ローマ法の精神(読み)ローマほうのせいしん(英語表記)Geist des römischen Rechts

改訂新版 世界大百科事典 「ローマ法の精神」の意味・わかりやすい解説

ローマ法の精神 (ローマほうのせいしん)
Geist des römischen Rechts

ドイツの法学R.vonイェーリングの古代ローマ法に関する名著。全題は《Geist des römischen Rechts auf den verschiedenen Stufen seiner Entwicklung》。1852-65年刊。全4巻からなるが,彼の思想の変化を反映して統一性を欠く。まず第1巻および第2巻第1分冊には,サビニー歴史法学の方法がみごとに応用されている。すなわち,従来ローマ法研究が法規範や法理論の整理にとどまっていたのに対し,ここでイェーリングは,法現象をローマ人の生活上の基本原理(〈精神〉)--自由,軍事,家族制度,宗教等--との関連で体系的に解明している。続く第2巻第2分冊ではイェーリングは,ローマの法学の方法を論じつつ,法学を自己完結的な論理の体系へと整備することが新しい課題だと主張し,いわゆる〈概念法学〉の立場をとる。ところが彼は,第3巻第1分冊ではこの立場を反省し,法学は現実生活上の利害関係に結びついた実践的学問だとして,自由法論利益法学に向かう新しい方向を打ち出したのである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ローマ法の精神」の意味・わかりやすい解説

ローマ法の精神
ろーまほうのせいしん
Geist des römischen Rechts auf den verschiedenen Stufen seiner Entwicklung, 3Tle., 1852‐65

19世紀ドイツの法学者イェーリングの代表的大著。正確な書名『ローマ法の多様な発展段階におけるその精神』からも知れるように、イェーリングは法を民族精神の表れとみる歴史法学者として、ローマ国家に生まれたローマ法はヨーロッパ世界を統一し、ローマ滅亡後も各地に継受されて、普遍的な文化をつくっていった、この進化過程を、法史的ではなくむしろ法哲学的に説く。この概念法学に行き詰まり、本書未完に終わった。

[小林孝輔]

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百科事典マイペディア 「ローマ法の精神」の意味・わかりやすい解説

ローマ法の精神【ローマほうのせいしん】

イェーリング主著。3巻。1852年―1865年刊。〈ローマ法を通じてローマ法の上に〉の目標をかかげ,ローマの各時代の法の歴史的発展を詳細に分析・再構成しようとしたもの。外面的な歴史事実にとどまらず,歴史の内部的要因精神文化との関連性を考究し,法史研究の古典とされる。

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世界大百科事典(旧版)内のローマ法の精神の言及

【イェーリング】より

…彼には当初(1842年の学位論文以来),法学を学問的な体系に高めようという,当時サビニーやプフタらの歴史法学派にみられた法教義学Rechtsdogmatik的志向が強かった。1852年より刊行の名著《ローマ法の精神》は,古代ローマの法をローマ社会の基底をなす諸原理に結びつけ体系的に叙述したものである。これは,法を実生活と結びつけてとらえる法社会学的志向と,法を体系として構成しようという志向の共存を意味していた。…

※「ローマ法の精神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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