レーヨン(読み)れーよん(英語表記)rayon

日本大百科全書(ニッポニカ) 「レーヨン」の意味・わかりやすい解説

レーヨン
れーよん
rayon

以前は人絹人造絹糸)、スフ(ステープルファイバー)といわれていたもので、おもにビスコースレーヨンおよびそれに近いものをさす。rayonはフランス語で「光るもの」を意味し、このものが光沢のあることから名づけられた。世界初の人絹は、1884年にフランスのシャルドンネ硝酸セルロースから製造し、これは89年のパリ万国博覧会に「シャルドンネの絹」として出品された。ビスコースレーヨンはイギリスのクロスがビーバンとともに発明し特許を得た(1892)。

 日本では1915年(大正4)に久村清太(くむらせいた)と秦逸三(はたいつぞう)が山形県米沢(よねざわ)市に工場を建設したのがビスコースレーヨン製造の始まりである。日本の生産量は38年(昭和13)に世界第一位の生産量を誇り、多くのレーヨン会社がその品質を競った。第二次世界大戦後は、その生産が復旧したが、55年(昭和30)ころから各種合成繊維の開発により、急激に減少していった。しかし合成繊維と異なり風合い、耐候性、吸湿性などに優れているので、一部でまだ多くの需要がある(たとえばサリー地など)。

 ビスコースレーヨンは、パルプをアルカリで処理してアルカリセルロースとし、二硫化炭素を作用させることによってセルロースキサントゲン酸ナトリウムを得る。これはアルカリ液に可溶である。この溶液をビスコースという。この溶液を硫酸浴中へ紡糸口金(ノズル)より圧出すると、ビスコースは凝固し、キサントゲン酸ナトリウムが分解してセルロースが糸状に再生される。この再生糸をレーヨンとよぶ。T‐ダイを使って膜状に酸浴中に圧出するとセルロースフィルム(セロファン)が再生される。

 特殊レーヨンとして、純度の高いパルプを原料とし、老成などの工程を短くして、特殊な製法を採用することで強力レーヨンがつくられている。強度を必要とする繊維、ベルト、ホースなどの器材として用いられている。さらに強度の高いレーヨンにポリノジックがある。

[垣内 弘]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レーヨン」の意味・わかりやすい解説

レーヨン
rayon

人造絹糸,人絹ともいう。絹の代用としてフランスで工業化された繊維。天然セルロースを溶解して人工的に繊維の形に再生してつくる。長く連続した長繊維のものを通常,レーヨン糸と呼び,これを短く切断して線状の短繊維にしたものをレーヨンステープル,これを糸に紡いだものはスフ糸と称している。レーヨン糸にはビスコースレーヨンとキュプラアセテートなどがあるが,普通はビスコースレーヨンをレーヨン糸もしくは人絹糸と呼んでいる。

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百科事典マイペディア 「レーヨン」の意味・わかりやすい解説

レーヨン

セルロース再生繊維の総称。ビスコースレーヨン銅アンモニアレーヨンをいうが,広く半合成繊維のアセテート繊維をも含めていうこともある。一般にはビスコースレーヨンをさすことが多い。短繊維のステープルファイバーと長繊維のレーヨンフィラメントに分けられる。
→関連項目人絹炭素繊維直紡機帝人[株]

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精選版 日本国語大辞典 「レーヨン」の意味・読み・例文・類語

レーヨン

〘名〙 (rayonne rayon) セルロースの再生繊維の総称。ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨンなど。日本ではビスコースレーヨンだけを意味することがある。〔モダン用語辞典(1930)〕
※真実一路(1935‐36)〈山本有三〉自分も知らない秘密があるのだろうか「レーヨンの羽おりを着た娘」

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化学辞典 第2版 「レーヨン」の解説

レーヨン
レーヨン
rayon

日本では,ビスコース法により製造された再生セルロースを主成分とする繊維をいう.アメリカでは,再生セルロースからなる人造繊維,およびヒドロキシ基の水素の15% 未満が置換された再生セルロースからなる人造繊維をいう.[別用語参照]ビスコースレーヨン

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デジタル大辞泉 「レーヨン」の意味・読み・例文・類語

レーヨン(〈フランス〉rayonne/〈英〉rayon)

《「レイヨン」とも》再生セルロースからつくる光沢のある人造繊維。人造絹糸溶解方法によりビスコースレーヨン銅アンモニアレーヨンアセテートがある。

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世界大百科事典 第2版 「レーヨン」の意味・わかりやすい解説

レーヨン【rayon】

植物繊維セルロースを化学的に変化させて溶解させた溶液を紡糸口金を通して紡糸後,元のセルロースに戻した化学繊維をいい,ビスコースレーヨンと銅アンモニアレーヨン(キュプラ)が製造されている。通常,レーヨンは前者をさす。最初にかなりの量で作られたレーヨン(フランス語で〈光る〉の意)はフランスのC.H.B.deシャルドンネが硝酸セルロースから作り,1889年のパリ万国博覧会に出品した〈シャルドンネの絹〉である。

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世界大百科事典内のレーヨンの言及

【化学繊維】より

…ニトロセルロースがフランスのブラコネH.Braconnetによって1832年セルロースと硝酸から合成されたので,スイスのC.F.シェーンバインが46年にこれをエーテルとアルコールに溶かして糸に引いたのが始まりである。85年にC.H.B.deシャルドンネはニトロセルロースを紡糸後に脱ニトロ化してシャルドンネの絹と呼ばれる最初の実用になるレーヨンを作り,一時期広く使用された。ビスコースレーヨンは91年にイギリスの化学者C.F.クロスとベバンE.J.Bevanによって発明された。…

【キサントゲン酸セルロース】より

…遊離の酸の状態は不安定で存在せず,多くナトリウム塩となっている。これを希薄水酸化ナトリウムに溶かした粘稠な液体がビスコースであり,ビスコースを硫酸浴へ押し出して紡糸すると再生セルロースすなわちレーヨンになる。セルロース源は木材パルプが使われる。…

【シャルドンネ】より

…ブザンソンに生まれ,はじめL.パスツールのもとでカイコの伝染病の研究に従事したことから繊維に関心を深め,さらに綿火薬(ニトロセルロース)の研究にも携わった。こうした背景から,コロジオン(ニトロセルロースのアルコールとエーテルの混合溶液)を小孔に吐出し溶媒を蒸発させて,後に〈レーヨン〉と呼ばれた人造絹糸を得る方法を発見,1884年特許を得て,新繊維を89年のパリ博覧会で初めて公開し好評を博した。91年ブザンソンに世界最初の人造絹糸工場を設立,商品価値のある人工繊維をつくった最初の一人となった。…

※「レーヨン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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