下水処理(読み)げすいしょり(英語表記)sewage treatment

翻訳|sewage treatment

精選版 日本国語大辞典 「下水処理」の意味・読み・例文・類語

げすい‐しょり【下水処理】

〘名〙 下水を人工的に浄化すること。またその操作。活性汚泥法、標準散水濾床法その他の方法がある。下水処分。

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デジタル大辞泉 「下水処理」の意味・読み・例文・類語

げすい‐しょり【下水処理】

下水を人工的に浄化すること。また、その操作。

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改訂新版 世界大百科事典 「下水処理」の意味・わかりやすい解説

下水処理 (げすいしょり)
sewage treatment

水中の汚濁成分を分離除去して,下水を清澄で安全なものに変えること。下水中には,人間の排泄物,家庭生活からの排出物,そのほか雨水などを通じて地域自然環境から由来する汚濁物が含まれており,汚濁成分はきわめて多数の物質で構成されている。下水処理はこれら多数の汚濁物質に対して,できるだけ経済的で,かつ処理水が自然環境に悪影響を及ぼさないように安定化することを目的とする。下水処理は下水道の終末に設置された下水処理場で行われ,処理を終えた水は公共水域に排出されるか,再利用される。

下水処理はその処理程度によって1次処理,2次処理,3次処理に分類される。

(1)1次処理 簡易処理とも呼ばれ,主として,浮いている固形物や微細な浮遊物,油脂の分離・除去を目的として行われる。流入下水中の土砂などの比重の重い粒子をまず沈砂池で沈殿分離し,次に浮遊性の大きなごみをスクリーン(大きなふるいの一種)で除去する。こののち,1次沈殿池に下水を導くが,途中の導水路での下水の嫌気的腐敗を防止するため,空気を吹き込む予備エアレーション,あるいは下水中の油脂状成分を浮上・分離する油脂分離の操作が施される(この段階までを予備処理ということがある)。1次沈殿池では,下水中の浮遊物質が沈殿分離されて処理水はかなり澄明となり,排水する前に塩素,あるいは次亜塩素酸ソーダで消毒を行い1次処理を完了する。この方法ではBOD5が25~35%の除去率,浮遊物質が30~40%の除去率で,日本の下水道法施行令が1次処理に求めている基準は,pH5.8~8.6,BOD5120mg/l以下,浮遊物質150mg/l以下,大腸菌群数3000個/cm3以下である。

(2)2次処理 1次処理では処理後の水質が排出基準(水域によって異なる)を達成できない場合,2次処理(高級処理ともいう)が行われる。通常,1次処理に引き続いて行われるが,1次処理を省略する場合もある。具体的な方法としては,活性汚泥法か散水ろ床法が中心となるが,これらの方法は微生物が酸素の存在下で下水中の有機物質を分解安定化することを利用したものである。活性汚泥法の場合,エアレーションタンク曝気(ばつき)槽)に流入した下水は,微生物を主体として構成された活性汚泥混合され,同時に空気中の酸素を水表面から機械かくはん(エアレーター)で溶解させるか,底部より圧縮空気を気泡として注入(散気式エアレーション)する。エアレーションタンク内での混合と微生物分解反応時間は約6~8時間程度で,その後最終沈殿池(2次沈殿池)に導く。ここで活性汚泥を沈殿濃縮して再びエアレーションタンクに返送し,沈殿池から流出する上澄水を消毒の後に排水する。活性汚泥はこのようにエアレーションタンクと最終沈殿池の間を循環しながら連続して下水処理を行っている。なお,2次処理の場合,1次沈殿池を最初沈殿池と呼ぶ。

 散水ろ床法では,れきやプラスチック製充てん物を積み上げたろ床の上部より下水を散水する。れきや充てん物の表面には微生物膜が生成発達しており,その上を下水が水膜を形成しながら落下し,この間に空気中の酸素と下水中の有機物が微生物膜内に浸透して,活性汚泥法と同様に分解を受ける。標準活性汚泥法ではBOD5が85~95%,浮遊物質が80~90%除去され,標準散水ろ床法ではBOD5は75~85%,浮遊物質は70~80%除去される。下水道法施行令が求める排水基準では2次処理によりpH5.8~8.6,BOD520mg/l以下,浮遊物質70mg/l以下,大腸菌群数3000個/cm3以下となっている。なお,高速散水ろ床法(標準散水ろ床法より負荷水量が多く短い時間で処理する)やモディファイドエアレーション法(標準活性汚泥法よりエアレーション時間が1.5~2.5時間とかなり短い)は,処理水質のBOD5や浮遊物質濃度がやや悪くて中級処理と呼ばれることもある。

 2次処理の中心となっている微生物を利用した処理法には,多くの改良法が存在する。例えば,活性汚泥法の変法として長時間エアレーション法(全酸化法)があるが,これは余剰汚泥量を減少させることを目的としたもので,エアレーション時間が16~24時間になる。ディープエアレーション法は,エアレーションタンクの深さを通常の5m程度から10m程度と深くし,タンクの所要敷地面積を小さくしている。さらに超深層エアレーション法では,水深を50~100m程度にまで延長し,鉄製チューブの中を下水と活性汚泥の混合液が地上より降下し再び地上へ上昇する間に,高圧を利用した高濃度酸素溶解が達成でき,エアレーションが30分間程度に短縮される。このほか,活性汚泥法の変形としては,空気から酸素だけを選択分離してエアレーションタンクに注入する純酸素エアレーション法,水深が1~2m程度の長円形の溝をエアレーション部分としたオキシデーションディッチ法(酸化溝法)などがある。散水ろ床法は表面に固着した微生物による処理法の一種であるが,このような固着微生物を利用した別の方法として回転円板法と呼ばれるものがある。これは円板を何枚も一定の間隔で共通軸に通して全体を回転させるもので,半分以上の円面積は大気中にあり,残りは水中に没しているようにする。円板表面に微生物が付着成長しており,円板が下水中に没している間に有機物など汚濁成分を吸着して,大気中に出てくると酸素を摂取しながら有機物を分解する。この方法の利点は,円板を回転する動力費だけが必要で,酸素を水中に供給,溶解する動力費が不要となることで2次処理と同程度の処理水質が得られる。

