不条理(読み)ふじょうり

精選版 日本国語大辞典 「不条理」の意味・読み・例文・類語

ふ‐じょうり ‥デウリ【不条理】

〘名〙
① (形動) 物事のすじみちが立たないこと。道理に合わないこと。また、そのさま。
※行在所日誌‐四・慶応四年(1868)四月一五日「或は不条理申掛け候者有候共
哲学用語。→不条理の哲学

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デジタル大辞泉 「不条理」の意味・読み・例文・類語

ふ‐じょうり〔‐デウリ〕【不条理】

[名・形動]
筋道が通らないこと。道理に合わないこと。また、そのさま。「不条理な話」
実存主義の用語。人生に何の意義も見いだせない人間存在の絶望的状況。カミュの不条理の哲学によって知られる。
[類語]無理無体理不尽無茶非理不当不合理不自然非合理言語道断無茶めちゃむちゃくちゃめちゃくちゃめちゃめちゃ滅法法外変則的変則変格破格イレギュラー異例珍しい異常特異異状非常別条異様奇警れる外れる脱線狂い踏み外す逸脱ずれるずれ型破り例外例外的風変わり格外

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改訂新版 世界大百科事典 「不条理」の意味・わかりやすい解説

不条理 (ふじょうり)
absurdité

本来は〈非論理的な〉〈分別を欠いた〉〈ばかげた〉などを意味する一般的な言葉だが,フランスの作家A.カミュが《異邦人》《シジフォスの神話》(ともに1942)で,この言葉に独自の哲学的な意味をもたせ,第2次大戦後の世界に広く流通することになった。カミュによれば,〈不条理〉とは世界の属性でも人間の属性でもなく,人間に与えられた条件の根源的なあいまいさに由来する世界と人間との関係そのものであり,理解を拒絶するものと明晰な理解への願望との果てしない対決である。この考えは,ニーチェ以降のヨーロッパの実存主義的な思想潮流の中に位置するものであったが,〈不条理〉は人間存在の置かれた状態を示す言葉ではなくて,世界に対する態度を示す言葉であり,ここに,この言葉がカミュ自身の意図をはるかにこえて,西欧や日本における一時代の青年知識層に強い知的刺激を与えた一つの要因があったといえよう。一方,19世紀後半以降,人間の条件としての〈不条理性〉への認識の深化は,人間の行為や表現の無意味さについての意識の先鋭化をもたらし,〈不条理性〉そのものの表現の探求に向かうさまざまな芸術作品を生み出した。イギリス批評家M.エスリンは,ジャリに始まる演劇におけるこの探求を系譜づけ〈不条理劇theatre of the absurd〉と命名したが,〈不条理〉は演劇のみならず,現代における小説,詩,絵画音楽特性を表す言葉の一つといえよう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「不条理」の意味・わかりやすい解説

不条理
ふじょうり

人間と人間、人間と世界との関係が条理・道理にあわないこと。つまり、必然的な根拠が不在であり、すべては偶然に基づくということである。フランス語のアプシュルディテabsurditéの訳で、この語の現代的な用法はカミュに端を発する。彼は『異邦人』(1942)において、現代の不条理の状況、現代的な不条理の人間を小説の形で提示し、さらに『シジフォスの神話』(1942)においてそれに哲学的、論理的な解明を与えた(「不条理とは本質的な観念であり、第一の真理である」)。そして、それに対するサルトルの好意的な批評などもあって、一躍有名になったことばである。

 神なきあと(ニーチェの「神は死んだ」)の人間の存在は偶然であり、人間と世界との関係も偶然である。人間の生にはなんらの確たる意味も根拠も目的もない。不条理の人間は他者たち――人生の意味や必然性を素朴に前提する人たち――との徹底した断絶のただなかで、人生の無目的性を生きざるをえない。不条理とは同時に、素朴なブルジョア的価値観に支配された現代社会に対する痛烈な批判のことばでもあった。

[足立和浩]

『カミュ著、窪田啓作訳『異邦人』(新潮文庫)』『中村光夫・佐藤朔・渡辺守章他訳『新潮世界文学48・49 カミュ』(1968、69・新潮社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「不条理」の意味・わかりやすい解説

不条理
ふじょうり
l'absurde

本来は良識や理性の法則に反することで,非論理的,矛盾的と同義。フランスの作家カミュの評論『シーシュポスの神話』 (1942) によって有名になった哲学,文学上の概念で,この世の無意味,非合理と,この世を明晰に理解しようとする人間のやむなき欲求との対立関係から生れるとされる。この概念の具体的表現はサルトルの『嘔吐』やカミュの『異邦人』にみることができ,そこにおいては反抗への意志を媒介として積極的意味が与えられているが,イヨネスコやベケットの不条理劇においては人間世界の無意味性が徹底して描かれ,人間はそれに対して反抗する方法すらもっていないものとして描かれている。

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