リャノ(英語表記)llanos

改訂新版 世界大百科事典 「リャノ」の意味・わかりやすい解説

リャノ
llanos

南アメリカ北部,ベネズエラコロンビアにまたがる大草原リャノスともいう。面積約58万3000km2オリノコ川と多数の支流流域にひろがる広大な低地で,西部・北部はアンデス山系,南東部はギアナ高地と接する。南西部はパルダオス台地を経てアマゾン低地に続く。低いメーサ灌木林,ヤシなどが点在するが,ゆるやかな起伏をもち,サバンナ型の植生を呈する。標高はせいぜい300m程度と低平。北東貿易風の影響を強く受け,雨季乾季が著しい対照を示す。高温で乾燥した北東貿易風が大陸内部まで侵入する11~4月は乾季,北東貿易風の影響を受けない5~10月は雨季になる。乾季には土地は著しく乾燥し,草地は枯れて褐色に変わる。雨季の特に6~8月は雨が多く月降水量が200mmを超え,川がはんらんして広い地域が水浸しになる。気温は年較差が小さく,年中26℃前後と高い。熱帯サバンナ気候区に属する。気候条件が悪く住みにくいため,人口は希薄である。困難な自然条件のもとで牧畜業,特に牛の放牧が行われている。住民はインディオが多い。リャネロllaneroと呼ばれる牧夫は,かつて南アメリカ解放の父シモン・ボリーバルの優秀な兵力として働き,ベネズエラの解放に重要な役割を果たした。第2次大戦後,ベネズエラのオリノコ川,アプレ川沿いでは大規模な灌漑事業とダム建設がなされ,農耕地が開墾された。そこでは近代的な大農法が行われているが,農耕地化されたのはまだわずかな部分で,農耕可能地が広く残されている。オリノコ川北部地域,ベネズエラのアンソアテギ州モナガス州グアリコ州を中心にマトゥリン産油地帯があり,ベネズエラの石油生産高の約20%を産出している。リャノは本来〈平野〉という意味のスペイン語であったが,現在はブラジルのセルバ,カンポなどと同様に植生景観を示す地理学用語として使われる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「リャノ」の意味・わかりやすい解説

リャノ
りゃの
Llano

南アメリカ北部、オリノコ川流域の灌木(かんぼく)混じりの草原およびその分布地域をさす。リャノスともいう。ベネズエラからコロンビア東部に広がるオリノコ平野のうち、森林に覆われた上流域(南緯4~5度以南)と河口のデルタ地域を除く約38万平方キロメートルがこれにあたる。年中高温で雨期(5~10月)と乾期の明確なサバナ気候下にある。ベネズエラの海岸山脈、メリダ山脈、コロンビアのコルディエラ・オリエンタル山脈と続くアンデス山系とギアナ高地との間に生じた沈降帯で、地下には石油を含んだ中生代から新生代第三紀の地層が厚く堆積(たいせき)しており、オリノコ油田を形成している。リャノは標高100メートルの等高線を目安に低位リャノと高位リャノに分けられる。低位リャノは雨期に冠水する低地で、西部で広く、東部ではオリノコ川沿いの狭い地帯に限られる。高位リャノは、メリダ山麓(さんろく)の肥沃(ひよく)な扇状地性の地帯、海岸山脈南方の丘陵地帯、その東方、油田の中心地エル・ティグレ周辺の低い台地の地帯などからなる。リャノ全般は、肉牛の飼育を主とする粗放的牧畜地域であるが、メリダ山麓や海岸山脈南方の高位リャノでは、灌漑(かんがい)により米、ワタ、ゴマ、タバコ、トウモロコシなどを栽培する近代農業が営まれている。

[松本栄次]

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百科事典マイペディア 「リャノ」の意味・わかりやすい解説

リャノ

南米北部,ベネズエラとコロンビアにまたがる大草原。オリノコ川と多数の支流の流域にひろがる広大な低地。リャノスとも。スペイン語で平原の意。熱帯サバンナ気候区に属し,乾季には一面の枯野になるが,雨季には草原となり,河川が氾濫(はんらん)する。主に牛の放牧が行われていたが,第2次大戦後,灌漑(かんがい)事業とダム建設によって農耕地化が少しずつ進行。ベネズエラのオリノコ川北部地域には産油地帯があり,ベネズエラの石油の約20%を産出。
→関連項目サバンナサン・クリストバル(ベネズエラ)パエスボリーバル

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世界大百科事典(旧版)内のリャノの言及

【ベネズエラ】より

…スペイン語では〈ベネスエラ〉と発音する。
【自然,地誌】
 地理的には,ベネズエラ高地,マラカイボ低地,リャノ,ギアナ高地の4地域に区分される。(1)ベネズエラ高地はアンデス山脈の北端を形成する一支脈で,さらに四つの地域に細分される。…

※「リャノ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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