リン酸エステル(読み)りんさんえすてる(英語表記)phosphate ester

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リン酸エステル」の意味・わかりやすい解説

リン酸エステル
りんさんえすてる
phosphate ester

リン酸とアルコールとのエステル総称。リン酸H3PO4三塩基酸であるので、モノアルキルエステル、ジアルキルエステル、トリアルキルエステルの3種が存在する()。このうちトリアルキルエステルは中性であるが、他の二者はまだ酸の水素が残っているので酸性エステルとよばれ、酸性を示す。糖類のリン酸エステルは天然にも存在し、糖の代謝など生体内での重要な反応に関与している。リボ核酸(RNA)やデオキシリボ核酸DNA)も核酸塩基とリボースおよびデオキシリボースのリン酸エステルが結合したヌクレオチドから構成されている。

 リン酸エステルというと、普通はオルトリン酸H3PO4のエステルをいうが、広くはメタリン酸HPO3、ピロリン酸H4P2O7などのエステルを含んだ総称であることもある。

 おもなリン酸エステルを以下に示す。

(1)リン酸トリメチル 化学式(CH3O)3PO、無色液体、沸点192.7℃。

(2)リン酸トリブチル 化学式(CH3CH2CH2CH2O)3PO、無色の液体、沸点289℃。可塑剤、ウラン抽出用溶媒としての用途をもつ。

(3)リン酸トリフェニル 化学式(C6H5O)3PO、無色の固体、融点50.3~50.7℃。

(4)リン酸トリクレシル 化学式(CH3C6H4O)3PO、無色の液体、沸点240~260℃(4mmHgの減圧下)。ポリ塩化ビニルポリスチレンの可塑剤。

 リン酸およびチオリン酸エステルには殺虫剤として用いられるものがある。

[廣田 穰 2016年11月18日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「リン酸エステル」の解説

リン酸エステル
リンサンエステル
phosphate

リン酸より生成するエステルの総称.リン酸は三塩基酸なので,対応するモノエステル(a),ジエステル(b),トリエステル(c)の3種類のエステルが存在する.天然から得られるエステルは(a)および(b)の構造をもち,(c)の構造をもつ中性のエステルは得られていない.(c)は化学的に安定に合成されており,有機リン農薬の大部分はこのリン酸トリエステルである.(a)および(b)の構造をもつエステルは液体あるいは固体で,なかには粘性の高いあめ状物質もある.これら(a)および(b)の化合物遊離の状態では不安定で,とくに加熱すると分解しやすい.一般に金属塩あるいはアミン塩として単離する.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android