リポ酸(読み)リポサン(英語表記)lipoic acid

デジタル大辞泉 「リポ酸」の意味・読み・例文・類語

リポ‐さん【リポ酸】

硫黄を含む脂肪酸肝臓酵母に多く含まれる、ビタミン様物質一つ。自然界に存在するα-リポ酸は、ミトコンドリア内でエネルギー産生に関与する補酵素として働く。分子式C8H14O2S2 チオクト酸

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「リポ酸」の意味・わかりやすい解説

リポ酸
りぽさん
lipoic acid

硫黄(いおう)を含んだ脂肪酸で、かつてはチオクト酸とよばれていた。化学式C8H14O2S2、分子量206.32。自然界に存在するのは(+)-α(アルファ)-リポ酸で、黄色葉状結晶。融点46.0~48.0℃。水に不溶で、ベンゼンなどの脂溶性溶媒には可溶。ナトリウム塩は水に可溶。乳酸菌の生育にとって酢酸塩代用をする成分(acetate replacing factor)またはピルビン酸の脱炭酸反応に必要な成分(ピルビン酸酸化因子pyruvate oxidation factor)として発見された。肝臓と酵母に多く含まれる。これが脂肪によく溶けることからリポ酸とよばれる(lipo=脂肪。水溶性の物質は脂肪には溶けにくいが、脂肪どうしは溶けやすい)。ビタミンB複合体の一つで、ビタミンB1と結合してリポチアミドになり、そのピロリン酸エステルは補酵素として重要な作用をもつ。リポ酸はα-ケト酸の酸化的脱炭酸反応、たとえばピルビン酸から炭酸ガスと酢酸が生成する反応の補酵素として働く。この反応にはいくつかの酵素と補酵素が関与しているが、リポ酸はピルビン酸とビタミンB1チアミン)からできた活性アルデヒド、すなわちα-オキシエチルチアミンピロリン酸から活性アルデヒドを受け取り、アセチルリポアミドとなる。次にアセチル基補酵素Aに渡され、アセチル補酵素Aができる。同時にアセチルリポアミドはジヒドロリポアミドとなる。

 リポ酸はジヒドロリポイルアセチル基転移酵素(E2)の特異的リシン側鎖に共有結合している。この補欠分子族(リポアミド)は、長く柔軟なポリペプチド鎖の末端にあるため、酵素複合体のある活性部位から別の活性部位へ移動できる。リポ酸はある種の微生物(原虫)には必要であるが、動物にとっては不可欠ではない。

[有馬暉勝・有馬太郎・竹内多美代]

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化学辞典 第2版 「リポ酸」の解説

リポ酸
リポサン
lipoic acid

(R)-1,2-dithiolane-3-pentanoic acid.C8H14O2S2(206.32).チオクト酸ともいう.ビタミンの一種.リポ酸は広く生物界に存在し,乳酸菌や原生動物の発育因子として研究され,ウシの肝臓から結晶として単離された.その後,合成により構造が確立された.淡黄色の板状結晶.融点47.5 ℃,沸点160~165 ℃.+104°(ベンゼン).ラセミ体より光学分割して得た(S)-リポ酸は生物活性を示さない.吸収極大は1,2-ジチオラン環にもとづくλmax 332 nm(ε 150,エタノール)を示す.有機溶媒に易溶,水に不溶.リポ酸は固体の状態では比較的安定であるが,融点近くに加熱するか,溶液の状態での光,とくに H の存在において迅速にゴム状または樹脂状の重合体を与える.種々の還元剤の作用で6,8-ジメルカプトオクタン酸になり,酸化によりスルホキシドを生成する.リポ酸は,種々の酵素やビタミン B1 の補酵素として,電子伝達に関与している.チアミン二リン酸(TDP)と共役して,ピルビン酸がアセチルCoAに酸化的に脱炭酸されるときにアセチル基の伝達を行うなど,アシル基の伝達に関与している.ほ乳動物は腸内細菌が合成したものを利用しているので,欠乏症はみられない.[CAS 62-46-4]

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栄養・生化学辞典 「リポ酸」の解説

リポ酸

 C8H14O2S2 (mw206.33).

 チオクト酸ともいう.ビタミンB群に含める場合があるが,欠乏症状は知られていない.また飼料へ添加した場合効果の報告もない.アシル基転移を触媒するピルビン酸デヒドロゲナーゼなどの補酵素として働く.⇒リポアミド

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百科事典マイペディア 「リポ酸」の意味・わかりやすい解説

リポ酸【リポさん】

チオクト酸とも。分子式はC8H14O2S2。融点47.5℃で,有機溶媒に可溶。微生物の発育因子で,肝臓や酵母に含まれる。アシル基転移に働く補酵素の一つで,脱水素酵素のリシン残基とアミド結合して脱水素酵素複合体分子を形成し,ピルビン酸やα‐ケトグルタル酸を脱水素してアセチルCoAまたはスクシニルCoAにするなどの反応に関与する。

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