ロゴス(読み)ろごす(英語表記)logos ギリシア語

精選版 日本国語大辞典 「ロゴス」の意味・読み・例文・類語

ロゴス

〘名〙 (logos)
ことば
※解釈学と修辞学(1938)〈三木清〉「解釈学も修辞学も共にロゴス(言葉)に関係するにしても」
ギリシア哲学で、ことばを媒体として表現される理性。また、その理性の働き。
近代文学と生活の問題(1934)〈唐木順三〉二「それはロゴスとパトスをひとつの中に包むことを運命とせざるを得ない」
③ ギリシア哲学で、万物が流転するという宇宙の真理、理法。また、万物の流転中に存在する一定の法則や原理。
※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生と虚空「自然のうちに生きる法としての神を信ずる。〈略〉希臘人は『ロゴス』と曰った」
キリスト教で、神のことば。また、それが形を得て現われたイエス‐キリスト、およびその神性をいう。

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デジタル大辞泉 「ロゴス」の意味・読み・例文・類語

ロゴス(〈ギリシャ〉logos)

ギリシャ語で、言葉・理性の意。
古代ギリシャ哲学スコラ学で、世界万物を支配する理法・宇宙理性。
言葉を通じて表される理性的活動。言語・思想・教説など。
キリスト教で、神の言葉の人格化としての神の子イエス=キリスト

ロゴス(Rogoz)

ルーマニア北部、マラムレシュ地方の村。17世紀に建造された聖大天使聖堂があり、1999年に「マラムレシュ地方の木造教会群」の一つとして世界遺産文化遺産)に登録された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロゴス」の意味・わかりやすい解説

ロゴス
ろごす
logos ギリシア語

古代ギリシア哲学の基本語の一つ。〔1〕事物の存在を限定する普遍の理法、〔2〕行為の従うべき準則、〔3〕この理法、準則を認識し、これに聞き従う分別、理性を意味する。パトスに対する。本来は古典ギリシア語で「いう」を意味する動詞legeinの名詞形であって、「いわれたこと」を意味する。そこから、「ロゴス」は多種の派生的意義を生み、古代哲学において重要な役割を果たすものとなった。古代哲学は総じて「ロゴス的」と特徴づけられよう。

「いわれたこと」は、まず、〔1〕「ことば」「文」「話」「演説」である。言論を重んずるのは古代人の特徴であり、ここから修辞学rhētorikēが生まれた。〔2〕ついで、それは事物の「説明」「理由」「根拠」であり、したがって、事物の「定義」「論証」でもある。ギリシア人はこの意味でのロゴスの追究によって、論証科学episteme(ギリシア語)、scientiaラテン語)と哲学philosophia(ギリシア語)を生んだ。〔3〕さらに、それは定義によって把握される事物の「本質存在」(その「何であるか」)であり、したがって、それは事物の「成り立ち(physis〈ギリシア語〉自然、本性)」を規定し、それぞれの事物をそれぞれに固有な一定のものとしている「形(eidos〈ギリシア語〉forma〈ラテン語〉本質構造)」である。だが、事物が一定のものとして限定されるのは、それが他の事物から区別されることによって、他の事物との関係のうちに置かれることによってであるから、ロゴスはこの関係を律するものとして、ある事物と他の事物との「割合」であり、したがって、すべての事物に「共有のものkoinon」である。ヘラクレイトスはここから、世界万物は一つのロゴスによって統(す)べられ、このロゴスを認識することのうちに知恵があるとした。〔4〕さらに、ロゴスは、ことばを語り、事物の存在の「何であるか」を把握する人間の「分別」「理性」を意味する。ロゴスにより把握される事物の存在は感覚には顕(あら)わではないことにより、パルメニデスは、ロゴスと感覚の区別を強調した。

 古代哲学のロゴス性はこれらの人々によって端緒を置かれた。人間はことばを語るものとして、「ロゴスをもつ動物(理性的動物)」と定義される。古代末期のプロティノスでは、根源の一者はロゴスを超えるものである(神秘主義)。キリスト教思想においては、ロゴスは世界創造における神の思想内容であり、第二の位格である「子」である。これらすべての思想は後世のヨーロッパ哲学に気息の長い、種々の影響を及ぼした。

[加藤信朗]

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改訂新版 世界大百科事典 「ロゴス」の意味・わかりやすい解説

