不均等発展の法則(読み)ふきんとうはってんのほうそく(英語表記)law of uneven development 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「不均等発展の法則」の意味・わかりやすい解説

不均等発展の法則
ふきんとうはってんのほうそく
law of uneven development 英語
Gesetz der Ungleichmäßigkeit Entwicklung ドイツ語

資本主義社会では、諸資本(企業)間、生産諸部門間、諸国家間の発展が、不均等に進むという法則。自由競争を原理とする資本主義もとでは、個別資本(企業)内部では綿密な計画によって生産が行われているにもかかわらず、社会総体としては無計画で、もっぱら個々の資本の利潤追求のために生産が行われる。そのため、諸資本(企業)間の発展は不均等にならざるをえない。また、資本の蓄積が不断の技術革新による有機的構成の高度化を基調として行われるため、生産諸部門のうち、生産手段生産部門(第一部門)が、消費手段生産部門(第二部門)よりもより急速に発展する傾向にある。部門間の不均等発展は、恐慌の究極の根拠(生産と消費の矛盾)の一般的基礎となる。

 独占が支配的原理となる帝国主義の時代には、一方での巨大独占体間の競争による飛躍・発展と、他方での独占の価格支配による停滞・腐朽を生み、不均等発展はよりいっそう激化する。また、地球上のあらゆる地域が、先進帝国主義国によって分割され尽くしたこの段階では、後進国の急速な発展は、植民地の再分割をめぐる戦争(帝国主義戦争)を不可避とする。帝国主義戦争の不可避性から一国社会主義革命の可能性を説いたのは、ロシア革命の指導者レーニンであった。

 1929年大恐慌後、ケインズ政策による政治の経済への介入強化によって、不均等発展の法則は抑制され、景気循環の波も弱まった。第二次世界大戦後の社会主義体制出現と冷戦体制の成立は、諸国家間の対抗を後景に退けた。しかし、冷戦下におけるEEC(ヨーロッパ経済共同体、後のEU=ヨーロッパ連合)や日本、東アジアNICS(ニックス)(新興工業国、後のNIES(ニーズ)=新興工業経済地域)の台頭は、1970年代の二度のオイル・ショックを契機に、英米に新自由主義政策への転換を迫り、金融の自由化をはじめとする規制撤廃を通じて市場原理主義を復活させた。

 とくに社会主義体制が崩壊した冷戦後、アメリカは一極支配の下でグローバル化・IT(情報技術)化を推し進め、中国、インドの台頭がもたらした産業のいっそうの「空洞化」を、FT(金融技術)によって黒字国の余剰資金を還流して補填(ほてん)し、バブルに依拠した高度消費社会を創出して世界経済を牽引(けんいん)する、ポスト冷戦世界を築きあげた。

 しかし、2008年アメリカの住宅バブル崩壊によるサブプライムローン問題が引き起こした金融危機は、市場原理のもとで激化していた不均等発展が生み出した過剰生産を露呈させ、ふたたび新自由主義政策の破綻(はたん)を招いた。

[久保新一]

『長島誠一著『現代の景気循環論』(2006・桜井書店)』『富塚良三著『再生産論研究』(2007・中央大学出版部)』『水野和夫著『金融大崩壊――「アメリカ金融帝国」の終焉』(日本放送出版協会・生活人新書)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「不均等発展の法則」の意味・わかりやすい解説

不均等発展の法則 (ふきんとうはってんのほうそく)
law of uneven development

V.I.レーニンが1915年8月23日号の《ソツィアル・デモクラート》の中で,ドイツ,オーストリア,ロシアの君主制を打倒し共和制的な〈ヨーロッパ合衆国〉を創設すべきであるとのスローガンを批判し,プロレタリア階級を主体にした政治運動を展開しおのおのの社会主義革命を目指すべきであると主張した際の論拠に用いられたのが,〈不均等発展の法則〉である。これは,16年の《帝国主義論》の第7章でも,具体的に述べられている。

 レーニンによれば,資本主義のもとでは企業相互間,諸国家間,地域間,産業部門間の発展・成長の不均等性が避けられないという。とくに19世紀末以降における資本主義列強の発展についてみると,ドイツ,アメリカ,日本などの後発資本主義諸国がイギリス,フランスなどの先発資本主義国を主要工業部門の生産力において追い越すに至ったが,前者の植民地領有,勢力圏はその発展に見合わないものであり,むしろ後者がその面では優位を保ちつつ海外投資収入では前者をはるかにしのいでいる。こうした列強相互の発展・成長の不均等がもたらす矛盾の解決は,破局的な相互の戦争以外に道はなく,これは社会主義革命の必然性とその勝利を示すものとされた。以上のようなレーニンの認識と比較すると,K.マルクスは《資本論》第1巻の序文にみられるように,各国の資本主義の発展段階の差異が時の経過とともに解消され同質化するとみていたと考えられる。また近年の有力な発展段階論の唱道者W.W.ロストーは,各国の経済発展・成長の不均等性はニュートン力学を社会的に採り入れることができるかどうかにあるとし,テイク・オフ(離陸)を実現した社会は工業化を妨げる困難を克服したのであり基軸工業の交代を経て〈高度大衆消費社会〉に至ると考え,不均等発展の問題は〈離陸〉のできない〈伝統的社会〉と工業社会の同時併存にあると考えている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「不均等発展の法則」の意味・わかりやすい解説

不均等発展の法則
ふきんとうはってんのほうそく
Gesetz der ungleichmässigen Entwicklung; law of uneven development

マルクス経済学の用語。資本主義体制のもとでは,企業間,産業部門間,国家間の経済発展は不均等になるという法則。一般に資本主義社会では利潤動機に基づく企業間の競争によって,経済発展は無政府的に行われていく。このことから「経済的および政治的発展の不均等性は,資本主義の無条件的な法則である」 (V.I.レーニン) といわれる。また帝国主義段階においては特にこの傾向が顕著となり,資本,生産の集中,集積から独占体の形成,資本輸出から世界の経済的領土的分割という傾向のなかで,資本主義諸国間の技術水準が平準化し,発展途上国も技術進歩の成果を利用することによって先進国に追いつき追越す形での発展が可能となる。こうして資本主義諸国間の対立が不可避となり,帝国主義戦争の経済的必然性が形成されるとする。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android