日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ロスト・ジェネレーション(アメリカ文学)
ろすとじぇねれーしょん
Lost Generation
アメリカにおいて、第一次世界大戦中に成年期を迎え、戦争体験を通じて、既存の思想、道徳、宗教に不信の念を抱き、またアメリカ文化の俗物性に絶望し、新しい生き方を求めた世代をいう。「失われた世代」「迷える世代」「喪失の世代」「幻滅の世代」などと翻訳されている。この名称は、G・スタインがパリでヘミングウェイにいった「あなたがたはロスト・ジェネレーションね」ということばを、ヘミングウェイが『日はまた昇る』(1926)の見返しに用いたことから有名になった。この世代の特色は社会の風潮に反抗し、固く自我を守るところにあり、ヘミングウェイ、ドス・パソス、スコット・フィッツジェラルド、フォークナー、カミングズ、M・カウリーら、優れた文学者を数多く生み出したところから、狭義では、これらの文学者集団をさしてロスト・ジェネレーションという。彼らは国外離脱者としてフランスに渡り、T・S・エリオット、J・ジョイス、E・W・L・パウンド、スタインらのモダニズムの感化を受けながら、それぞれ独自の文学的実験を試み、第二のアメリカン・ルネサンスともいうべき成果をあげた。彼らは文体もまた思想であることを示し、その後のアメリカ小説に大きな影響を与えている。しかし、1929年以後、大恐慌やファシズムの脅威など社会情勢の変化に伴って、ロスト・ジェネレーションも個人の世界に閉じこもることをやめ、社会的に積極的に行動するようになった。
[井上謙治]
『谷口陸男著『失われた世代の作家たち』(1966・南雲堂)』▽『高稿正雄著『「失われた世代」の作家たち』(1974・冨山房)』