ワーグナー(Adolf Heinrich Gotthilf Wagner)(読み)わーぐなー(英語表記)Adolf Heinrich Gotthilf Wagner

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ワーグナー(Adolf Heinrich Gotthilf Wagner)
わーぐなー
Adolf Heinrich Gotthilf Wagner
(1835―1917)

ドイツの政治経済学者。エルランゲンに生理学の教授の息子として生まれる。ゲッティンゲンおよびハイデルベルク大学で法律学および政治経済学を学んだ。ウィーン大学ハンブルク大学などで教鞭(きょうべん)をとったのち、1870年にベルリン大学教授となり、以後46年間にわたり政治経済の講座を担当した。

 ワーグナー業績のもっとも評価された分野は財政学であるが、1877~1901年に出版された『財政学』Finanzwissenschaft全4巻は、学問的にも実践的にも強い影響を及ぼした。ワーグナーの財政学は、官房学的な狭義の財政の概念を拡張し、経済政策や社会政策と財政政策との統合を目ざすものであった。租税政策も単なる財源調達のみでなく、再分配を達成するための手段として位置づけられ、今日の累進税制度の基礎を築いたといえる。

 社会思想家としては、国家社会主義、保守的社会主義などの名称でよばれた社会思想を提唱した。基本的には私有財産制民間部門における分権的意思決定を容認したが、個人主義的原理と社会主義的原理を融和させるために、経済の特定部門の所有、保護関税、累進的所得税、累進的相続税などの政策により、社会・経済分野において国家が積極的な役割を演ずることを求めた。ヒトラーの全体主義的国家社会主義と19世紀プロイセンを舞台としたワーグナーの保守的社会主義との間には基本的な差異が存在するが、前者の台頭とともに、国家社会主義提唱の先駆者として、また国家社会主義者として、賞賛と批判の対象とされた。

[林 正寿]

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