一本(読み)いっぽん

精選版 日本国語大辞典 「一本」の意味・読み・例文・類語

いっ‐ぽん【一本】

〘名〙
書物についていう。
(イ) 書物の一冊、一巻。一部の書物。
今昔(1120頃か)七「曇摩伽陀耶舎(どんまかだやしゃ)に値(あひ)て无量義経を伝へむと思ふ。心を至して此を請(うく)るに、纔(わづか)に一本を得たり」 〔王建‐哭孟東野詩〕
(ロ) 一つの書物。ある書物。異本が多くある場合などにいう。一書。
万葉(8C後)三・二五五「天離る夷の長道ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ 一本云、やどのあたり見ゆ」
② 木、扇、竹、髪の毛、針、刀、壜(びん)など、細長い物一つ。
※九暦‐九条殿記・五月節・天慶七年(944)五月「寄柱今日以前左右馬寮堀立各一本」
読本・夢想兵衛胡蝶物語(1810)前「一本の松魚(かつを)は食ひつくされず」 〔淮南子‐説林訓〕
③ ばらばらになっているものをまとめた、ひとまとまり。また、他の要素を交えない、一つの物事や方向。
④ 同じ仲間。一味。ぐる。
浄瑠璃・卯月の紅葉(1706頃)上「をのれが弟の伝三郎、今迄をのれら一本と思ひしに」
⑤ それ一つだけで独立しうる状態にあること。一本立ち
(イ) 他の助けを借りずに独力で事が行なえること。
※浄瑠璃・源頼家源実朝鎌倉三代記(1781)八「此庵地を一本(いッぽン)の寺にしたいと思ふから」
(ロ) 特に、一人前になった芸者。一本立ち。⇔半玉
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉四「二代目小常と名宣(なの)らせ、大妓(イッポン)として押出せしに」
⑥ 江戸時代以後の金銭の簡便な単位。
(イ) 一文銭または四文銭をつないだ銭差し一本の意で、百文または四百文のこと。
※洒落本・通言総籬(1787)二「さよじさんに一本(ぽン)かりてたて引きをしてあげてやったに」
※歌舞伎・傾情吾嬬鑑(1788)五立「『酒手もろともソレ一本』と四文銭を一本出してやる」
(ロ) 転じて、百両のこと。
※南水漫遊拾遺(1820頃)四「歌舞伎楽屋通言〈略〉壱本金百両」
(ハ) 明治以後、百円、千円、一万円などをいう隠語。〔隠語輯覧(1915)〕
落語・三軒長屋(1894)〈四代目橘家円喬〉「マア諸雑費を引いて、跡(あと)百円(イッポン)も残りゃア」
剣道柔道で一回の勝負。また、わざが一つきまること。転じて、相手をやりこめること。「一本とる」
浮世草子好色万金丹(1694)三「かやうの男は大かた女房の方から一本しられてをきざりにあふもの也」
⑧ その道ひとすじ。いっぽんやり。「文筆一本の生活

ひと‐もと【一本】

〘名〙
① 木や草などの一本(いっぽん)。一株。また、器具などの一基(いっき)
古事記(712)中・歌謡「みつみつし 久米の子らが 粟生(あはふ)には 臭韮(かみら)比登母登(ヒトモト) 其ねが本 其根芽つなぎて 撃ちてし止まむ」
② 鷹などの猛禽一羽。〔いろは字(1559)〕
仮名草子・浮世物語(1665頃)三「鷹一もとに侍一人を代へられん事」
③ 酒になり始めた時のある量の米と麹(こうじ)の数え方(日葡辞書(1603‐04))。
④ (接頭語のように用いて) 木や草が一本だけ離れて立っていることをいう。
※古事記(712)下・歌謡「八田の 比登母登(ヒトモト)須宜(すげ)は 子持たず 立ちか荒れなむ あたら菅原」

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デジタル大辞泉 「一本」の意味・読み・例文・類語

いっ‐ぽん【一本】

細長い物一つ。また、電話・手紙などについてもいう。「一本の便りもない」→ほん

㋐一冊または一部の書物。
㋑ある書物。異本。別の本。「一本いわく」
柔道・剣道などで、完全に技が一つ決まること。柔道では投げ技のほか、押さえ込みで20秒が経過した場合、絞め技関節技で相手が「参った」と言った場合など。
3から転じて》相手をやり込めること。「これは一本取られたな」
(名詞に付いて)そのことだけに、目標や態度などを絞ること。いっぽんやり。「芸一本に生きる」「進学一本にしぼる」
それ一つだけで独立しうる状態であること。特に、一人前になった芸者。→半玉はんぎょく
とっくりに入った酒。「一本つける」
銭100枚をつないだ銭差ぜにさし一つ。一文銭で100文、四文銭で400文。
「―づつも取らねば勘定に合ふもんぢゃあねえ」〈黄・即席耳学問〉
同じ仲間。一味。ぐる。
「おのれが弟の伝三郎、今迄おのれら―と思ひしに」〈浄・卯月の紅葉
[アクセント]138ッポン、2はイッポン

ひと‐もと【一本】

草や木などのいっぽん。また、一つだけ離れて立っている草や木など。「一本松」
なめらかなる床には、―の草だに生いず」〈鴎外訳・即興詩人

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「一本」の解説

一本 いっぽん

相生治五右衛門(あいおい-じごえもん)

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