デジタル大辞泉
「一向」の意味・読み・例文・類語
い‐こう〔‐カウ〕【▽一向】
[副]《「いっこう(一向)」の促音の無表記》ひたすら。
「その代はりに、―に仕うまつるべくなむ」〈源・玉鬘〉
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
いっ‐こう ‥カウ【一向】
[1] 〘副〙 (「に」「の」を伴うことが多い)
①
一つのことがらに専念して他を考えない意を表わす語。動作性の語にかかりやすい。ひたすら。いちずに。いこう。
※一枚起請文(1212頃)「智者の振舞をせずして、只一かうに念仏すべし」
②
物事が完全に一つの傾向にある意を表わす語。形状性の語にかかりやすい。すべて。全部。もっぱら。たいそう。むやみに。
※左経記‐長元四年(1031)一〇月一七日「次震動顛倒、材木一向自中倒臥」
※
吾輩は猫である(1905‐06)〈
夏目漱石〉一「他
(ひと)が顫へて居ても一向平気なものである」
③ 下に打消の語を伴って、
程度の完全なことを強める意を表わす。まるで。ちっとも。さっぱり。まったく。
※殿上詩合(1056)泉石夏中寒〈
藤原季綱〉「一向莫
レ言煩熱尽、秋風偸逐
二地形催
一」
※中華若木詩抄(1520頃)中「筧の水が凍りて、一向に水が
不通ぞ」
※
申楽談儀(1430)序「一かうの風斗
(ばかり)を得て十体にわたる所を知らで」
⑤ 一つのことがらを選び取る意を表わす。いっそ。むしろ。
※
浄瑠璃・大磯虎稚物語(1694頃)四「母の御めんなくは一ッ向
(いっこう)御手にかけてたべ」
[2] 〘形動〙 否定的な意味を含めていう。全くひどい。まるでだめだ。→
一向なもの。
ひと‐むき【一向】
〘名〙 (形動)
※
風姿花伝(1400‐02頃)六「ひたすら静なる本木の、
音曲ばかりなると、又、舞・働きのみなるとは、一むきなれば、書きよき物なり」
② ある一つのことに心を向けて、ほかを顧みないこと。また、そのさま。ひたむき。一途。
※古今連談集(1444‐48頃)下「さる故にや、一むきの人の及ざる所をせし也」
い‐こう ‥カウ【一向】
〘副〙 (「いっこう(一向)」の促音が表記されなかった形。「に」を伴っている) =
いっこう(一向)(一)①
※宇津保(970‐999頃)国譲下「をば君にあづけ奉りて、いかうにこのことを後見(うしろみ)奉らん」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
出典 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plusについて 情報 | 凡例
世界大百科事典(旧版)内の一向の言及
【専修念仏】より
…法然以前にももっぱら念仏を修して往生した人々はあり,往生伝が作られているが,それら念仏者は,諸行のなかの一つとしての念仏を修していた。法然の教説では,〈弥陀の一切衆生のためにみづからちかひたまひたりし本願の行なれば,往生の業にとりては念仏にしくことはなし〉(〈津戸三郎へつかはす御返事〉)と信じて,一向に修する念仏が要求されており,法然以前と以後とでは念仏観に質的相違があった。念仏は行者が選ぶものではなく,阿弥陀仏が選んだものであるゆえに絶対の価値があるとされた。…
※「一向」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」