日本大百科全書(ニッポニカ) 「ル・フォール」の意味・わかりやすい解説
ル・フォール
るふぉーる
Gertrud von le Fort
(1876―1971)
ドイツの女流小説家。先祖はフランスのサボイ出身のユグノー(新教徒)。ハイデルベルク、ベルリン大学などで神学、哲学、歴史を学ぶ。1926年ローマでカトリック教会に加入。41年以後南ドイツのオーベルストドルフに住んだ。「彼女は創作の究極的意味を神への帰依(きえ)に見ている」といわれ、処女作『教会への讃歌(さんか)』(1925)以来、その作品は深く信仰に根ざしているが、「文学的なものそれ自体のなかにキリスト教的な要素」を認めようとする彼女の作品は、けっして護教文学を目ざしたものではない。代表作『ベロニカの聖帛(せいはく)』(第一部『ローマの泉』1928、第二部『天使たちの花冠』1946)は、他者の救いのためにする自己犠牲の可能性と限界とを、少女ベロニカの苦悩を通して大胆に探り、カトリック教会内で論議をよんだ。彼女はまた好んで歴史に素材を求め、『断頭台最後の女』(1931)、『海の法廷』(1943)、『天国の門』(1954)などでは現代にまで及ぶ問題性を指摘した。ほかにドイツ民族の歴史的使命と運命を歌った『ドイツ賛歌』(1931)、カトリック的女性論『永遠の女性』(1934)、『詩集』(1949)、『手記と回想』(1951)などがある。
[横塚祥隆]
『船山幸哉・前田敬作訳『教会への讃歌』(1960・ヴェリタス書院)』