リモート・センシング(読み)りもーとせんしんぐ(英語表記)remote sensing

翻訳|remote sensing

日本大百科全書(ニッポニカ) 「リモート・センシング」の意味・わかりやすい解説

リモート・センシング
りもーとせんしんぐ
remote sensing

遠隔探査のことで、遠隔計測、隔測などの日本語訳がある。すべての物質は、その温度状態に応じた波長の電磁波を光、赤外線、マイクロ波の形で放射している。一方、外部から電磁波の照射を受けると、その物質の種類や状態に応じた反射・散乱をする。この、物体から放射、反射される電磁波を利用して、その物体の種類や状態を調べることがリモートセンシングであるが、一般には人工衛星からの地球資源探査や地球環境などの情報取得の場合に使われている。なお欧米などでは地球観測衛星をリモート・センシング衛星といっている。

[渡辺和夫・土屋 清]

語源・沿革

リモート・センシングという術語が、現在使われているような意味で最初に使用されたのは、1962年アメリカのミシガン大学主催の「環境調査へのリモート・センシングの応用」というシンポジウムである。その後、1965年ごろからNASA(ナサ)(アメリカ航空宇宙局)が人工衛星からのリモート・センシングによる地球資源探査、地球環境調査などの計画について大宣伝をしたので、アメリカ国内ではかなりポピュラーになったが、世界中で使われるようになったのは、1972年7月23日アメリカの打ち上げた地球観測衛星ランドサットLandsat、打上げ時の名前はERTS(アーツ)=地球資源技術衛星、後に改名)1号から観測したデータが利用できるようになってからである。この衛星に搭載されていた可視域2、近赤外域2の合計四つの波長帯で観測する多重スペクトル放射計(MSS)による観測データは、当時としては画期的な79メートルの分解能で、詳細な地表面状況が識別でき、資源探査、農林業、環境モニタリングなどに有効なことがわかったために、世界中に大変な反響があった。さらに国連、宇宙先進国などでこのデータ利用に関する講習会が開催され、ここでこの衛星データの解析にリモート・センシングという術語が使われたので、たちまち世界中にこのことばが広まった。

 日本でも1970年(昭和45)科学技術庁にERTS計画に参加する準備として、資源技術衛星データ判読技術検討委員会が設立された。引き続き1973年には総理大臣任命の資源調査会から勧告28号「地球資源隔測の推進構想」が出され、このときに「リモート・センシング」の日本語訳として「隔測」という新語が採用された。ランドサットデータの利用が可能になってから、大学や研究機関などではリモート・センシングに関する研究が始められた。一方、リモート・センシング普及のために1975年には財団法人リモート・センシング技術センター、1981年には日本リモートセンシング学会が設立された。学会設立の際に学会の名称を漢字4文字以内で表現しようとのことで多くの術語の提案があったが、適当な術語が見当たらないという理由で、やむをえずリモート・センシングというカタカナ語の表現になった。

 1975年4月国連宇宙空間平和利用委員会科学技術小委員会で、フランス代表から「remote sensingという術語は不適当である。遠いという意味のある術語としては、telephone、telescopeなどのように、すべてteleがついている。télédétectionという術語が最適であるから、国連ではこの術語を採用すべきである」との提案があり、フランス代表から採択要請が執拗(しつよう)に繰り返されたが、採用には至らなかった。このためにフランスはESAヨーロッパ宇宙機関)の最重要メンバーになっているのにもかかわらず、ESAの最初の地球観測衛星には、ERS(European Remote-sensing Satellite=ヨーロッパ・リモート・センシング衛星)1号という名前がつけられた。フランス語では、télédétectionが採用され、中国語では「遙感(ようかん)」という名訳が採用されている。最近では、非接触による対象物の特性を調べることもリモート・センシングに含めてもよい、との意見もある。

[渡辺和夫・土屋 清]

観測方法

リモート・センシングに使われる電磁波は、可視域(400~700ナノメートル)から、近赤外域(700~1500ナノメートル)、中間~遠赤外域(0.0015~1ミリメートル)、マイクロ波域(1ミリメートル~80センチメートル)にわたる。しかし、その間には、水蒸気炭酸ガス、酸素などの、大気を構成する成分により電磁波エネルギーが吸収される吸収帯と、ほとんど吸収されない波長帯が数多く存在するので、リモート・センシングの目的それぞれに適した波長帯が使われている。

 観測機器としては、電磁波の特定の波長(周波数)域の強さである輝度を観測する放射計が使われる。複数の波長域で観測するので、光の領域では多重スペクトル放射計、または分光放射計などの名称があり、マイクロ波帯では多周波マイクロ波放射計などの名称がある。名称としては放射計が正式であるが、センサーということばも使われており、観測する波長域により光学センサーoptical sensor、マイクロ波センサーmicrowave sensorという名称も広く使用されている。センサー自身から電磁波を出して対象物からの反射を測定するものを能動型センサーactive sensor、対象物による太陽光の反射または対象物がその温度に応じて出す放射エネルギーの観測をする機器を受動型センサーpassive sensorという場合もあり、観測対象物による名称もある。たとえば、大分類では能動型マイクロ波センサーのカテゴリーに入るものに、波浪や海上風の観測をする散乱計scatterometer、海面高度を計測する高度計altimeter、地形や海氷などの情報を高い分解能で取得する合成開口レーダーsynthetic aperture radarなどがある。光学センサーにも観測対象物の名称をつけたもの、波長域の名前からとったものなど多くの名称があり、名称だけからは何の観測をするのかわからないようなものもある。

