三番叟物(読み)さんばそうもの

精選版 日本国語大辞典 「三番叟物」の意味・読み・例文・類語

さんばそう‐もの【三番叟物】

〘名〙 歌舞伎所作事。音楽。各種の三番叟趣向としたもの。長唄の晒三番・廓三番・操三番翁千歳三番叟常磐津子宝三番、清元の四季三葉草、長唄・清元掛合の舌出し三番義太夫の二人三番などのほか、一中節・河東節にもある。

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デジタル大辞泉 「三番叟物」の意味・読み・例文・類語

さんばそう‐もの【三×叟物】

歌舞伎舞踊の一系統で、能の「おきな」から脱化した三番叟趣向としたもの。「舌出し三番」「操り三番」「二人三番」など。

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改訂新版 世界大百科事典 「三番叟物」の意味・わかりやすい解説

三番叟物 (さんばそうもの)

歌舞伎舞踊の一系統。江戸歌舞伎では,顔見世興行の初日から3日間の早朝および正月元日の午前中,また柿(こけら)落しに,能楽の《式三番》を移した儀式舞踊を演じた。この行事を〈翁渡し〉といった。翁を太夫元,千歳(せんざい)を若太夫,三番叟を座頭役者が勤めるもので,天下太平五穀豊穣(ほうじよう),芝居繁盛を祈願する心であった。毎日儀式を行うわけにはいかないところから,下級俳優による略式の《三番叟》がつくられ,これを〈番立(ばんだち)〉といった。明治中期までは小劇場で開演前に演じられ,今日は地方の地芝居にその習慣が残っている。

 これらの儀式曲から離れて,さまざまな変型が作られ,特に三番叟の踊りに工夫がこらされている。その嚆矢は寛永年間(1624-44)に猿若勘三郎(初世中村勘三郎)が踊った《乱曲三番叟》とされ,のちに志賀山流の流祖志賀山万作に伝えられて《志賀山三番叟》となり,志賀山流を継いだ初世中村仲蔵が1786年(天明6)に《寿世嗣三番叟》の名で復活させた。1812年(文化9)中村座における仲蔵二十三回忌追善に3世中村歌右衛門が踊った《再春菘種蒔(またくるはるすずなのたねまき)》(長唄,清元)は,この系統をひくもので,〈目出とう栄屋仲蔵を〉のくだりで舌を出すところから《舌出三番叟》の通称で,今日もたびたび上演されている。このような洒落っ気のある三番叟物は,《操三番叟》(本名題《柳糸引御摂(やなぎのいとひくやごひいき)》,長唄)のように操り人形の趣向で踊るもの,《四季三葉草(しきさんばそう)》(清元)のように千歳を女にするものなどがあり,さらには《廓三番叟》(長唄)のように傾城が翁,新造と幇間が千歳と三番になる茶番的な発想まで生まれる。《雛鶴三番叟》は古い長唄曲で女の踊り。《今様四季三番三》(長唄)は,曾我の二の宮が姫の姿で白旗を布晒しにするところから《晒三番》ともいう。《剣烏帽子(けんえぼし)三番叟》(長唄)は平維茂が剣烏帽子で踊る。ほかに,《翁草霜舞姫(おきなぐさしものまいひめ)》(《菊三番》,長唄),《子宝三番叟》《祝言式三番叟》(ともに常磐津),《鴫立沢虎礎(しぎたつさわとらのいしずえ)》(《朝比奈三番》,清元),《花誘劇場踊(はなさそうかぶきおどり)》(《櫓三番》,長唄),《翁千歳三番叟》(《外記三番》,長唄),《二人三番叟》(猿翁十種の一。義太夫),《松廼寿(まつのことぶき)翁三番叟》(河東節の復活曲)などがある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「三番叟物」の意味・わかりやすい解説

三番叟物
さんばそうもの

歌舞伎舞踊,三味線音楽の一系列。能の『』の「三番叟」の部分を原拠とする曲の総称。 (1) 『乱曲三番叟』 1世中村勘三郎所演。志賀山流に預けられて伝えられる。 (2) 河東節『翁千歳三番叟』 通称『三番叟』。1世江戸半太夫作曲の半太夫節の曲を移入したもの。原曲は貞享年間以前の作曲。河東節への改作は享保3 (1718) 年頃。歌詞は謡曲を多少改作。 (3) 山田流箏曲『三番叟』 (2) より移曲。 (4) 長唄『雛鶴三番叟』 宝暦5 (55) 年作曲。作詞者,作曲者未詳。 (5) 長唄『種蒔三番叟』 本名題『翁草恋種蒔』。安永4 (75) 年,杵屋喜三郎作曲。 (6) 『寿世嗣三番叟』 (1) の改名復演。天明6 (86) 年,志賀山流の8代目を継いだ1世中村仲蔵所演。 (7) 常磐津節『子宝三番叟』 通称『子宝』。天明7年,鳥羽屋里長作曲。 (8) 長唄・清元節掛合『舌出し三番叟』 本名題『再春菘種蒔 (またくるはるすずなのたねまき) 』。長唄では別称『志賀山三番』,清元では『種蒔三番』。長唄だけ,清元節だけでも演奏する。2世桜田治助作詞,伊藤東三郎 (清元節) ,2世杵屋正次郎 (長唄) 作曲。藤間勘十郎振付,文化9 (1812) 年,江戸中村座初演。3世中村歌右衛門初演。 (9) 長唄『郭三番叟』 文化9年正月初演。4世杵屋六三郎作曲。 (10) 新内節『子宝三番叟』 通称『子宝』。天保年間頃,2世鶴賀鶴吉作曲。 (11) 清元節『四季三葉草』 天保9 (38) 年,2世清元斎兵衛作曲。 (12) 常磐津節『式三番』 本名題『祝言式三番叟』。嘉永~安政年間,6世岸沢式佐作曲。 (13) 一中節『三番叟』 嘉永5 (52) 年,菅野序遊と清元栄次郎の合同作曲。 (14) 長唄『操 (あやつり) 三番』 本名題『柳糸引御摂 (やなぎのいとひくやごひいき) 』。嘉永6 (53) 年,江戸河原崎座初演。篠田瑳助作詞,杵屋弥十郎作曲。5世西川扇蔵振付。糸操りの人形仕立ての趣向。 (15) 長唄『翁』 本名題『翁千歳三番叟』。通称『外記 (げき) 三番』。安政3 (56) 年,10世杵屋六左衛門作曲。 (16) 富本節『家桜三番』 本名題『家桜幾齢 (いくよ) 三番叟』。作曲者,年代未詳。

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百科事典マイペディア 「三番叟物」の意味・わかりやすい解説

三番叟物【さんばそうもの】

歌舞伎舞踊および邦楽の一系統。能の《翁》を三番叟中心に舞踊化・音曲化したもの。御祝儀曲としてその数は多いが,長唄・清元節の《種蒔三番》,常磐津節の《子宝三番》,長唄の《操(あやつり)三番》,義太夫節の《二人三番》などが特に有名。

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世界大百科事典(旧版)内の三番叟物の言及

【翁】より


[歌舞伎・音楽の翁]
 顔見世や柿(こけら)落しで演じる式楽としての〈翁渡し〉のほかに三番叟と称してさまざまな祝儀舞踊曲がある。能楽の翁舞を基調としつつ,翁より三番叟が曲の中心となり,一般には〈三番叟物〉の名称で呼ばれる。初世中村勘三郎から伝えられた《乱曲三番叟(らんぎよくさんばそう)》が,のちに《舌出三番叟》として伝わるほか,江戸時代を通じてさまざまなバリエーションが生まれた。…

※「三番叟物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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