日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
リチャードソン(Sir Owen Willans Richardson)
りちゃーどそん
Sir Owen Willans Richardson
(1879―1959)
イギリスの物理学者。ヨークシャーのデューズベリ生まれ。ケンブリッジ大学卒業(1900)。1913年王立協会会員に選ばれ、1914年ロンドン大学教授。1924年王立協会教授を兼ね、1939年ナイトに叙せられる。1916年、高温物体からの熱電子放出理論の基礎を確立し、ラジオなどの真空管の改良に貢献、この業績によって1928年のノーベル物理学賞を1929年に受けた。二極真空管において両極に電圧を加えて、陰極の金属を加熱すると、金属から熱電子が放出され、陽極に引き寄せられる。その結果、両極に電流が流れる。この電流は陰極の温度に応じて増加するが、ある温度以上では電流は飽和する。この飽和電流値(Is)と陰極温度(T)、金属の仕事関数(∅)の間には、リチャードソンの近似式Is=AT2exp{-∅/(kt)}が成立する。ここでkはボルツマン定数、Aは普遍定数(リチャードソン定数ともいう)で、金属ではほぼ120A・cm-2・K-2の値をもつ。この式は金属の熱電子放出の物質依存性が仕事関数だけで決まることを意味する。これはエジソンが発見した熱電子放射をさらに発展させたもので熱電子管の基礎的な原理を確立した。
[武澤 隆]