万年筆(読み)まんねんふで(英語表記)fountain pen

翻訳|fountain pen

精選版 日本国語大辞典 「万年筆」の意味・読み・例文・類語

まんねん‐ふで【万年筆】

〘名〙
矢立(やたて)③の異称
浮世草子好色二代男(1684)六「打曇の短冊巻のべて、万年筆(マンネンフデ)を染もあへず、捨し身のと、五文字書付る折し」
※手紙雑誌‐二・一号(1905)読売紙上の『手紙八面観』を読みて〈矢野二郎〉「至極便利な米国製の万年筆(マンネンフデ)原名でカアスペンと云ふのを用ゐて居る」

まんねん‐ひつ【万年筆】

〘名〙 (「まんねんぴつ」とも) ペン軸に内蔵したインクが使用するにしたがってペン先に伝わってくるしくみの筆記具。万年ふで。
※恋慕ながし(1898)〈小栗風葉〉一一「相宿の夫婦者が、精々(せっせ)と万年筆(マンネンピツ)を拵へてゐる」
[語誌](1)近代的な万年筆は、Stylographic pen (ペン先が鉄筆状のもの)または fountain pen (ペン先がわれているもの)の訳語とされている。
(2)「万年筆」の読みとしては、明治末期まではマンネンフデがひろく行なわれていたが、時期が下るにつれ、しだいにマンネンヒツが優勢となった。

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デジタル大辞泉 「万年筆」の意味・読み・例文・類語

まんねん‐ひつ【万年筆】

fountain pen》ペン軸の中にインキを入れ、使用時にインキがペン先に伝わり出るようにした携帯用のペン。
[補説]1884年、米国人ウォーターマンが実用化に成功。万年筆の訳語を与えたのは内田魯庵うちだろあんというのが通説。
[類語]ペン付けペン硬筆鉄筆ボールペン

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「万年筆」の意味・わかりやすい解説

万年筆
まんねんひつ
fountain pen

筆記具の一種。軸内に蓄えたインキを毛細管現象によって引き出し、ペン先を通して書写する仕組みになっている。

[野沢松男]

歴史

構造的には、1809年イギリスのフレデリック・B・フォルシュが、軸後部のバルブを開いて軸内に貯蔵したインキをペン部に送るバルブ式のものを発明したのが最初である。同年、同じイギリスのジョセフ・ブラマーが、軸を指で押してインキを出すものを考案し、これをファウンテンペンfountain penと名づけた。現在のような毛細管作用を用いてインキを導き出す原理は、1884年アメリカの保険外交員L・E・ウォーターマンの考案によるもので、この原理がその後も受け継がれている。

 日本では1895年(明治28)に東京の丸善(株)が、少量だがウォーターマンのものを店頭で発売したのが最初で、本格的な輸入は1902年(明治35)以降のことである。やがて大阪の福井商店なども、ウォーターマンをはじめペリカンドラゴンなどの銘柄を扱うようになり、明治末期から大正時代にかけては舶来万年筆の全盛時代となった。またそのころから国産万年筆が数社でつくられるようになり、最初は外国から輸入したペン先を国内で組み立てて販売していたのが、大正時代になって純国産のものができるようになった。「万年筆」という名のおこりには諸説があってさだかではないが、明治末期に福井商店で輸入していた、軸に金めっきのペン先を取り付けた筆記具を「NY万年ペン」とよんでいたことから、同種の筆記具にこの名がつけられたとする説や、当時の丸善の輸入担当者の名前をとって、万吉筆がのちに万年筆となったとする説などがある。しかし現在では、末長く使える筆という意味で内田魯庵(ろあん)がつけたというのが通説となっている。

[野沢松男]

種類

種類は多種多様であるが、形態別に分けると次の三つになる。〔1〕スタンダードタイプ 軸部が長く、鞘(さや)部の短い基本的なタイプ。〔2〕ショートタイプ ミニタイプともいい、軸部が短くて鞘部が長い。携帯時には短寸で、筆記時には長寸になるという便利性がある。〔3〕キャップレス キャップがなく、ノックや回転によってペン先を出没させるシステムのもの。このほか機構(インキ補給方法)では次のようなものがある。〔1〕カートリッジ式 スペア式ともいい、あらかじめカートリッジ内に入れておいたインキを交換するだけでインキ補給のできるもの。〔2〕中押し式 吸入式で、インキチューブの外側に合金属のカバーをつけ、その中央部や尾部を操作することによりインキ補給をするタイプ。〔3〕その他 現在は品種が少ないが、ポンプ式、てこ式、中芯(しん)式、繰り出し式など。

[野沢松男]

ペン先

インキ中の酸に侵されないため14金ペンが一般的だが、最近では優れた耐酸合金も現れ、ステンレス材のものや、それに金めっきしたものも多く出回っている。なおペン先の先端には耐摩耗合金のイリジウムが装着されている。インキの流出がスムーズで弾力性があり、書き味の滑らかなものが良品である。

