七不思議(読み)ななふしぎ

精選版 日本国語大辞典 「七不思議」の意味・読み・例文・類語

なな‐ふしぎ【七不思議】

〘名〙 ある地方、また地域で不思議な現象としてあげる七つの事柄。各地にみられる。
史記抄(1477)五「日本の摂津州天王寺にこそ、七不思議とて」

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デジタル大辞泉 「七不思議」の意味・読み・例文・類語

なな‐ふしぎ【七不思議】

ある地域で不思議な現象としている七つの事柄。自然現象に関するものが多い。「麻布の七不思議

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「七不思議」の意味・わかりやすい解説

七不思議
ななふしぎ

ある特定の地域において不思議な現象として取り上げられる7種の事柄。一般に地名が冠せられて「何々の七不思議」と称される。広く知れ渡っているものに越後(えちご)(新潟県)の七不思議がある。『北越奇談』によると、「燃ゆる土、燃ゆる水、白兎(はくと)、海鳴り、胴(ほら)鳴り、火井(かせい)、無縫塔」があげられている。このうち燃ゆる土、燃ゆる水、火井は、それぞれ石炭、石油、天然ガスのことであり、海鳴り、胴鳴りとは天気の変わり目に遠くから聞こえてくる海潮音、怪奇な轟音(ごうおん)のことである。白兎は冬季に真白な体毛をもつ越後の兎(うさぎ)のことで、無縫塔とは奇岩の呼称である。これらはいずれも自然現象に関することであるが、科学的な説明の十分ではない当時において、これを怪異な現象とみなし七不思議と名づけて喧伝(けんでん)したものであろう。

 信濃(しなの)(長野県)の諏訪(すわ)の七不思議も古くから伝えられているものである。『信濃奇勝録』によれば、「湖水神幸(こすいみわたり)、元旦蛙猟(がんたんのかえるがり)、五穀筒粥(ごこくつつがゆ)、高野鹿(こうやしか)の耳割(みみわれ)、御作田(みさくだ)、葛井清池(くずいのせいち)、宝殿点滴(ほうでんてんてき)」がある。これらは諏訪神社の祭祀(さいし)行事と深く関連するものである。人々の素朴な信仰心が、このような特異な神事に対して七不思議と称し崇(あが)めたのであろう。同様のことは仏教に関してもいえる。幸若舞(こうわかまい)の「敦盛(あつもり)」に天王寺の七不思議ということばが出てくるが、これは同寺の三水(さんすい)・四石(しせき)の七不思議についてのことである。三水とは「荒陵池水、亀井(かめい)、閼伽井(あかい)」をいい、四石とは「転法輪石、影向石(ようごうせき)、礼拝石、引導石」のことである。天王寺は聖徳太子の創建と伝えられているので、あるいは太子の奇跡にかかわったものであろうか。というのは、貴人・高僧にかかわる七不思議はほかにもある。越後に親鸞(しんらん)の七不思議というのがあり、秋田には弘法大師(こうぼうだいし)の七不思議がある。後者は由利(ゆり)郡鳥海(ちょうかい)町百宅(ももやけ)に伝えられるもので、百宅の七不思議とよんでいる。それには「大師の名づけた地名、虱(しらみ)のない猫、虫のつかない稲穂、先のとがらない田螺(つぶ)、水のない川、鳴かない一番鶏(どり)、寝泊まりした洞窟(どうくつ)」がある。これらはすべて弘法大師に関係したものであり、こうした七不思議ができる背景には弘法伝説の伝承があることはいうまでもないことである。人々の信仰心に支えられた神仏の奇特を説く七不思議が一方に存在したのである。

 江戸にも民間説話を題材にした七不思議がある。有名な本所(ほんじょ)の七不思議、麻布(あざぶ)の七不思議がそれである。本所の七不思議には、「真夜中にどこからともなく聞こえてくる馬鹿囃子(ばかばやし)、追いかけるとどんどん向こうに行ってしまうという深夜の道の送り提灯(ちょうちん)、一ひらの落葉もないという松浦家の落葉なき椎(しい)の木、太鼓の音がするという火の見櫓(やぐら)の津軽家の太鼓、両国橋近くに生える片葉の芦(あし)、消えたことのない二八のそば屋の消えずの行灯(あんどん)、釣った魚を持ち帰ろうとすると置いてけと声がかかるおいてけ堀」がある。怪談仕立てに構成されてはいるが、妖怪(ようかい)変化の話であり、先行する伝説や世間話を再構成したものである。麻布の七不思議も同じような性質のものであり、そこには「善福寺の逆さ銀杏(いちょう)、六本木、かなめ石、釜(かま)なし横丁、狸穴(まみあな)の古洞、一本松、広尾ヶ原の送り囃子」があげられている。