(3)3次処理 高度処理とも呼ばれる。2次処理よりもさらに高度な水質を得るために行われる処理法。生物学的に窒素硝化,脱窒素反応を行わせる方法や嫌気性・好気性条件を組み合わせて生物学的なリン除去能力を向上させる方法がある。これらは従来の活性汚泥法を高度に研究開発した結果,新しく生み出されてきた処理技術である。一方,物理化学的な処理方法も行われており,これには活性汚泥法による処理過程で鉄やアルミニウムの凝集剤を注入して最終沈殿池でリンを沈殿除去する方法,また2次処理水中のリンを付着結晶化させて除去する晶析脱リン法などがある。

下水道が普及していない地域では,家庭雑排水は家屋近くの排水路にたれ流しになっており,屎尿(しによう)はバキューム車による回収が行われている。日本人が1人1日排出する平均汚濁量は,雑排水の場合BOD5量約40g,COD量約20g,浮遊物質量約36g,全窒素量約3g,全リン量約1gであり,一方,屎尿のほうはBOD5量約13g,COD量約6.5g,浮遊物質量約10g,全窒素量約10g,全リン量約0.6gである。これらの数値からも,下水道未整備地域における家庭雑排水が大きな汚濁源になっていることが分かる。屎尿のほうも,最近では家庭浄化槽の普及に伴い,浄化後の排水が流れ込む結果となって汚濁排水量の増加が問題となっている。一般に戸別の屎尿浄化槽は,約50%程度のBOD5除去率しか達成できていないため,浄化槽普及はかえって水質汚濁悪化の原因になっている。雑排水の水質汚染を少しでも軽減させる方法として,排水路中に固着生物を発達させるようなろ材を設置し,流下過程で河川の自浄作用を模した雑排水処理も試みられている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「下水処理」の意味・わかりやすい解説

下水処理
げすいしょり
sewage treatment

河川や湖沼など公共用水域の汚染源とならないよう,または再生利用ができるように,下水になんらかの処置を施すこと。処理方法によって,1次処理,2次処理,3次処理に分けられる。 (1) 1次処理 大型の固形物,浮遊物,油分,砂などを除去する処理法。スクリーン沈殿池,沈砂池,油水分離槽,などがある。1次処理を終って放水する場合もあるが,一般には,2次処理,3次処理の予備的な処理として利用される場合が多い。 (2) 2次処理 1次処理により固形物,油分などを除いたあと,化学的処理法,生物学的処理法などで排水を浄化する方法。下水道は,一般に活性汚泥による生物学的処理法を中心にして組立てられる。 (3) 3次処理 排水に含まれる有機汚濁物質の量を5~6ppm程度以下に削減する処理方法。富栄養化の原因である窒素,リンの量も大幅に低下させる。2次処理よりもさらに程度の高い処理法なので,超高級処理といわれる。2次処理後に処理する方法,1次処理水をただちに処理する方法があるが,現在実用化されているのは前者である。逆浸透法,活性炭あるいはキレート樹脂などの高分子化合物への吸着法,砂ろ過,凝集沈殿,生物学的処理などを組合せて行うもので,きわめて良質の水が得られ,リサイクルに利用することができるが,2次処理の2~3倍の敷地,設備,さらにコスト高の問題がある。

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化学辞典 第2版 「下水処理」の解説

下水処理
ゲスイショリ
sewage treatment

家庭排水や工場排水などの汚水の処理をいう.経済的な理由から,活性スラッジ法による生物処理が主流である.一次処理により砂や粗いごみの除去,および沈殿による浮遊物の除去が行われ,ついで好気的条件下,活性スラッジにより含有有機性物質の除去を行う二次処理が行われる.さらに三次処理として凝集沈殿処理,活性炭処理が行われる.生物処理には,浮遊生物法,固着生物法(生物膜法),固定化微生物法などがある.

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栄養・生化学辞典 「下水処理」の解説

下水処理

 下水をより環境を汚染しない状態に変えるように処理をすること.固形物を沈殿させたり,ろ過したり,微生物によって有機物を分解させたり,微量元素などを濃縮させたりする.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「下水処理」の意味・わかりやすい解説

下水処理
げすいしょり

下水道

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世界大百科事典(旧版)内の下水処理の言及

【下水道】より

…下水道が都市内の汚水を集めて単に海や川に排除するだけのものであれば,都市への人口集中や工場の生産活動増大に伴う下水中の汚濁物量の増加により,公共水域の水質汚染が進行することになる。このために下水道では終末において,下水を安全な形にして公共水域に排除するための処理(下水処理という)を行うことが基本となる。この下水処理を行うことによって下水道は初めて公共水域の汚染防止の機能をもつのであり,下流の上水道源,農業用水,水産用水,工業用水を保全するばかりでなく,水泳,魚釣りなどのレクリエーションや自然環境保全も可能となる。…

※「下水処理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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