レオロジー(読み)れおろじー(英語表記)rheology

日本大百科全書(ニッポニカ) 「レオロジー」の意味・わかりやすい解説

レオロジー
れおろじー
rheology

物質流動変形に関する科学。フックの法則に従う理想弾性、あるいはニュートンの粘性法則に従う純粘性を示さない物質の変形・流動を扱う。

 レオロジーの語源は、ギリシア語のρεω (rheo-)すなわち流れである。命名者はアメリカのビンガムEugene Cook Bingham(1878―1945)である。彼は、粘土と水などの懸濁液の流動を研究していた。この種の物質は、圧力がある降伏点に至るまでは流動が認められないが、降伏値以上では圧力に比例して流速の増加がおこる(このような性質をもつ流体は塑性流体、あるいはビンガム流体という)。これらの性質は古典物理学では扱いがたいので、それまでの物理や化学を総合した新しい学問分野として「レオロジー」を提案した(1922)のである。世界的に広がったのは1940年以後のことである。これは、一つには重要な研究対象である合成繊維や合成ゴムプラスチックなどの高分子物質などの生産が始まり、それまでのコロイド溶液などの研究の盛んであったドイツやオランダなどのヨーロッパ諸国の研究を基礎として大きく発展したことでもある。

[山崎 昶]

レオロジーの研究対象

研究対象はゴム、繊維、紙、プラスチック、ペイント、印刷インキ、写真フィルム、その他工業製品はもとより、豆腐、寒天、バター、プリンなどの食品、糊(のり)などの接着剤やワニス、化粧クリームなどの日常品などが古くからのものであるけれども、血液や生体組織、粘土、砂、岩石、さては地殻やマントルなどにまで近年はレオロジーの対象は広くなり、したがって関連する分野も増加した。そのために研究方法も多種多様であり、物理学、化学、生物学、地質学、土木工学、医学、金属工学などの関連した分野からの研究法をすべて包含しているといっても過言ではない。衣服の風合いとかチーズの風味などの研究においてはさらに心理学的手法も導入され、そのためにサイコレオロジーという方法論まで存在する。

 物質のレオロジー的挙動を測定する計器をレオメーターと総称するが、回転粘度計や回転振動粘弾性計などがこの名称でよばれることが多く市販もされている。

[山崎 昶]

『岡小天著『レオロジー入門』(1977・工業調査会)』『中川鶴太郎著『レオロジー』第二版(1978・岩波全書)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「レオロジー」の解説

レオロジー
レオロジー
rheology

物質の変形と流動に関する研究分野で,1922年,アメリカの化学者G. Binghamが提案した名称である.フックの法則が適用できる理想的な固体のバネ変形と,ニュートン粘性法則に従う理想的な液体の流動がある.一般に多くの物質は変形する場合,固体のバネ的性質と液体の粘性が混在した性質を示し,粘弾性とよばれる.おもにレオロジーはこの粘弾性の研究である.たとえば,レオロジーで扱われる対象は,油,粘土,プラスチック,ゴム,ガラス,アスファルトセルロースデンプン,タンパク質など,化学的に複雑な組成または構造をもつ物質で粘弾性的性質を示す.これらの物質の示すレオロジーの性質として,異常粘性,塑性,チキソトロピーダイラタンシーワイセンベルク効果法線応力効果などの粘弾性挙動などがある.また,化学反応を伴う場合を化学レオロジーといい,生体における細胞液,血液などの力学的挙動もレオロジーの研究対象であり,生物(バイオ)レオロジーという.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「レオロジー」の意味・わかりやすい解説

レオロジー

流動学とも。〈物質の変形と流動を扱う科学〉として,米国の化学者E.C.ビンガム〔1878-1945〕が1929年に命名したもの。歴史的にはまず弾性力学と粘性流体力学が体系化され,金属加工に関連して塑性力学の方法が発達,さらにコロイド化学・高分子化学の進歩に伴いそれらの法則では律しきれない粘弾性,応力緩和,クリープ,弾性余効,塑性流動,チキソトロピー等の現象が発見されて,それらを総合的に扱うレオロジーrheologyが形成された。以後分子・原子の相互作用に基づいて諸現象を説明する物性論的方法もとり入れられている。レオロジーは力学と物性論を結びつける研究分野として興味があるばかりでなく,繊維・プラスチック・ゴム・塗料・食品など諸工業に深い関連をもち実用的価値も大きい。
→関連項目水力学