ロゴス
logos

言葉,議論,言表,計算,比例,尺度,理法,理由,根拠など,複雑多様な意味をもったギリシア語。この語の動詞に当たる語はlegeinで〈話す〉〈語る〉を意味し,これに対応するラテン語のlegere,ドイツ語のlesenはともに〈読む〉を意味するが,この三つの動詞に共通の基本的意味は〈集める〉である。もし集めることが乱雑な集積を意味せず,秩序ある取りまとめ,すなわち統一を意味するとすれば,そういう意味にしたがってロゴスという語を使用した最初の哲学者はヘラクレイトスである。彼にあってはロゴスとは,逆方向に働く二つの力を統一して一本の琴の弦にする理法であり,あるいは昼と夜とを一つに結合する理法のことであった。要するに相対立するものを結合し,万物を統一する理法がロゴスであった。そのロゴスを彼はときに〈神的法〉と呼んだり(断片114),〈神〉に見立てたりした(断片67)。ストア学派の哲学はこのロゴス概念を継承し発展させた。同学派の祖キプロスのゼノンはいう,〈共通なる普遍の法,それこそまさに“正しきロゴスorthos logos”なのであるが,それはあまねく万物にゆきわたるもの,すなわち存在するものいっさいの秩序の主なるゼウスと同一なるものである〉。なお,周知のように新約聖書《ヨハネによる福音書》は〈初めに言(ことば)(ロゴス)があった。言は神と共にあった。言は神であった〉で始まるが,ロゴスを神と同一視する態度は,すくなくとも形式的には,異教のストア学派の考えにつながるといえるかもしれない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ロゴス」の意味・わかりやすい解説

ロゴス
logos

理性,言語,理法(法則),比例,定義などさまざまに訳されるギリシア語で,古代哲学,神学における重要な概念。ヘラクレイトスはロゴスを万物の生成を支配する永遠の理法とし,ストア派は世界を合目的的に支配する原理として神と同一視した。なおストア派は個物を形成する能動的理性を種子的ロゴス(ロゴス・スペルマチコス),分かたれて個々の人間に内在する思想 ratioとしてのロゴスをロゴス・エンディアテトス,ことばとして表出された oratioとしてのロゴスをロゴス・プロフォリコスと呼んだ。ユダヤ神学とギリシア哲学の融合を試みたアレクサンドリアのフィロンは,ロゴスを神と同一視せず,神と世界とを仲介し世界形成に関与する神的存在とした。これは『ヨハネによる福音書』における神のひとり子イエス・キリストとして受肉したロゴスと近似しており,直接の依存関係はないがキリスト教神学に与えた影響は大きい。

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百科事典マイペディア 「ロゴス」の意味・わかりやすい解説

ロゴス

〈言葉〉〈議論〉〈尺度〉〈理法〉〈理性〉など多義をもつギリシア語。対立物を結合し,万物を統べるものとしてロゴス概念を用いたのはヘラクレイトスストア学派で,以来西洋哲学における理性観を規定した。《ヨハネによる福音書》の冒頭〈初めに言(ことば)ありき〉の〈言〉もロゴスであり,〈御言葉〉ともいわれる。
→関連項目合理主義パトスフィロン

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世界大百科事典(旧版)内のロゴスの言及

【合理主義】より

…現在ふつう〈合理主義〉というと近代合理主義のことだけを考えがちだが,もともと合理主義とは一般に〈理性(ロゴス,ラティオ)〉にのっとった考え方,生き方,世界のとらえ方を意味する。だから,理性にさまざまなものがあれば,合理主義にもさまざまなものがあることになる。…

【ヘラクレイトス】より

…火を万物のもとのものとし,その万物は変化してやまぬと説いた哲学者とされてきたが,いわゆる〈すべては流れる(パンタ・レイpanta rhei)〉という有名な言葉もプラトンやアリストテレスの批判的解釈を継承したシンプリキオスの言葉であって,彼自身の直接の発言ではない。火や流動についてもたしかに述べてはいるが,それは彼の哲学の一面であって,もっとも重要なのは〈ロゴス〉についての考えである。〈事実,すべてはこのロゴスにしたがいて生ずるにもかかわらず,人々はなお,そを経験せざる者のごとし〉(断片1)。…

※「ロゴス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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