ロック・クライミング(読み)ろっくくらいみんぐ(英語表記)rock climbing

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロック・クライミング」の意味・わかりやすい解説

ロック・クライミング
ろっくくらいみんぐ
rock climbing

山の岩場を登降する登山技術。ヨーロッパ・アルプスなどの氷雪を伴った岩峰の登攀(とうはん)には不可欠で、アルプス登山の黄金時代にザイル(ロープ)の使用などが発達したが、その後スポーツ登山を提唱したママリーが、1888年にグレポンの針状岩峰に初登攀し、岩壁登攀が登山技術の代表的なものとされるようになり、バリエーションルートよりの岩稜(がんりょう)や岩壁登攀が盛んになった。日本でも、1921年(大正10)に槇有恒(まきありつね)がアイガー東山稜の初登攀を行い、帰国後、岩登り技術や、ハーケンハンマーカラビナなどの用具を紹介した。1924年には藤木九三(くぞう)がRCCロッククライミング・クラブ)を創設し、六甲(ろっこう)山の岩場がゲレンデとなり、岩登りが著しく発達し、より困難な登攀を目ざして技術と用具が進歩した。第二次世界大戦後には、化学繊維や軽合金の進歩から、ナイロンザイル、埋め込みボルト、あぶみなどの用具が著しく発達し、昔は登攀不可能と思われていたオーバーハングの岩壁も克服されるようになった。しかし反面、ハーケンなど、岩壁に多くの人工的な用具を打ち込んで登るのは、登山の本質に背くのではないかという意見も多く、アメリカのヨセミテの岩壁などを中心に、クリーン・クライミングとして、なにも用具を用いずに登ることを重視する運動もおこって、登攀技術も多様化している。

 ロック・クライミングの基本は、岩場の自然の凹凸を手掛り、足場とし、両手両足のうち3点をつねに安全なホールドに置いて、ルートを確認しながら、リズミカルに腕に頼らず足で登るということが基本で、このフリークライミングを十分に体得したうえで、用具を利用した、より困難な技術の習得へと進むべきである。ロック・クライミングの第一の条件はルートの確認である。岩場は、その岩壁の岩石によって割れ目の走り方や岩質のもろさが異なってくるし、それをよく理解して適応していくことが必要で、石灰岩の岩場と花崗(かこう)岩の岩場とでは岩質が非常に異なり、したがって用具の選択も異なってくる。また岩登りは、通常の健康な人であれば、とくに適性というほどのことはないが、傾斜、高度感などは訓練をしないと非常な恐怖感を伴い、これが危険と結び付く。岩登りの第一の要件は安全の問題であるから、十分に身体的条件を整え、バランス、平衡感覚など訓練してから実施する必要がある。

 安全を守るために用具を用いるが、その中心はザイルで、ザイルの使用が登攀技術の中心であるともいえる。単独で行動することもあるが、通常は2、3人でパーティーを組み、1人が行動し、他の者が登攀者を確保する隔時登攀スタカットクライミング)をする。全員同時にザイルを結び合ったまま行動する連続登攀(コンティニュアスクライミング)は、岩場ではあまり用いない。手掛りが少なく、また確保の支点に自然物が得られないときは、ハンマーで岩の割れ目(リス)にハーケンを打ち込み、利用する。割れ目のないときは埋め込みボルトを用いたり、割れ目にチョックを挟んで利用したりする。ザイルをこれに通す場合はカラビナを用い、また自然の木や岩を支点とするときにはシュリンゲを用いる。またオーバーハングの場所では、あぶみを用いて足場とする。下降も登るときと同様だが、手掛りの少ない所では、自然物やハーケンなどを支点として懸垂下降(アプザイレン)を行うこともあり、下降器などの用具を利用することもある。

 岩壁の形状は、スラブ、カンテ、バットレス、チムニーなど複雑で、割れ目や凹角の形、岩質により逆層・順層があるなど、千差万別であり、これに適応した技術を駆使して安全に登攀・下降するために、総合的な判断・技術を要求される。したがって登攀のパーティーは、リーダーの指示のもとに互いに信頼しあった者で組まなければ危険である。また岩登りだけが登山ではなく、あくまでも全体的に山を楽しむための技術の一つであることを理解すること、またこの技術を基礎として、さらに積雪期の氷雪技術へと進むというように、登山を総合的に理解することが必要である。

 日本・世界の各山岳地域に岩場があり、ロック・クライミングの舞台となり、その岩場にはグレイド(等級)がつけられているので、自己の技術に応じた等級を選ぶ必要がある。有名な場所としては、アルプスではアイガー、グランド・ジョラス、マッターホルンの三大北壁をはじめ、ドロミティ、ティロールなど、アメリカではヨセミテ、グランド・ティートンなどがある。日本では、北アルプスの穂高岳、剱岳(つるぎだけ)の二大岩場をはじめ、上越国境の谷川岳、南アルプスの北岳、山陰の大山(だいせん)など、古くよりクライマーの対象となっている。また東京周辺では三ツ峠、関西では六甲山が訓練のゲレンデとして知られており、また岩壁登攀の新しい訓練として用具を用いないボルダリングが、各地の小岩壁で用いられ、人工岩場も、アメリカのワシントン大学をはじめ各地に設けられ、日本でも立山(たてやま)の文部科学省登山研修所、神戸市登山研修所などに設けられている。ロック・クライミングは、登山のなかで華やかだが危険度も大で、遭難事故も多い。十分に安全を確保しつつ訓練を積んで実施することにより、楽しさが与えられることを銘記すべきである。

[徳久球雄]

 競技としてのロック・クライミングは、国際スポーツクライミング連盟(IFSC)によるワールドカップ・シリーズや世界選手権などの国際大会と、日本フリークライミング協会による日本選手権などの国内競技会が行われている。

[編集部]

『文部省登山研修所編『高みへのステップ』(1985・東洋館出版)』『小西政継著『ロック・クライミングの本』(1978・白水社)』

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