 七の数は聖なる数を示すことばであって、七不思議とは本来、自然界、神仏界における霊的な現象をさす意味があったように思われる。それが時代の流れのなかで信仰心が希薄になるにつれて、怪異な現象、不可解な事柄をもさすようになってきたと考えられる。

[野村純一]

世界の七不思議

古典古代の伝承で世界の七不思議といわれるのは、アレクサンドロス大王の東方遠征(前330ころ)以後ギリシア人旅行者にとって観光の対象となった著名な七つの建造物で、ビザンティウムフィロン(前2世紀前半)に帰せられている著作『世界の七つの景観』De Septem Orbis Spectaculisなどに述べられている。(1)エジプトのカイロ郊外ギゼーの台地にあるクフ(ケオプス王)の大ピラミッド 紀元前2550年ごろ建てられ、七不思議のうち最大のものであり、現存する唯一のもの。(2)バビロンセミラミスの庭園 「空中庭園」「釣り庭」ともいう。新バビロニア王朝ネブカドネザル2世(前600ころ)のとき築かれた庭園で、伝説では山国出身の王妃を楽しませるために壇状につくられ、上から水を流したという。(3)オリンピアのゼウス像 ギリシア本土オリンピアの神殿内に置かれていたゼウスの巨像で、彫像の名人フェイディアスの作と伝えられる。(4)エフェソスアルテミス神殿 小アジアの町エフェソスに建てられていた壮麗な神殿で、大地母神を祖とする女神アルテミスが祀(まつ)られていた。(5)ハリカルナッソスのマウソロス陵墓 前350年ごろ、小アジアのペルシア人総督マウソロスの死に際し、王妃アルテミシアが建てさせた壮大な陵墓。(6)ロードスコロッソス(大巨像) 前3世紀ごろ小アジア近くの小島ロードスに建てられた青銅製の巨像で、太陽神ヘリオスを表していた。(7)アレクサンドリアのファロス(灯台) プトレマイオス2世フィラデルフォス(前250ころ)によりアレクサンドリア港の入口近くの小島ファロスに建てられた灯台で、高くそびえる石造建造物の頂部で火を燃やす仕掛けがあり、レンズか鏡が使われたともいう。

 なお、世界七不思議については諸説あり、中世以後のものでは、ローマの円形劇場、中国の万里の長城、イギリスのストーンヘンジ(巨石記念物)、イタリアのピサの斜塔、イスタンブールのアヤ・ソフィア寺院などを数えることもある。自然現象に関するものでは、チベットの氷の滝、アルジェリアの砂の海、死海の秘密、アラガラ山上の怪光、ハワイの火の湖(溶岩湖)、ノルウェーの夜の太陽、北アメリカの化石木の山があげられることもある。

[矢島文夫]

『レナード・コットレル著、矢島文夫訳『古代の不思議』(1962・紀伊國屋書店)』『関敬吾編『秘められた世界』(1969・毎日新聞社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「七不思議」の意味・わかりやすい解説

七不思議 (ななふしぎ)

〈不思議〉は元来,仏教語〈不可思議〉の略で,思議すべからざること,つまり心で思うことも,言葉でいうこともできないようなことを指し,経典には4種,5種,10種などの不可思議がみえている。日本では〈七不思議〉という言葉は,古く嘉禎4年(1238)の奥書をもつ《諏方上社物忌令之事》に,信州諏訪大社の神威を表すものとして用いられている。また幸若舞《敦盛》には摂津の四天王寺に七不思議があったことが語られている。このような用例からすると,七不思議という言葉は,中世には宗教と関係が深い場所やものについて使われ,のちに世俗化して,各地の珍奇なことがらを七不思議として数えるようになったかと考えられる。
執筆者:

江戸時代中期の生活感覚のなかで,不思議だとか奇異だと感じられた天然自然現象が七つ選ばれ,世間話として定着した。まず越後,甲斐,遠江といった,江戸を離れた遠隔地に七不思議が設定された。内容も越後の七不思議だと臭水(くそうず),燃土(もゆるつち),火井(かせい)など,越後に特有な石油に関する自然現象が挙げられている。東武七奇というのは,桜の返り咲き,80歳の女が男女の子を生む,鯨が品川沖に出現したことなど,奇事異聞に属する話である。江戸市中には,本所,千住,麻布の七不思議が古い形を示している。人口に膾炙(かいしや)した本所の七不思議は,片葉の蘆,置いてけ堀,送り提灯,消えずの行灯,天井の大足,落葉せぬ椎,馬鹿囃子である。共通して怪光や怪音,異形の樹木,池沼・橋など水辺の怪異について語られている。地域が開発されていく過程で,かつて聖地だった空間についての言い伝えが,非合理的な要素を残したまま伝説化した結果,生じたものといえる。
執筆者:

