三国遺事(読み)さんごくいじ

精選版 日本国語大辞典 「三国遺事」の意味・読み・例文・類語

さんごくいじ ‥ヰジ【三国遺事】

朝鮮史書。五巻。高麗の僧、一然撰。一二八九年頃成立。「三国史記」にもれた新羅百済高句麗三国遺聞を九部門に分類して集録。特に仏教関係の記事、古歌謡などの民間伝承記載や三国と駕洛(から)の四段に分けた対照年表風な別巻「王暦」に特色がある。

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デジタル大辞泉 「三国遺事」の意味・読み・例文・類語

さんごくいじ〔サンゴクヰジ〕【三国遺事】

朝鮮の歴史書。5巻。高麗忠烈王のとき、僧の一然(1206~1289)が撰。「三国史記」に漏れた新羅しらぎ百済くだら高句麗こうくりの遺聞を集録したもの。仏教関係や民間伝承の記事が多い。

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改訂新版 世界大百科事典 「三国遺事」の意味・わかりやすい解説

三国遺事 (さんごくいじ)

新羅史を中心とした古代朝鮮の私撰の歴史書。高麗の高僧一然(1206-89)が,1280年代に編纂し,弟子の無極が補筆。5巻9編からなり,第1巻は王暦・紀異,第2巻は紀異,第3巻は興法・塔像,第4巻は義解,第5巻は神呪・感通・避隠・孝善の諸編。第1巻,第2巻は年表,新羅通史,諸国の個別の歴史記事。第3巻以降は仏教史関係の記事で,その構成は梁・唐両高僧伝の影響をうけながらも,朝鮮仏教史の特徴を生かしている。王暦や第2巻の《駕洛(から)国記》の抄録などは他に類例のない史料である。紀異の最初の項目に檀君王倹の神話をあげたことは,本書が単に《三国史記》の補遺でなく,元の支配に反対し,民族の自主独立を標榜した歴史書といえる。仏教説話記事には,文芸作品ともみられるものがあり,とくに新羅の郷歌は文学的価値や言語学資料としての価値が高い。版本では正徳本が,活字本では朝鮮史学会本第3版(1973)が最良である。
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百科事典マイペディア 「三国遺事」の意味・わかりやすい解説

三国遺事【さんごくいじ】

古代朝鮮の私撰歴史書。5巻。著者は高麗の僧一然〔1206-1289〕。高句麗百済新羅の三国の雑史を,王暦・紀異・興法・塔像・義解・神呪・感通・避隠・孝善の9篇に分けて収録している。仏教的な記事が多く,説話集的な側面を持つ点,同じ古代朝鮮の歴史書である《三国史記》と対照的。14首採録されている〈郷歌(ヒャンガ)〉は,朝鮮の古代歌謡として価値が大きく,新羅の言語資料としても重要である。
→関連項目檀君

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「三国遺事」の意味・わかりやすい解説

三国遺事
さんごくいじ / サムグクユサ

朝鮮の新羅(しらぎ)、高句麗(こうくり)、百済(くだら)三国の遺聞逸事(いぶんいつじ)を記した書籍。高麗(こうらい)時代の高僧一然(いちねん)(1206―89)晩年の著作で、弟子の無極が一部補筆。5巻。巻頭に年表としての王暦を置き、以下、紀異第一、同第二、興法、塔像、義解、神呪(しんじゅ)、感通、避隠、孝善の9編に分かれる。興法編以下はほとんど仏教関係記事である。『三国史記』にみえない、あるいは異なる所伝も多く、朝鮮古代研究の基本史料である。李朝(りちょう)中宗代(1506~44)の慶州刊本が影印されて流布している。

[田中俊明]

『金思燁訳『完訳三国遺事』(1976・朝日新聞社)』『三品彰英遺撰『三国遺事考証』上中(1975、79・塙書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「三国遺事」の意味・わかりやすい解説

三国遺事
さんごくいじ
Samguk-yusa

朝鮮,古代三国 (新羅,高句麗,百済) についての古記録を収集した書物。 13世紀後半の僧一然 (普覚国師) の晩年の撰述で,原版は残っておらず,中宗7 (1512) 年の再刊本,天理図書館所蔵の今西本 (5巻9編) が現存する。編目の立て方は中国の仏書に似ており,内容は仏教関係が中心であるが,単なる仏教書ではなく,「檀君説話」や「駕洛国記」や「王暦」のように歴史的にも重要な記述がある。また 14首の郷歌 (ヒャンガ) は日本の『万葉集』にも比すべきものとして評価が高い。 1964年学習院東洋文化研究所から今西本が影印刊行され,また訳本も日本,韓国,北朝鮮でそれぞれ刊行されている。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「三国遺事」の解説

三国遺事
さんごくいじ

高麗僧の一然(いちねん)が編纂した朝鮮古代史に関する外史。完成は1280年代と推定され,全5巻,9部門からなる。前半の王暦・紀異では朝鮮古代史全般の遺聞・伝説を,後半では僧伝,寺院・仏塔の建立縁起など仏教関係記事を収め,「三国史記」を補う箇所が多い。巻頭の「古朝鮮」は檀君(だんくん)朝鮮の最古の史料であり,ここに朝鮮史の始まりをおいた点は注目される。現存最古の刊本は「三国史記」と並んで刊行された1512年のものであるが,一然以後の割注が混入しており史料批判を要する。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「三国遺事」の解説

『三国遺事』(さんごくいじ)

朝鮮の高麗(こうらい)の僧一然(いちねん)(1206~89)の編。5巻。三国(新羅百済高句麗)の遺聞を集める。

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旺文社日本史事典 三訂版 「三国遺事」の解説

三国遺事
さんごくいじ

朝鮮三国(新羅 (しらぎ) ・高句麗 (こうくり) ・百済 (くだら) )時代の史書
14世紀初期の成立。5巻。高麗の僧一然の著。三国に関する史実・伝説などを集め,分類したもので,仏教関係の記事が多い。『三国史記』とともに朝鮮古代史研究には重要な文献。

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世界大百科事典(旧版)内の三国遺事の言及

【郷歌】より

…詞脳(詩悩,思内)歌,兜率歌などともいう。《三国遺事》に14首,別に均如(新羅末~高麗初の高僧。917‐973)の作った賛歌〈普賢十種願王歌〉11首が今日伝わっている。…

【檀君】より

…名は王倹。高麗時代に編まれた《三国遺事》では,檀君王倹をどの王朝の始祖王ともしないで,朝鮮全土の開国神・始祖神としてとりあげた。この神話の要旨は,帝釈桓因(たいしやくかんいん)の子桓雄が熊女と結婚し,檀君王倹が生まれた。…

※「三国遺事」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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