不感症(読み)ふかんしょう(英語表記)sexual anesthesia

精選版 日本国語大辞典 「不感症」の意味・読み・例文・類語

ふかん‐しょう ‥シャウ【不感症】

〘名〙
① 女性が性交に際して快感の得られない状態。性器疾病や精神的要素による。〔ユーモア・モダン語辞典(1932)〕
② 転じて、感覚が鈍かったり、慣れてしまっていたりして、感じられるはずのことを感じないこと。
※盲獣(1931‐32)〈江戸川乱歩執念花束「これでもか、これでもかと、艷(なまめ)かしき姿態の限りを尽すのだが、男は不感性(フカンシャウ)の様に見向かうともしない」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「不感症」の意味・読み・例文・類語

ふかん‐しょう〔‐シヤウ〕【不感症】

性交の際、女性が快感を感じない状態。
感受性が鈍くなったり、そのことに慣れたりして、普通なら感じるはずの物事に感じなくなること。「騒音に不感症になる」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「不感症」の意味・わかりやすい解説

不感症 (ふかんしょう)
sexual anesthesia

女性において,性欲や性反応はあるが,オーガスムの量的不全,すなわちオーガスムが得られないか,きわめて弱い状態をいう。似た言葉に冷感症があるが,これは性欲も性反応もない状態をさす。不感症は女性の約1割にみられるとされている。

 オーガスムは性交の極期にあたり,骨盤底および性器の平滑筋の快適痙攣(けいれん)を伴い,女性では腟壁および子宮体部の収縮が起こり,男性では副性器平滑筋の攣縮によって射精が起こる。同時に全身的に交感神経系の興奮もひき起こされるが,これは女性において,とくに著しい反応を示すことが多い。このようなオーガスムの発現は視床下部およびその周辺域において調節されており,ドーパミン系機構dopaminergic systemで促進され,セロトニン系機構serotoninergic systemで抑制される。この中枢での調節のもとに,末梢機構として,交感神経系とくにα-アドレナリン受容機構が作動して,オーガスムが発現するのである。

 オーガスム不全を起こす原因としては,性器局部における器質的・生理的変化や内分泌異常などがあげられるが,原因の約90%は心理的な原因によるものとされている。心理的原因としては,情緒不安,性交に対する嫌悪や恐怖,同性愛,夫婦間の問題,さらに性的発達初期に被った有害な影響などがあげられる。また精神的・肉体的過労によることもある。これら心理的要因や過労によって,大脳皮質から性抑制がドーパミン系機構に加わり,オーガスムの発現を抑制すると考えられている。この場合には,治療として,精神療法や心理療法,すなわちいわゆるセックス・カウンセリングやセックス・セラピーが有効となる。

 その発生のメカニズムからすれば,男性においても不感症に相当する状態は存在しうるわけで,勃起があり性交は行えても,射精不能である状態が,ニュアンスは少し異なるが,不感症と同じ範疇(はんちゆう)に入ることになる。

 なお,以上の原因によるもののほか,中枢神経の機能障害によって不感症が起こることがあるが,この場合,ドーパミン系機構の賦活あるいはセロトニン系機構の抑制を起こす薬剤で治癒することが少なくない。
性交
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「不感症」の意味・わかりやすい解説

不感症
ふかんしょう
sexual anesthesia

性交欲はあるが、性交に際して快感をほとんど感知しないか、あるいはまったく快感を伴わないものをいい、一般に女性についていわれる。性交欲を欠く性交無欲症あるいは冷感症との区別は困難な場合が多い。原因の大半は性的無知によるもので、とくに男性側に原因すると考えられるものとして、前戯のない性交がいちばん大きな原因である。また、このほか男性側の原因としては、早漏やインポテンス、粗暴あるいは無理解な態度などがある。一方、女性側の原因として、男性同様の性的無知からくる性交に対する不安、恐怖、嫌悪、羞恥(しゅうち)などがその大半であるが、ごく一部に性器の発育不全あるいは形態異常のほか、炎症などによる性交時の疼痛(とうつう)といった器質的障害や内分泌疾患などによるものが認められる。

 治療法は、まずその原因を明らかにし、器質的原因による場合にはその原因に対して正しく治療する。一方、心因性のものに対する治療にはパートナーの協力が不可欠で、性的無知や無理解に対しては十分に啓蒙(けいもう)、教育するとともに、実際に性器に対する刺激訓練をパートナー間で行わせる。

[白井將文]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「不感症」の意味・わかりやすい解説

不感症【ふかんしょう】

性交時に,十分な快感を経験できない状態をいう。女性に多い。性欲は一般に正常で,性欲も快感も欠いている場合は冷感症というが,両者の区別は不明確。不感症の原因は性交恐怖,妊娠恐怖,性器疾患による性交痛などのほか,早漏,勃起(ぼっき)不全など男性側に原因がある場合もある。
→関連項目異常性欲

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「不感症」の意味・わかりやすい解説

不感症
ふかんしょう
frigidity

性感異常の一つで,女性に多く,性交はできるが,それに伴う快感が少いか,まったくないもの。妊娠とはほとんど関係がない。男性の場合は男色などに向う傾向が強いが,女性の場合は積極的な異常現象として現れない潜在的なものもある。原因としては,例外的に内分泌系の発育遅延や器質的障害によるものもあるが,ほとんどが,性交に対する不安,恐怖,嫌悪,羞恥など,精神的な理由によるもので,精神療法によって改善をみるとされている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android