決のほか,フランス,イタリア,オランダなどの判例がある。(2)とくに1960年代に独立したアフリカの約20ヵ国の憲法で言及している。(3)対伊平和条約に基づくトリエステのための特別規程は,イタリア,旧ユーゴの両当局に対し,各施政地域での世界人権宣言の遵守義務を定めていた。また,対日平和条約のほか,難民条約等の一連の国連の人権関係条約,ILOの強制労働廃止条約,雇用・職業における差別禁止条約,ヨーロッパ人権条約米州人権条約などが条約前文で世界人権宣言に言及している。

世界人権宣言は,前文のほか30ヵ条からなり,内容的に三つの部分に分けられる。第1に,人間の自由平等・無差別の原則を定める一般規定,第2に,各種の人権を定めた実体規定,第3に,宣言中の権利・自由が完全に実現される社会的国際的秩序を享有する権利,社会に対する義務,権利喪失の場合を定める一般規定である。第2の各種の人権としては次のようなものがあげられている。(1)市民的政治的権利 生命・自由・身体の安全,奴隷の禁止,拷問・非人道的待遇または刑罰の禁止,法の前における人としての承認,法の前の平等,基本的権利の侵害に対する救済,恣意的な逮捕・拘禁・追放の禁止,独立の公平な裁判所による公正公開の審理を受ける権利,無罪の推定,遡及処罰の禁止,プライバシー・名誉・信用の保護,移動・居住の自由,迫害からの庇護,国籍の権利,婚姻と家庭の権利,私有財産,思想・良心・宗教の自由,表現の自由,集会・結社の自由,参政権を定めており,(2)経済的社会的権利 社会保障,労働権,休息・休暇の権利,生活保障,教育権,文化生活に参加する権利,を定めている。
基本的人権 →国際人権規約
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「世界人権宣言」の意味・わかりやすい解説

世界人権宣言
せかいじんけんせんげん
Universal Declaration of Human Rights

1948年12月10日、第3回国連総会で採択された一般的人権宣言で、すべての人民とすべての国が達成すべき共通の基準とされている。

 第二次世界大戦中、1941年1月6日、アメリカ大統領ルーズベルトは、議会に対する教書のなかで、四つの自由(言論・信仰の自由、欠乏・恐怖からの自由)について述べたが、それは41年の大西洋憲章、42年の連合国共同宣言を経て、国際連合憲章の人権諸条項となった。45年の国連創設会議で、憲章のなかに国際人権章典を含ませるべきであるとの意見もあったが、憲章には人権尊重の基本原則だけを定め、保護さるべき人権の具体的内容は、経済社会理事会の補助機関である人権の伸長に関する委員会(人権委員会)の作業にゆだねられた。世界人権宣言は、同委員会の検討の成果であり、同委員会は、それに次いで、法的拘束力をもつ国際人権規約の作成にあたった。

 この宣言は、第1条から第20条までを市民的自由権的権利、第21条を政治的権利、第22条から第27条までを経済的社会的文化的権利規定にあてている。1988年には宣言採択40周年を記念して、採択日の12月10日を人権デーとした。わが国は1951年(昭和26)の対日講和条約で、同宣言の目的実現のための努力を誓ったほか、人権デーに先だつ1週間を人権週間とし、毎年各種の行事が行われている。

宮崎繁樹

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百科事典マイペディア 「世界人権宣言」の意味・わかりやすい解説

世界人権宣言【せかいじんけんせんげん】

1948年第3回国連総会で採択された宣言。全文30条。市民的・政治的自由権に加えて,社会保障を受ける権利,労働権,労働者団結権,教育権,文化的権利などの基本的人権を規定。法的拘束力はないが,人類共通の目標・基準として憲法でこの宣言に触れている国家も数多くある。また,その後の国際人権規約などの諸条約の母体となった。→ソフト・ロー
→関連項目カーカサン基本的人権国際連合国連人権委員会国連世界人権会議児童憲章反差別国際運動庇護権ローマ条約

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知恵蔵 「世界人権宣言」の解説

世界人権宣言

世界人権宣言は1948年12月10日の第3回国連総会で、すべての人民とすべての国が達成すべき人権の共通基準として採択された。第2次大戦中の著しい人権侵害に対する反省と、自由実現を戦争目的に掲げた連合国側勝利の結果、戦後の国際社会の組織化を意図した国際連合の目的、任務の中にも基本的人権の尊重が定められた。45年のサンフランシスコ国連創設会議の折、憲章に人権宣言規定を置くべきだとの主張もあったが、時間的制約のため憲章には人権尊重の基本だけを定め、人権内容の検討は、国連人権委員会に任せられた。宣言の内容は、(1)自由権的諸権利(第1〜20条)、(2)参政権(第21条)、(3)社会権的諸権利(第22〜27条)、に分類できる。この宣言はその後の各国憲法や地域人権条約に影響を与え、日本も51年の対日平和条約前文でこの宣言の目的実現のため努力する意思を宣言した。世界人権宣言が採択された12月10日は、世界人権デーとされ、日本はこの日に先立つ1週間を人権週間としている。98年には採択50周年にあたる記念行事が、各国で行われた。

(宮崎繁樹 明治大学名誉教授 / 2007年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「世界人権宣言」の意味・わかりやすい解説

