日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
レンツ(Jakob Michael Reinhold Lenz)
れんつ
Jakob Michael Reinhold Lenz
(1751―1792)
ドイツのシュトゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤(しっぷうどとう))期の代表的劇作家、詩人。ロシア領リーフラントの牧師の子として生まれる。ケーニヒスベルク大学に学ぶ。貴族の家庭教師として、主人がストラスブールでフランス軍の士官になるのに随行、そこで若きゲーテと知り合いシュトゥルム・ウント・ドラング運動に触れる。代表作『家庭教師』(1774)と『軍人たち』(1776)は、身分違い(貴族と平民)の恋愛・性愛という社会的な問題を取り上げ、大きな衝撃を与えた。この二つの戯曲は問題を投げかけるだけで、解決はむしろ観客・読者に開かれている。のち職を辞してスイス、ドイツを放浪したが安住の地はなく、一時精神に異常をきたし、最後はモスクワ街頭で窮死した。彼の戯曲は非完結形式への道を開いたが、彼の鋭敏な感受性と深い知性が社会と折り合えず、放浪、精神錯乱、不幸な死に終わるという点でも、レンツは近代ドイツ知識人の一つの型の先駆をなしている。
[中村英雄]
『岩淵達治訳『軍人たち』(『世界文学大系89』所収・1963・筑摩書房)』
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