三昧(読み)さんまい

精選版 日本国語大辞典 「三昧」の意味・読み・例文・類語

さんまい【三昧】

〘名〙 仏語
① (samādhi の音訳。三摩提三摩地とも音訳。定・正定・等持などと訳す) 雑念を離れて心を一つの対象に集中し、散乱しない状態をいう。この状態に入るとき、正しい智慧が起こり、対象が正しくとらえられるとする。三摩堤(さんまだい)。三昧正受。
聖徳太子伝暦(917頃か)下「殿下入三昧定。敢莫驚」
源氏(1001‐14頃)明石「いかめしき堂を建てて、三昧を行ひ」
② 精神を統一、集中することによって得た超能力。
今昔(1120頃か)三「途中にして此の二人の沙彌、俄に十八変を現じ、菩薩普現三昧(ざんまい)に入て、光を放て、法を説き、前生の事を現ず」
③ 物事の奥義を究め、その妙所を得ること。
蔭凉軒日録‐長享二年(1488)五月七日「晩来狩野大炊助来云、此五六十日在大津。与京兆同所。件々彼三昧話之。実異人也」
※御伽草子・鳥部山物語(類従所収)(室町末)「さて民部は、なくなくさんまいのかたに行て、むなしきしるしをみるにも」
※浮世草子・懐硯(1687)四「煙は愁の種なる三昧(さんマイ)を見しに、おほくは少年の塚」
高野山で、禅侶中六重の階位の一つ。
高野山文書‐承久三年(1221)一〇月晦日・権大僧都静遍奉書「山禅侶之中、有六重階位、所謂阿闍梨、山籠、入寺、三昧、久住者、衆分也」
[語誌](1)日本では、本来、仏教語として、念仏誦経の場に用い、「阿彌陀三昧」や「法華三昧」といった用い方、また、「三昧」単独で、「一心不乱に仏事を行なうこと」といった用い方が一般的であった。その意味から、②の意味が派生した。
(2)①②の意味は仏教的な色彩が濃いが、近世以降、この仏教的色彩から離れて「ある一つのことだけを(好き勝手に)する」「心のままである」といった意味も派生し、「ざんまい」と濁音化して、「放蕩三昧」「悪行三昧」などのように、多く名詞と結びついて用いられるようになった。→ざんまい(三昧)

ざんまい【三昧】

〘接尾〙 (「さんまい(三昧)①」から。多く名詞と熟合して用いる)
① その事に専心、または熱中する意を表わす。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※古活字本荘子抄(1620頃)二「朝夕弓矢三昧ぞ」
② そのことをもっぱら頼りにしたり、その方向に一方的に傾いたりする意を表わす。
浄瑠璃・頼朝浜出(1686)三「遺恨あらば折こそあらめ、今、時宗に向っての太刀ざんまい」

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デジタル大辞泉 「三昧」の意味・読み・例文・類語

さんまい【三昧】

[名]《〈梵〉samādhiの音写。三摩提・三摩地とも音写。定・正定・等持などと訳す》
仏語。心を一つの対象に集中して動揺しない状態。雑念を去り没入することによって、対象が正しくとらえられるとする。
三昧場さんまいば」の略。
[接尾]《「ざんまい」の形で多く用いられる》名詞または形容動詞の語幹に付く。
ともすればその傾向になるという意を表す。「刃物三昧に及ぶ」
そのことに熱中するという意を表す。「読書三昧の暮らし」
心のままにするという意を表す。「ぜいたく三昧な生活」

ざんまい【三昧】

[接尾]さんまい(三昧)

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改訂新版 世界大百科事典 「三昧」の意味・わかりやすい解説

三昧 (さんまい)

仏教の修行において重要視される特殊な集中心。〈ざんまい〉ともいう。サンスクリットのサマーディsamādhiの音訳で,三摩地(さんまじ),三摩提(さんまだい)とも音訳される。意訳は等持(とうじ)あるいは定(じよう)。禅定を修する際,ある一つの対象に対して,まっすぐ平等に働き(等持),他の対象に気が移ったり乱れたりしないこころの状態(定)をいう。この意味から,勉強三昧,仕事三昧などというように日常用語として用いられる。《般若経》などには100種以上もの数多くの種類の三昧が説かれているが,空三昧,無相三昧,無願三昧,あるいは有尋有伺(うじんうし)三昧,無尋唯伺(むじんゆいし)三昧,無尋無伺(むじんむし)三昧の3種の三昧,さらには色界(清浄な物質のみで成り立っている世界)の四静慮(しじようりよ)と無色界(物質を超えた精神的要素のみからなる世界)の四無色定(しむしきじよう)とを合わせた8種の三昧などがその代表である。三昧はまた大きく止と観とに分けられ,われわれは,止観の両方をともに修することによって,こころから汚れを取り除き涅槃に達し無上正覚を得ることができるという。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「三昧」の意味・わかりやすい解説

三昧
さんまい

サンスクリット語のサマーディsamādhiの音写で、三摩提(さんまだい)、三摩地(さんまじ)とも音写し、定(じょう)、正受(しょうじゅ)などと漢訳する。原意は「心を一か所にまとめて置くこと」をいい、これが心を一つの対象に集中し散乱させないという、高度の精神状態に達する方法を意味するものとなった。古代インドでは解脱(げだつ)する手段として種々の方法が考えられたが、ヨーガの修行法は古くから行われ、ヨーガ学派はその極地を三昧とした。

 仏教では三昧は重視され、禅(ディヤーナdhyāna)と並んで修行法の中心となった。『般舟(ばんじゅ)三昧経』や『首楞厳(しゅりょうごん)三昧経』のように、三昧を説くことを主目的とする経典も数種ある。三昧はヒンディー語では墓所の意味もある。日本では地方によっては墓地を三昧というが、この場合には「ざんまい」と読む。なお、仏教語の三昧が一般にも浸透し、「読書三昧」「道楽三昧」などというように、なにかに夢中になっていることを「~三昧(ざんまい)」という。

[田上太秀]

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百科事典マイペディア 「三昧」の意味・わかりやすい解説

三昧【さんまい】

サンスクリット,サマーディの音写。三摩提(さんまだい)。定(じょう)・等持(とうじ)と訳。心を一ヵ所に定めて動かさず(定),平静に保つ(等持)こと。仏教では禅定(ぜんじょう)と同様に重要視する。
→関連項目三昧堂

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普及版 字通 「三昧」の読み・字形・画数・意味

【三昧】さんまい

妙所。

字通「三」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「三昧」の意味・わかりやすい解説

三昧
さんまい

サマーディ」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の三昧の言及

【学侶】より

…いずれも最高位の検校(けんぎよう)にまで昇進できる。学侶の位階は大法師,入寺,三昧,山籠,阿闍梨と進むが,﨟次(ろうじ)に従うのを原則とし,途中学道3年目から加入するのを横入(おうにゆう)と称した。﨟次に応じて年俸や供料がついた。…

【観念】より

イデー概念表象【杖下 隆英】
[仏教語としての〈観念〉]
 仏教語としては真理や仏名や浄土などに心を集中し,それを観察して思い念ずること。仏教ではもともと三昧(さんまい)を追求することが基本となっている。三昧とは禅定(ぜんじよう)ともいわれ,心を集中して心が安定した状態に入ることである。…

【三昧聖】より

…三昧(墓所)の庵室に居住し,火葬や埋葬,墓所の管理などにあたった俗聖。一般に墓守,御坊(おんぼう)(隠坊)などと称される。…

【常行三昧】より

…つねに行道(ぎようどう)して修行する三昧(さんまい)という意。四種三昧の一つ。…

※「三昧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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