 新センサーの一般的な傾向は、スペクトル分解能および空間分解能の高度化、観測可能域の拡大などである。これらは必然的にデータ量の飛躍的増大をもたらすので、衛星からのデータの送信能力、地上の処理センターでの処理能力などが問題になる。

[渡辺和夫・土屋 清]

データ処理

衛星に搭載されている観測用センサーで観測されたデータは、デジタル信号に変換して地上受信所に送信される。受信所で受信された信号にはいろいろなゆがみが含まれている。受信したままのデータは未補正資料として保管され、ゆがみは次のデータ処理の段階で補正される。さらに、一般に使われている地図の投影法にあわせた投影変換などが施される。処理を終えたデータは、一般の利用者がそれぞれの計算機で解析処理が行えるように、数値データとして磁気テープやCDなどに記録して配布される。画像を希望する利用者にはフィルム、印画紙などにプリントして配布される。地形のようなパターンとしてではなく、海面水温や水蒸気量のような物理量を求める場合には、計測しようとする電磁波エネルギーが大気中を通ってくる間に被る減衰の補正や、不必要な電磁エネルギーが大気分子や塵(じん)粒子などで反射・散乱されて混入してくる成分を除く補正などの、物理的補正処理が必要である。

[渡辺和夫・土屋 清]

リモート・センシングの利用

リモート・センシングの利用は、多方面に及ぶ。たとえば建設分野では、道路・鉄道・ダム・港湾などの建設、管理や地図作成などに使われ、国土情報としての土地利用図の作成に利用されている。農業・林業分野では、病虫害監視、作付把握、収穫予測などに広く使われ、世界規模での調査に有効とされている。また、鉱物・エネルギー資源分野では、地質構造から、資源の存在有望地域を世界規模で探査するために使われている。冬季積雪量をみることは水資源の管理を容易にし、人工衛星で観測する海面水温分布、数百キロメートルに及ぶ海域の渦、海の色などは、漁業面での重要な情報として、強く注目されている。また、地球的規模での森林の減少や砂漠の拡大などの調査にも広く使われ、とくに国土環境情報の不備な開発途上国で役だっている。

 リモート・センシング用人工衛星として有名なのは、前述のアメリカの地球観測衛星「ランドサット」シリーズで、1972年に1号が打ち上げられてから1998年までに7機打ち上げられ、世界中で直接受信が行われ、データの利用が行われている。次に有名なのがフランスの人工衛星「スポット(SPOT)」シリーズで、1986年に1号が打ち上げられてから2002年までに5機打ち上げられ、ランドサットと同様に世界中で直接受信が行われて利用されている。日本では1990年(平成2)最初のリモート・センシング用衛星「もも」1号(海洋観測衛星1号)以来、数機の衛星が打ち上げられている。

 最初のころは、地球観測衛星を所有していたのはアメリカ、フランス、日本、ESA、旧ソ連だけであったが、現在では各国の関心の高まりを反映してかなりの国、たとえばカナダ、インド、中国、ブラジル、アルゼンチン、イスラエル、ドイツ、アルジェリアなどの国もそれぞれの地球観測衛星を運用しており、さらにイギリス、ナイジェリア、トルコ、ウクライナ、タイ、台湾、マレーシア、韓国、イタリアなども独自の地球観測衛星の開発を進めている。またアメリカやフランスはそれぞれ高性能センサーを備えたランドサットおよびスポットの後継衛星を維持する予定である。

[渡辺和夫・土屋 清]

『和達清夫他編・著『リモートセンシング』(1976・朝倉書店)』『宇宙からの眼編集委員会編『宇宙からの眼』(1979・朝倉書店)』『日本リモートセンシング研究会編『リモートセンシング用語辞典』(1989・共立出版)』『土屋清編著『リモートセンシング概論』(1990・朝倉書店)』『村井俊治・宮脇昭・柴崎亮介編『リモートセンシングからみた地球環境の保全と開発』(1995・東京大学出版会)』『竹内延夫編『地球大気の分光リモートセンシング』(2001・学会出版センター)』『日本リモートセンシング研究会編『図解リモートセンシング』改訂2版(2004・日本測量協会)』『深尾昌一郎・浜津享助著『気象と大気のレーダーリモートセンシング』(2005・京都大学学術出版会)』『William Gareth Ress著、久世宏明・飯倉善和・竹内章司・吉森久訳『リモートセンシングの基礎』第2版(2005・森北出版)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「リモート・センシング」の意味・わかりやすい解説

リモート・センシング
remote sensing

隔測ともいう。可視光線外の波長域の放射線または地表や水中からの反射波を探知して,面的広がりのある情報を得る方法。たとえば,水面の温度分布を熱線を感知する方法で調べる熱線写真,レーダに用いる波長の電磁波によって得られるレーダ写真,赤外線を赤く発色させる偽赤外カラー写真,赤外カラー写真,音響測深による水底からの反射音波を映像化したもの,波長帯ごとにフィルタなどで分離し,それらを特別の感光剤で映像化した写真の組としてマルチスペクトル写真,衛星船のテレビカメラによる映像をデジタル化して,地上の受信機で受けてから写真に仕上げる月や火星の空中写真などがある。応用分野は広く,農業,植生,地形,地質,土地利用,海洋,気象,考古学,医学などの分野にわたっており,地球資源の有効利用や環境保全などのために,重要な役割を果している。

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