日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ワイス(Peter Weiss)
わいす
Peter Weiss
(1916―1982)
ユダヤ系のドイツ語作家、劇作家。11月8日、ベルリン郊外に生まれる。ナチス時代に亡命し、国籍は1945年以降スウェーデン。46年ころから内向的な実験小説や戯曲を書き始めるが認められないまま、50年代はおもに絵画や映画製作に携っていた。60年、8年前に書いたヌーボー・ロマン風の小説『御者のからだの影』が認められて、作家活動を再開する。まず小説『両親との別れ』(1961)、『消点』(1962)で、孤独なアウトサイダーとしての自らの生い立ちを克明につづったのち、64年、戯曲『サド侯爵の演出のもとにシャラントン保護施設の演劇グループによって上演されたジャン・ポール・マラーの迫害と暗殺』を発表、革命家マラーと個人主義者サドの対立を虚実入り交じった劇中劇形式のなかに描いて、一躍世界的な名声を得る。以後、政治参加の立場を表明し、『追究』(1965)、『ベトナム討論』(1968)などの作品で、被抑圧者たちの解放の闘争を巨視的にとらえた特異な集団舞台を試みた。さらに、戯曲『亡命のトロツキー』(1970)、『ヘルダーリン』(1971)を経て、虚構の自伝小説の大作『抵抗の美学』三巻(1975~81)を完成させたが、翌82年5月10日急死した。
[西尾直樹]
『柏原兵三訳『両親との別れ』(1970・河出書房新社)』▽『内垣啓一・岩淵達治訳『マラーの迫害と暗殺』(1967・白水社)』