ロゼッタ(彗星探査機)(読み)ろぜった(英語表記)Rosetta

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロゼッタ(彗星探査機)」の意味・わかりやすい解説

ロゼッタ(彗星探査機)
ろぜった
Rosetta

ESA(イーサ)(ヨーロッパ宇宙機関)が2004年3月にフランス領ギアナからアリアン5ロケットで打ち上げた彗星(すいせい)探査機。ハレー彗星の近接観測に成功した彗星探査機ジオットGiottoの後継機で、彗星への着陸と成分探査を目的としていた。ロゼッタ本体の質量は約2900キログラム、大きさは2.8メートル×2.1メートル×2.0メートル。おもな搭載観測機器は、可視光・近赤外光・紫外光の光学カメラと分光計、彗星から噴き出すガスを観測するマイクロ波サウンダー、彗星の大気や電離層の成分などを観測する質量分析計や圧力センサーなどである。打上げ後、地球および火星による数回のスイングバイ(天体の重力を利用して加速させる技術)を行い、10年の歳月をかけて2014年8月に、目的のチュリュモフ‐ゲラシメンコ彗星に到達した。同年11月に世界で初めて、彗星に着陸機「フィラエPhilae」を着陸させた。フィラエは質量約100キログラム、大きさは1メートル×1メートル×1メートルで、内部温度を測定するペネトレータ、X線分光計、ガスクロマトグラフィーなどが搭載されていた。彗星表面のカメラ撮像や彗星の成分分析を実施したが、日照の状態が悪く、太陽電池に十分に充電ができなかったため通信がとだえた。その後、2015年6~7月に断続的に通信が復帰し、「フィラエ」はその限られた観測時間のなかで、彗星にわずかながら大気があり炭素窒素が豊富に含まれていること、表面には16種類もの有機物が存在することなどを発見した。2016年7月にフィラエの運用は終了した。

 一方、母機のロゼッタは2015年8月のチュリュモフ‐ゲラシメンコ彗星の近日点通過に向け観測を続け、彗星の表面に凍りついた水と考えられる光る領域を発見するなど、水に関しての多くの発見をもたらした。また、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星から噴き出す水蒸気は地球の水とは異なった性質をもっていること、彗星の窒素分子を初めて検出したこと、大規模な磁場はないことなど、太陽系の起源や進化の謎(なぞ)に迫る科学的に興味深い成果も明らかにしている。ロゼッタは当初、2015年12月までにミッションを終了する予定であったが、ESAは2016年9月までの延長を決定した。その後ロゼッタは、12年に及ぶ任務の総仕上げとなるチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に衝突して着地し、ミッションを終えた。

 ロゼッタの名称は、エジプトヒエログリフを理解する鍵(かぎ)となったロゼッタ石に、着陸機のフィラエはロゼッタ石のヒエログリフ解読の鍵となったオベリスク発見の地の名に由来する。

森山 隆 2017年4月18日]


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