世界人権宣言
せかいじんけんせんげん
Universal Declaration of Human Rights

1948年 12月 10日,国際連合第3回総会で採択された宣言。前文と本文 30ヵ条から成る。法のもとの平等,身体の安全,思想・良心・宗教の自由,表現の自由,集会・結社の自由,生存権などが,全国家,人民の「達成すべき共通の基準」であることがうたわれている。もっともこの宣言は,条約とは異なり加盟国に対し法的拘束力をもたない点で限界がある。この点,66年に国連第 21回総会で採択され,76年に発効した国際人権規約は,加盟国に対し法的拘束力をもつもので,その具体的な展開が注目されている。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「世界人権宣言」の解説

世界人権宣言
せかいじんけんせんげん

1948年12月10日,第3回国際連合総会において採択された宣言。前文および全30条からなる。46年にできた国連人権委員会が,国際社会で保護されるべき人権の具体的内容を明らかにする宣言の作成作業を進め,その結果として成立した。賛成48,反対0,棄権8(ソ連,白ロシア,ウクライナ,チェコ・スロバキア,ポーランド,ユーゴスラビア,サウジアラビア,南アフリカ)で採択された。法的拘束力を欠くものの,政治体制の相違に関係なく一般に受諾しうる「すべての人民とすべての国が達成すべき共通の基準」(前文)を定めている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「世界人権宣言」の解説

世界人権宣言(せかいじんけんせんげん)
Universal Declaration of Human Rights

1948年,国際連合で採択された最初の包括的な人権宣言。第二次世界大戦の教訓として,国連は人権尊重のための国際協力を国連の目的の一つに掲げ,国連の人権委員会で人権の世界共通基準づくりをめざした。その成果が世界人権宣言として採択された。ソ連など8カ国は棄権した。のちに国際人権規約など人権諸条約の基礎となる。

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旺文社世界史事典 三訂版 「世界人権宣言」の解説

世界人権宣言
せかいじんけんせんげん
Universal Declaration of Human Rights

1948年12月10日,第3回国際連合総会で採択された宣言
すべての国家・国民の達成すべき基本的人権と自由についての理想をうたう。ソ連など社会主義諸国やサウジアラビア・南アフリカ連邦は採択にあたって棄権した。法的拘束力はない。

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世界大百科事典(旧版)内の世界人権宣言の言及

【学習権】より

…日本では,下中弥三郎が1920年に《教育再造》ではじめて学習権の主張をし,彼が中心となって結成された日本教員組合啓明会(1920)の綱領に取り入れられた。今日では,世界人権宣言(1948),児童の権利宣言(1959),国際人権規約(1966。いずれも国連総会で採択)においても確認されている人間の権利である。…

【基本的人権】より

…国際連合はその憲章において,基本的人権と人間の尊厳および価値と男女および大小各国の同権とに関する信念を確認し(前文),人権・性・言語または宗教による差別なく,すべての者のために人権および基本的自由を尊重するよう助長奨励することについて国際的に協力することをその目的の一つとしている(1条)。1948年には人権委員会が作成した草案に基づいて,パリでの第3回総会において世界人権宣言が採択された。宣言は30ヵ条からなる。…

【国際人権規約】より

…1966年12月16日国際連合第21回総会において,両規約は全会一致で,自由権規約についての選択議定書は,ソ連・東欧諸国が反対から棄権にまわり,賛成66,反対2,棄権38で,採択された。国際人権規約は,世界人権宣言とともに,国際連合が当初に予定した〈国際人権章典〉を構成し,第2次大戦後20年間の国連の人権分野での活動の総決算とでもいえるものであり,人権の国際的保障の分野で国際社会がうち建てた金字塔である。1997年9月末現在,社会権規約は日本を含む135ヵ国が当事国であり,自由権規約は同じく136ヵ国が当事国である。…

【知る権利】より

…このため,ジャーナリストや法律家を中心に〈知る権利〉のための運動が展開され,1967年情報自由法(FOIA)が制定され,情報公開制の実現をみることになった。これらの動きは世界的な潮流であり,すでに1948年の第3回国連総会で採択された〈世界人権宣言〉はその19条で〈人はすべて(中略)あらゆる手段によりかつ国境を越えると否とにかかわりなく,情報および思想を探求したり入手したり伝達したりする〉権利を有する,とした。66年の第21回国連総会では,〈国際人権規約〉が採択され(日本は79年加入),世界人権宣言と同趣旨の条項が規定された。…

【法の支配】より

…そのことを念頭に置くことは,個々の法制度の意義を十分に理解するためにも,また,その運用および将来の動向を予測するためにも望ましい。 法の支配の精神は,第2次大戦後,ナチスが法実証主義的にはまったく正統なルートを通して政権に就き,圧政を行いえたことに対する反省もあって,英米法系以外の国でも,しばしば口にされるようになった,世界人権宣言(1948)の前文3項が〈法の支配によって人権を保護することが肝要である〉とうたっているのも,法の支配の精神の国際化の一つのあらわれということができよう。 日本国憲法が,違憲立法審査制度を採用し,かつ,明治憲法のもとでとられていた行政裁判所制度を採用せず行政事件も最終的には通常裁判所の判断を受けるべきものとしたことも,立法権・行政権の濫用を防止しようという〈法の支配〉の精神に基づいたものである。…

【ヨーロッパ人権条約】より

…正式には,〈人権と基本的自由保護のための条約〉。戦後のヨーロッパ統合運動のなかから,共通の遺産である理想・原則を擁護,実現し,経済的社会的進歩を促進するために加盟国のいっそうの一致を達成する目的で,1949年5月に結成されたヨーロッパ審議会が,世界人権宣言中のいわゆる自由権の集団的保障を確保する最初の手段として作成した。50年11月4日ローマで調印され53年9月3日発効。…

※「世界人権宣言」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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