[野沢松男]

『梅田晴夫著『万年筆』(1979・青土社)』『梅田晴夫著、大森忠写真『万年筆』(平凡社カラー新書)』


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改訂新版 世界大百科事典 「万年筆」の意味・わかりやすい解説

万年筆 (まんねんひつ)

インキを一定量貯え,ペン先へなめらかに供給することで長時間の使用を可能にした筆記具。インキを保持する部分をもったペン先や,インキの入る軸が古くから開発され,17世紀にはいくつかの方式のものが売り出されている。万年筆という英語fountain pen(泉のような筆)も18世紀には用いられたが,1809年にイギリスのブラーマJoseph Bramahは軸の胴を握るとインキの出る〈複合ファウンテンペン〉を発表し,新案競争に拍車がかかった。そして1884年にアメリカの保険外交員ウォーターマンLewis E.Waterman(1837-1901)が,ペンに密着しているペン芯の背に角溝をつけて空気の流通を図るとともに,角溝の底部に細い溝を通し,毛細管作用でインキが伝わるようにした特許を得,実用的な万年筆の始まりとなった。初期の万年筆の本体はエボナイト製だったが,1925年ころからセルロイド製となり,さらに50年代には合成樹脂に変わっている。インキはスポイトによる注入,あるいはゴムチューブとレバーを利用した吸入などの方式があったが,最近はインキの入ったカートリッジを交換するスペア式がほとんどである。

 日本では,筆を携帯する矢立(やたて)が一種の墨汁貯蔵装置であり,1828年(文政11)には鉄砲鍛冶の国友眠竜(藤兵衛)が,青銅の管とねじを使用し,管内の墨が筆先の出しかげんによって調節されて供給される〈懐中筆〉を発明している。そして85年にも同様のものが〈万年筆(まんねんふで)〉として発表されているが,いずれも普及しなかった。そのころアメリカ製のスタイログラフィック・ペンstylographic pen(針先にインキが流れるペン)が輸入され針付泉筆と呼ばれたが,やがて万年筆と変わり,95年にウォーターマンのペンが輸入されると,前者が針万年筆,後者がペン付き万年筆となり,明治末期には後者が普及して〈万年ペン〉〈万年筆(まんねんひつ)〉の名になった。日本での生産は,金ペンを輸入して国産の軸につける方法で始まり,1909年ころには金ペンも国産されるようになって多くのメーカーが生まれた。昭和期に入ると輸出も盛んになり,40年には世界の生産量の半数を占めるまでになった。第2次大戦後再出発した生産は,57年に最高の3000万本(うち輸出2240万本)を記録したが,他の筆記具に押されて63年からは減少し,82年には940万本(輸出400万本)となっている。輸入はドイツ,アメリカ,フランスを中心に1962年から本格化し,同年は16万本,翌63年には80万本となり,その後は200万~600万本を上下している。

 ペン先には耐酸性と適度な柔らかさが必要とされ,耐磨性をもたせるため尖端にイリジウムをつけた金ペン(主として14金)が長らく使用されていたが,1975年を境に金色を呈さない合金を使用した〈白ペン〉が好まれるようになった。万年筆は他の筆記具に比して半永久的に使用でき,しかも使いこむことによってなじんでくるという特徴があり,さらに筆圧の強弱を表現できることから,日本の文字を書くにはふさわしい道具といえよう。毛筆についで万年筆を尊ぶ風潮も残っている。
インキ →ペン
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百科事典マイペディア 「万年筆」の意味・わかりやすい解説

万年筆【まんねんひつ】

軸内にインキをたくわえ,これが使用時に自動的にペンの先に流れ出る携帯用筆記用具。17世紀ごろから様々な工夫がなされてきたが,1884年にアメリカのL.E.ウォーターマンが毛細管現象を応用したペン芯を発明してから広く普及した。金または白金,イリジウム製のペン先を使用。細いプラスチックの容器にインキを入れ,なくなればこれを交換するカートリッジ式,各種の方式でインキびんからインキを吸い上げてつめる吸入式に大別される。
→関連項目ペン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「万年筆」の意味・わかりやすい解説

万年筆
まんねんひつ
fountain pen

ペン軸の内部にインキを貯蔵し,毛細管現象を利用して,絶えずほどよくインキが潤い出るように作られたペン。アメリカ人 L.ウォーターマンが 1884年に特許を得た。万年筆の改良新型はペン先よりも,インキの補給や流出方法,また取出してすぐ書けることに注意が払われている。ペン先は金ペンと耐酸性のペンに,またインキの補充は,直接ペン軸に吸入する方式と,インキを詰めたカートリッジを取替える方式とに分れている。ペンの先には硬くて摩耗しにくいイリジウムをつける。

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