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「レオロジー」の意味・わかりやすい解説

レオロジー
rheology

物質の変形と流動を研究する物理学の分野。研究対象とする物質は,通常の弾性学や流体力学で扱う固体,液体,気体のように単純な力学的性質をもつ物質ではなく,油,ゴム,プラスチック,ガラス,粘土,アスファルト,デンプン,蛋白質のように固体と液体の中間の性質をもつ複雑な物質である。レオロジーはこれらの物質における粘弾性塑性チキソトロピーなどの現象を物質の構造と関連して論じるもので,コロイド学,高分子学,物性論などの境界にある総合科学である。研究対象の実例としては,生体内での細胞液や血液の流動,粉体の輸送洪水の際の土石流,地震の際の砂質土壌の流動化など,日常的に興味あるものが多い。レオロジーという名称は 1922年 G.ビンガムが提唱したものであるが,発展したのは 1940年代以降である。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

精選版 日本国語大辞典 「レオロジー」の意味・読み・例文・類語

レオロジー

〘名〙 (rheology) 物質の変形や流動について研究する学問。油やプラスチック、生物細胞など広範囲の物質の粘性・弾性・構造などを従来の学問分野の枠(わく)を越えて総合的に取扱う。流動学。
氾濫(1956‐58)〈伊藤整〉一「高分子の構造粘性に関するレオロジー的考察」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「レオロジー」の意味・読み・例文・類語

レオロジー(rheology)

《流れの意のギリシャ語から》物質の流動と変形に関する学問。プラスチック・ゴム・粘土・たんぱく質などの化学的に複雑な物質について、粘性弾性可塑性・接着・摩擦現象などを研究する。流動学。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

栄養・生化学辞典 「レオロジー」の解説

レオロジー

 流動学ともいう.物質の物理的,力学的挙動を解析し,物質を構成する要素との関連を明らかにする学問分野.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典 第2版 「レオロジー」の意味・わかりやすい解説

レオロジー【rheology】

物質の変形および流動を取り扱う科学の一分科。レオロジーということばとその定義は1929年にアメリカでこの分野の学会が創立された際,アメリカの化学者ビンガムEugene Cook Bingham(1878‐1945)が初めて与えたもので,流れを意味するギリシア語のrheosに由来している。物質に力を加えたときに起こる変形および流動を取り扱う科学の分科としては,他に弾性論,塑性学,流体力学などがあるが,レオロジーで取り扱う変形は,上記の各分科で取り扱う比較的単純な変形が組み合わされた形の,より複雑な変形が主体となっている。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

岩石学辞典 「レオロジー」の解説

レオロジー

流動学

出典 朝倉書店岩石学辞典について 情報

世界大百科事典内のレオロジーの言及

【水力学】より

…流体や気体のように自由に変形する物質を固体と対比して流体というが,流体が流れるときの圧力変化や周囲の物体に及ぼす力を調べる学問は,水力学,流体力学,空気力学,レオロジーなど,さまざまな名まえで呼ばれる。このうち,空気力学aerodynamicsは高速の気体の流れを,レオロジーはコロイドや高分子のように複雑な構造をもつ液体の流れを主として取り扱い,独立した分野を形づくっている。…

※「レオロジー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

今日のキーワード

カッシーニ(Giovanni Domenico Cassini)

イタリア系フランス人の天文学者。カシニともいう。ニース近郊に生まれ、ジェノバで聖職修業中に、ガリレイの弟子カバリエリに師事して数学・天文学を修得し、1650年25歳でボローニャ大学教授に任ぜられた。惑...

カッシーニ(Giovanni Domenico Cassini)の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android