不定形耐火物(読み)ふていけいたいかぶつ(英語表記)unshaped refractory

改訂新版 世界大百科事典 「不定形耐火物」の意味・わかりやすい解説

不定形耐火物 (ふていけいたいかぶつ)
unshaped refractory

粉状あるいは練土状,泥状の状態で使用される耐火物総称耐火煉瓦を1個ずつ積み上げて所定窯炉を築造するには,目地としての耐火モルタルが必要であり,築炉に多くの労力を必要とする。これを鉄筋コンクリートのように流し込んで築造できれば,これらの問題点が解消し,あわせて複雑な煉瓦形状も不要となり,また補修が非常に容易になる。以上のようなことから,近年,不定形耐火物が大きく発展してきた。その製品としての種類は多いが,窯炉への施工方法によって末尾に示すような各種の名称が与えられている。

 不定形耐火物の利用で最も古いとみられるのは,19世紀に発明された転炉製鋼法における炉の内張りに粉粒体状のドロマイト耐火物がスタンプ材として使用されたことである。その後,平炉製鋼法,電気炉製鋼法が発明されて,その炉床にマグネシア耐火物が同じようにスタンプ材として利用されている。不定形耐火物の本格的な利用は,1925年ころから欧米で水硬性のキャスタブル耐火物が開発されたことに始まり,次いでプラスチック耐火物が開発されている。日本においては50年ころから,海外の技術を導入して開発が進められ,当初は高能率のボイラー用耐火物として活用された。その後,ラミング耐火物,吹付耐火物などが順次開発されてきた。これらの生産量と全耐火物中に占める割合を表1に示す。

 不定形耐火物を耐火煉瓦と比較した場合の一般的な特徴としては,生産性の向上,省エネルギー化,生産コストの低減ができ,また,目地なし構造が得られ,補修が容易で,施工の機械化,連続化が可能なこと,などがあげられるが,耐食性が悪いことや,価格が高い,などといった問題点もある。

不定形耐火物の種類は多いが,その製造法は類似しているので,最も代表的なキャスタブル耐火物について,その製造工程を図に示す。不定形耐火物に使用される原料は,骨材となる耐火材料と結合剤に大別される。耐火煉瓦のように成形焼成を行わないので,骨材となる原料は使用時に収縮しにくいように事前処理されていることがたいせつであり,場合によっては膨張する骨材を用いることもある。しかし,多くは耐火煉瓦と同様の原料を使用する。また,不定形耐火物はその結合力を結合剤によって得るものであるから,結合剤は非常に重要であり,その硬化特性が決め手になる場合が多い。プラスチック耐火物はそのまま施工できるように水分を含有しているが,その他の不定形材は施工時に水分を添加して使用するのが一般的である。不定形耐火物製品の種類が非常に多いのは,耐火骨材の材質と使用粒度が非常に広範囲にわたっており,かつ結合剤も種々のものが用いられるためである。表2に代表的な各種不定形耐火物の一般的品質を示す。

不定形耐火物の用途は,耐火煉瓦と同様に,鉄鋼用が主体で70%以上を占めている。そのほかではボイラー用,化学工業用,焼却炉用,窯業炉用,非鉄金属炉用などで,耐火煉瓦と類似している。これらの代表的な用途を表3に示す。

不定形耐火物のコラム・用語解説

【不定形耐火物の種類】

キャスタブル耐火物
耐火骨材に結合剤を配合した粉状の耐火物で,施工時に水を加え,流込みによって窯炉の耐火壁をつくる。不定形耐火物のうち最も多量に生産されている。骨材には粘土質,高アルミナ質耐火物が主として用いられ,結合剤として水硬性アルミナセメントを配合したものが一般的であるが,リン酸塩あるいはケイ酸ナトリウムを配合したものもある。
プラスチック耐火物
耐火骨材,耐火粘土,粘結剤を水で十分に練り合わせた練土状の耐火物で,エアランマーなどで打込み施工して使用される。骨材には高アルミナ質,粘土質耐火物が主として用いられる。
ラミング耐火物
プラスチック耐火物と同様にエアランマーなどで打込み施工されるものであるが,とくに炉床スタンプ専用のものをいい,スタンプ材とも呼ばれる。容積安定性,耐浸食性,耐摩耗性に重点がおかれる耐火物で,古くから製鋼用炉などに広く利用されている。高アルミナ質,マグネシア質,ドロマイト質などの骨材を使用し,少量のリン酸塩,ケイ酸ナトリウムの水溶液,タールなどの結合剤が配合される。
スリンガー耐火物
投射機(スリンガーマシン)によって強力にたたきつけて施工される耐火物で,高ケイ酸質,セミジルコン質の骨材に,少量の結合剤と水を添加して製鋼用などに用いられる。
吹付耐火物
窯炉の表面に吹き付けて耐火壁を修理するのに用いられる耐火物。最も簡便で使いやすいことが特徴で,かなり古くから用いられている。吹付けを熱間で行うものと冷間で行うものがある。マグネシア質,ドロマイト質,高アルミナ質,粘土質などほとんどの耐火材料が骨材として使用され,これに結合剤としてリン酸塩,ケイ酸ナトリウムが配合されている。
圧入耐火物
長時間使用された窯炉の補修に,ポンプで炉内に圧入して使用される耐火物。高アルミナ質,粘土質の骨材に結合剤と多くの水を添加して用いられる。
コーティング耐火物
耐火物の表面にこて塗り,あるいは吹付けで塗布され,溶損,スポーリングの防止などの目的で利用される耐火物。粘土質,高アルミナ質,マグネシア質の骨材に少量の結合剤と水を加えて使用される。
耐火モルタル
各種耐火煉瓦の目地材料として使用されるもので,一般に,使用する耐火煉瓦と同質の耐火物粉末が用いられる。従来は別の分類をされていたが,粉末状で不定形であるということから,不定形耐火物として分類されるようになっている。
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百科事典マイペディア 「不定形耐火物」の意味・わかりやすい解説

不定形耐火物【ふていけいたいかぶつ】

複雑な形状を必要とするときなどに用いる粉末状または練り土状の耐火物の総称。耐火モルタルに代わるものとして発達した。キャスタブル耐火物(シャモットあるいは耐火性軽量骨材にアルミナセメントを混合したもの),プラスチック耐火物(耐火骨材に耐火粘土などの粘結材を加えて水と練ったもの),耐火ラミング材(プラスチック耐火物類似のものだが,可塑性が小さい),吹付耐火物などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の不定形耐火物の言及

【耐火物】より

…耐火煉瓦,耐火断熱煉瓦がある。(2)不定形耐火物 一定の形状をもたない非成形耐火物で,施工時に形状が与えられる。キャスタブル耐火物,プラスチック耐火物,吹付耐火物,ラミング耐火物,スリング耐火物,耐火モルタル,その他。…

※「不定形耐火物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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