日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
レッシング(Doris Lessing)
れっしんぐ
Doris Lessing
(1919―2013)
イギリスの小説家。ペルシア(現、イラン)でイギリス人銀行家の娘として生まれる。5歳のとき入植する両親に伴って南ローデシア(現、ジンバブエ)に移住。学校教育は14歳まで受けた。二度結婚するが離婚。1949年渡英し、『草は歌っている』を出版。これは、南アフリカの白人の人妻と黒人の召使いとの人種問題が絡んだ男女関係を描いた小説で、成功を博した。『黄金(おうごん)のノート』(1962)では従来の枠にはまった女の生き方を廃し、自由な生を追求する女性の苦悩を描いてフェミニストの名を獲得した。また、五部作『暴力の子供たち』(1952~1969)では、作者と同じく共産主義に傾倒するが、それに幻滅する女性の半生をたどり、『善良なテロリスト』(1986)でも反体制的な政治への参加を扱っている。1953年にサマセット・モーム賞受賞。2007年にはノーベル文学賞を受賞。授賞理由は「女性の経験を描いた叙事詩人であり、懐疑と情熱そして想像力をもって、分断された現代文明を精査した」となっている。
[安達美代子]
『レッシング著、加地永都子訳『アフガニスタンの風』(2001・晶文社)』▽『レッシング著、篠田綾子訳『夕映えの道 よき隣人の日記』(2003・集英社)』▽『レッシング著、山本章子訳『ラブ・アゲイン』(2004・アストラル)』