ギリシア語ではHepta Theamataといい,前3世紀ころ以来,ヘレニズム世界中から選び出された七つの巨大で美しい建造物を指す。普通には,エジプトのピラミッド,バビロンの城壁,同じくバビロンの空中庭園,フェイディアス作のオリュンピアのゼウス像,ハリカルナッソスのマウソレイオン(マウソレウム),エフェソスのアルテミス神殿,ロドス島の太陽神の青銅巨像が挙げられる。これらのうち若干は,アレクサンドリアのファロス島の灯台,エピダウロスのアスクレピオス像などと入れ替えられることがある。後世にはローマのカピトリウム神殿やコロセウム,コンスタンティノープルのハギア・ソフィア寺院,ノアの箱舟,エルサレムの〈ソロモンの神殿〉などが入れられたりした。なおギリシア語のtheamataは〈眺めるべきもの〉という意味で,〈不思議〉という意味は含まれていないが,ラテン語ではSeptem Miraculaと訳されたため,英語でもSeven Wondersとなった。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「七不思議」の意味・わかりやすい解説

七不思議
ななふしぎ
Seven Wonders of the World

古代の地中海地域,中東でつくられた建築・彫刻から選ばれた,七つの卓越したもの。前2世紀のシドン(サイダ)の詩人アンチパトロスとビザンチウムの数学者フィロンの選定したものが知られるが,一般的には以下があげられる。(1) エジプトのピラミッド,(2) 王妃アミチスのためにつくったバビロンの吊り庭園(空中庭園),(3) アテネのフェイディアスがつくったオリュンピアのゼウス神殿にあった巨大なゼウス像,(4) イオニア様式の建築として有名なトルコのエフェソスにあったアルテミスの大神殿,(5) カリアの女王アルテミシアが夫マウソロスのためにつくった大霊廟,マウソレイオン,(6) ロドス島ヘリオスの巨像,(7) 前280年頃プトレマイオス2世フィラデルフォスがファロス島に建てたアレクサンドリアの灯台。ほかに,バビロンの城壁,エルサレム神殿,ローマのコロセウムなどを数える場合もあり,その組み合わせはさまざまである。

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百科事典マイペディア 「七不思議」の意味・わかりやすい解説

七不思議【ななふしぎ】

不思議な現象を七つ取り合わせる趣向。〔日本〕 越後,江戸,信州,遠江(とおとうみ),甲斐,土佐七不思議,親鸞上人の七不思議などという。越後七不思議は,三条市如法寺の燃風火,名立町(現・上越市)の四海波,妙高山赤坊主八滝,村松町(現・五泉市)河内墓坊塔,新津市(現・新潟市)の臭水(くそうず),栃尾市(現・長岡市)の塩谷塩水,柿崎町(現・上越市)米山腰の燃石をいうが,火井,かまいたち,弘智法師遺骸などを入れることもある。〔世界〕 ヘレニズム世界で有名になった七つの巨大建造物。諸説あるが,前2世紀ローマ帝政期のフィロがあげたものがよく知られる。エジプトのピラミッド,バビロンの空中庭園,バビロンの城壁,エフェソスのアルテミス神殿,フェイディアスのオリュンピアのゼウス像,小アジアのハリカルナッソスのマウソレウム王廟,ロードス島のアポロン巨像(アレクサンドリアのファロス島の灯台,エピダウロスのアスクレピオス像をあげるのもある)。
→関連項目アレクサンドリアエフェソス

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世界大百科事典(旧版)内の七不思議の言及

【アレクサンドリア】より

…またスエズ運河と地中海の接点であるポート・サイドと並ぶ大貿易港として注目されている。港は東港と西港に分かれており,その中間には古代の七不思議として有名なファロスの灯台跡やラース・アッティーン宮殿のある半島が地中海に突き出すような形をしている。東港は漁船や内航船が使用しており,地中海諸国を結んだり,遠くアメリカやアジアと結ぶ外国船は税関や出入国事務所のある西港を利用している。…

【数】より

…これは6が完全数であることに由来するともいわれる。 7は奇跡,秘宝などを意味し,世界の七不思議,七色の虹など神秘的な数とされている。3と4を足した一種の完全性を意味することもあり,7層の天,1週の7日などものごとの基本単位を表している。…

※「七不思議」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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