ロケット(工学)(読み)ロケット

百科事典マイペディア 「ロケット(工学)」の意味・わかりやすい解説

ロケット(工学)【ロケット】

推進のために必要なエネルギー源をすべて自蔵している飛行体またはその推進機関。ふつう燃料と酸素を含むロケット推進剤燃焼による生成ガスを後方に噴出し,その反動で前進する。空気の吸入を必要としない点で,ジェットエンジンなどと基本的に異なる。 12世紀前半の北宋で,矢に黒色火薬を詰めた筒を添えて飛ばす火箭(かせん)が使われたのが起源とされ,西方に伝わって17―19世紀には火薬弾頭をもつ兵器として実用された。近代的ロケットの研究は20世紀になってからで,チオルコフスキーゴダードオーベルトらが先駆的業績をあげ,第2次大戦におけるV2号によって実用化された。戦後V2号の実物やその研究に当たったW.vonブラウンらの人員が米・ソに引き継がれて,研究開発が推進され,今日,ロケットはミサイル,科学観測,人工衛星打上げその他の宇宙開発など広く利用されている。 日本では宇宙空間へのロケットの研究が始まったのは第2次大戦後のことで,観測ロケットの研究が東京大学のグループによって進められた。1955年全長23cmのペンシルロケットから出発したこの一連のロケットは固体推進剤によるもので,カッパロケット,ラムダロケットを経てミューロケットに到達している。ほかに科学技術庁が計画,宇宙開発事業団(現宇宙航空研究開発機構)に引き継がれた人工衛星打上げ用のQロケット,Nロケット,Hロケットが開発されている。 ロケットの機体大部分は推進剤を含めたエンジン部で占められるが,先端に計器類,操縦装置,弾頭,乗員など目的に応じた積載物を収容し,後尾に空気層内で方向の安定を保つ尾翼が付けられる。エンジン部は推進剤,燃焼室,ノズルからなり,液体推進剤ロケットでは燃料タンク,酸化剤タンク,推進剤送り装置を備え,固体推進剤ロケットでは棒状に成形された推進剤が燃焼室全体に収められ,点火装置を備える。固体ロケットは構造が簡単なのが特徴である。液体ロケットはタンクから燃焼室への配管や,十分な推進剤流量を維持するためポンプを利用するなど,構造は複雑となるが,弁の調節などにより推力の調整や燃焼の一時停止など,固体ロケットには望めない性能が得られる。燃料と酸化剤を,固体と液体で組み合わせ両者の特徴を生かすハイブリッドロケットもある。燃焼室で生成したガスはノズルに入り,そのスロート(くびれた部分),スカート(末広の部分)で段階的に加速され,噴出する。ロケットの推力はガス噴出速度が大きいほど,また単位時間の噴出量が多いほど大きい。到達速度は推進剤の消費量に関係し,ガス噴出速度に比例するとともに,推進剤使用前のロケット全重量と使用後重量との比である質量比が大きいほど大きくなる。質量比の増大を図るため多段ロケットが使われる。ガス噴出速度は推進剤の種類により異なるが,この性能は,単位重量の推進剤を単位時間に消費したときの全推力である比推力で示される。一般に液体推進剤のほうが固体推進剤より比推力は大きい。 液体・固体推進剤の燃焼を利用するものを化学ロケットと呼ぶのに対し,これによらない,非化学ロケットがある。イオンロケットアークロケットプラズマロケットなどの電気ロケット,および原子力ロケットがそれである。化学推進剤の比推力が数百秒程度であるのに対し,これらは数千秒もの大きな比推力をもつが,推力自体は小さい。→光子ロケット離陸補助ロケット
→関連項目糸川英夫駆逐艦航空宇宙工業

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