不条理
ふじょうり
人間と人間、人間と世界との関係が条理・道理にあわないこと。つまり、必然的な根拠が不在であり、すべては偶然に基づくということである。フランス語のアプシュルディテabsurditéの訳で、この語の現代的な用法はカミュに端を発する。彼は『異邦人』(1942)において、現代の不条理の状況、現代的な不条理の人間を小説の形で提示し、さらに『シジフォスの神話』(1942)においてそれに哲学的、論理的な解明を与えた(「不条理とは本質的な観念であり、第一の真理である」)。そして、それに対するサルトルの好意的な批評などもあって、一躍有名になったことばである。
神なきあと(ニーチェの「神は死んだ」)の人間の存在は偶然であり、人間と世界との関係も偶然である。人間の生にはなんらの確たる意味も根拠も目的もない。不条理の人間は他者たち――人生の意味や必然性を素朴に前提する人たち――との徹底した断絶のただなかで、人生の無目的性を生きざるをえない。不条理とは同時に、素朴なブルジョア的価値観に支配された現代社会に対する痛烈な批判のことばでもあった。
[足立和浩]
『カミュ著、窪田啓作訳『異邦人』(新潮文庫)』▽『中村光夫・佐藤朔・渡辺守章他訳『新潮世界文学48・49 カミュ』(1968、69・新潮社)』
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不条理
ふじょうり
l'absurde
本来は良識や理性の法則に反することで,非論理的,矛盾的と同義。フランスの作家カミュの評論『シーシュポスの神話』 (1942) によって有名になった哲学,文学上の概念で,この世の無意味,非合理と,この世を明晰に理解しようとする人間のやむなき欲求との対立関係から生れるとされる。この概念の具体的表現はサルトルの『嘔吐』やカミュの『異邦人』にみることができ,そこにおいては反抗への意志を媒介として積極的意味が与えられているが,イヨネスコやベケットの不条理劇においては人間世界の無意味性が徹底して描かれ,人間はそれに対して反抗する方法すらもっていないものとして描かれている。
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デジタル大辞泉
「不条理」の意味・読み・例文・類語
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ふ‐じょうり ‥デウリ【不条理】
〘名〙
① (形動) 物事のすじみちが立たないこと。道理に合わないこと。また、そのさま。
※行在所日誌‐四・慶応四年(1868)四月一五日「或は不条理申掛け候者有レ之候共」
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ふじょうり【不条理 absurdité】
本来は〈非論理的な〉〈分別を欠いた〉〈ばかげた〉などを意味する一般的な言葉だが,フランスの作家A.カミュが《異邦人》《シジフォスの神話》(ともに1942)で,この言葉に独自の哲学的な意味をもたせ,第2次大戦後の世界に広く流通することになった。カミュによれば,〈不条理〉とは世界の属性でも人間の属性でもなく,人間に与えられた条件の根源的なあいまいさに由来する世界と人間との関係そのものであり,理解を拒絶するものと明晰な理解への願望との果てしない対決である。
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